東京大学ISK pre. 新歓LIVE「若草」ライブレポート (2024/04/25)
東京大学出身のバンドの結成・活動を支援するサークルとして2024年1月に結成された、東京大学ISK。そのお披露目も兼ねた新歓ライブが、2024年4月25日にRinky Dink Studio下北沢の2Fを借り切って行われた。出演バンドは7つ、それぞれ異なるバックグラウンドから多彩な音楽性を持つ。
ステージは20帖と16帖の2つ。仕切りのない完全なフロアライブとして行われたため、観客と演者の距離は2mも離れておらず、臨場感のあるライブとなった。
各バンドの持ち時間は25分。片方のスタジオで演奏が行われているうちにもう片方でリハーサルが行われ、前のバンドが終わったタイミングで次のバンドが準備を完了している。そのため、18:45の開演からほとんど間断なく演奏が行われた。
対バンとの時間的な近さ、観客との空間的な近さにより、バンドと会場全体が火花を散らした。
zattana monsa
20帖スタジオから口火を切ったのはzattana monsa。
バンドを通底する「都市問題」というテーマに違わず、バンド編成と打ち込みを共存させた都市的な音像とリズムが特徴。3人ものコンポーザーを擁し、メロディも楽曲の色も多様だ。
同期にギターのカッティングと精密なリズム隊を合わせたタイトな骨組みが、キャラクター性の強いVo.みを支える。
4曲目「レイニーハート」からゲストであるVln.永田彩羽が登場。凛々しい立ち姿から放たれるバイオリンの存在感溢れる旋律は、時にボーカルと並立し時にソロを張り、楽曲を多様に彩った。同じ楽器が都市の猥雑さと気品のどちらも演出できるところに、このバンドの編曲へのこだわりが垣間見える。
MCで触れられた通り、フロントを張る女性陣が白、バッキングを行う男性陣が紺というコンセプトで衣装を合わせており、アーバンな統一感がバンドの雰囲気を作っていた。
最後の曲は、新曲「カウントダウン」。打ち込みの電子音による細かいアルペジオと、バイオリンの音色がはらむ一種の神経質さが緊張感を演出し、ボーカルの表情を引き立てる。
トッパーとして、その技術と編曲でイベントを勢いづけてくれるライブだった。
セットリスト:
①クラウデッド・トレイン
②インシデント
③ジレンマ
④レイニーハート
⑤シブヤ・ステーション
⑥カウントダウン
あさぼらけ
東京大学FGA出身の4ピースバンド、あさぼらけ。今年4/1にリリースした1stシングル「未来少女/たしか」を引っ提げて、16帖スタジオのトッパーを飾った。
白状すると、筆者はこのバンドを一番の目当てにこのライブに参加していた。1stシングルの楽曲「未来少女」のメロディセンスと完成度にアンセムとなりうる可能性を感じ、間近で見てみたかったのだ。
リズム隊のアイコンタクトや曲中のキメなども印象的。歌心で文字通り曲をリードするフレーズを淡々と弾くGt.高林、真っ直ぐな歌詞を真っ直ぐに歌うGt.Vo.相田に対し、荒々しく弾くBa.Teitoとフィルインの際に笑顔を見せるDr.尾形のリズム隊が好対照を成し、ライブバンドとしてのあさぼらけの姿を見せていた。
そして最後の曲、「未来少女」。イントロ、Aメロ、リズムが大きくなり、Ba.Teitoが絶叫する。
“止めてくれ!”
サビに入り、客席から拳が挙がる。
ブレイクを挟んでGt.高林のソロ。ギターのフレーズが燃え、曲はサビを繰り返して終わりまで走り抜けた。
次のライブは5/23(木)、下北沢ReGにてSEASIDE CIRCUIT 東名阪ツアー「カイシンの弎連戦-東京編-」。ぜひ、あさぼらけの真っ直ぐさをライブで正面から受け止めてほしい。
セットリスト:
1.たたかうミュージック
2.たしか
3.輪郭
4.未来少女
Imaginary Plan
男女ツインボーカルとアルペジオを主軸とした繊細かつダイナミクスに富んだ演奏に、出会いと別れを描いた物語的な歌詞を乗せた楽曲をもつバンド。
新曲「幻視でもいい」のギターストロークが始まりを告げる。柔らかい音色のアルペジオと特徴的なスネアロールで作り上げられる繊細な世界に、Ba.Vo.原が低いコーラスに支えられて歌う。
MCでGt.山本が23歳の誕生日であることを明かすと、温かい拍手があった。「オリバンを始めるに早いも遅いもない」と、山本は語り、照れ笑いをした。
Ba.Vo.原は、生まれて初めて自分が歌う曲を書いてもらったことがうれしかったと、コンポーズにおいて影響を受けているボーカロイドになぞらえて語った。誰かのカバーでない、オリジナルをやることは満たされる行為であると、原は笑顔で話した。
2曲目「海内回帰」からメインボーカルがスイッチする。Gt.Vo.稲田が、海のように溶け合うことは決してない二人を歌う。最後の曲「散逸」ではBa.Vo.原がコーラスに加わる。それまで抑えていたギターが歪みを踏み、感情が溢れるようにクライマックスを迎える。
セットリスト:
1. 幻視でもいい
2. 海内回帰
3. 散逸
ひぐらしず
プログレッシブ・マスロックバンド、ひぐらしず。2022年秋に高校同期二人で結成、その圧倒的な個性は駒場におけるオリジナルバンドの波を引き起こした。
開演前、観客の視線はドラムス後ろのホワイトボードに書かれたセットリストに集まった。ひぐらしずを知らない人は期待を煽られ、ファンは新曲の多さに驚く。
1曲目の「Deforestation」のジャムが始まった瞬間、観客はざわめいた。ギターの音が明らかに大きい。これまでのバンドより数段大きい。ドラムスはマイキングを特にしていないのに、それに最適な音量で応える。2つの楽器の音のみで、パンパンに客の入ったスタジオが低域から高域まで埋め尽くされる。
2曲目「PARK」に入り、それらの圧に全く埋もれないボーカルが明らかになる。二人という編成のなせる自由度だ。
3曲目「横顔」に至り、リズムの伸び縮みするAメロから轟音カッティングギターソロに入ると、大きな歓声が上がった。
普段はMCをしないことにしているGt.Vo.あらしょうが、今日はしてしまうほどにバンドも調子がよかった。ベースレスかつ変拍子であるのに観客も踊らずにはいられない熱気があった。短いMCののち、ひぐらしずは嵐のように走り抜けた。
この2人、このバンドなら何でもできるし、何でもしてよい。バンドというものの存在感と自由を感じさせるライブだった。
ひぐらしずは、6月9日、東高円寺 U.F.O. CLUBにて「RINGOOO A GO-GO 2024 関東1次審査」に出演する。その他にも多くライブを行っているので、最小の編成から繰り出される最大熱量を観に行こう。
セットリスト:
1. Deforestation
2. PARK
3. 横顔
4. 足
5. Java
6. 手
7. 喫茶
ドデカサッテ
zattana monsaでもコンポーザーとドラムを務めるTカツが率いるもう一つのバンド、ドデカサッテ。
今回はKey.神が不在のライブ。Vo.いとまゆはキーボードなしでのライブは初めてと話していたが、それを感じさせない音を出していた。Key.神が通常ソロをとる1曲目「インディファレンス」では、Gt.だーそんがブーストの利いたワウギターを差し込み、肉体的なノリを強調した。
3曲目「朱い人」では、Ba.るーくんがベースソロを取った。MCで紹介されると、4曲目「カナリア」でも取り、ダンサブルな曲に起伏ある展開を作った。
変拍子でねじれた楽器隊のループのうえに、それを乗りこなすリードギターとボーカルが乗る。奇を衒わない音色や王道のコードをリズムによって極限までスクリューアップする様は、変拍子ファンクバンドとでも評すべきか。新曲を聴いてもとても肉体的な音で、間違いなく踊れる。
もうすぐ音源が出るとだけ言い残し、6曲目「水光落暉」の明るい7拍子のリフが刻まれる。観客は聴きながらノリ方を覚え、身体を自由に揺らす。最後のサビで楽器隊とボーカルが複雑に絡み合うのを、観客は突然の4拍子に戸惑いながらも目を輝かせて観ていた。
次のライブは6/29(土) navey floor AKASAKAにてスリーマン。初ライブの地、デイイベントでトリを務める。踊りに行こう。
セットリスト:
1. インディファレンス
2. You know?
3. 朱い人
4. カナリア
5. イコサヘドロン
6. 水光落暉
Hanao
今回が初ライブの3ピースオルタナティブロックバンド、Hanao。東大FKENの2年生の3人が昨年12月に結成した。
矛盾した言い方だが、オルタナティブロックの正道だった。全編英詞、無表情な、ダークさを感じさせるリフの中で、暗い熱情が渦を巻いている。
ライブはギターのペグを回すリフで幕を開ける。不安定なギターの音程とリズム隊の重さが印象を残す1曲目から、ブライトかつアップテンポなギターストロークの上でGt.Vo.竹内楽之心が絶叫する2曲目に入ると、バンドとして舞台に立つのが初めてにもかかわらずHanaoは完全に場を掌握していた。攻撃性を剥き出した音で暴れるフロントマンを重心の低いリズム隊が受け止め、スリーピースの本領を発揮する。
間断なくステージがつながる3時間で暖まった観客、フロアライブの至近距離。初舞台にてHanaoは早くも化学反応を起こした。次のステージは五月祭、東大FKENの企画で11:55から開演する。
セットリスト:
1. Bedtown Living Room or a Weird Guy Drowning in the Puddle
2. Just Adult
3. Like a Pillow
4. Wet Water Width
Nano Raccoon
今回のイベントの大トリを飾ったのは、東京大学FGA出身の轟音エモ・シューゲイザーバンド、Nano Raccoon。
直前までの客席との雑談や、シールドの断線というアクシデントを挟んで弛緩した空気をGt.倉田健吾が切り裂いて始まる。
1曲目「I let you go」と2曲目「Underneath」が連続して演奏され、MCが入る。Vo.布施はハイテンションになっていると語った。オーディエンスに周りをぐるりと囲まれて、対バンの同輩が大きな音を出しているのだ。そうならないわけはない。
オーディエンスとの暖かい会話の中、チューニングを終えて3曲目が始まる。ツインギターの絡み合ったフレーズが印象的な4曲目「Pizza」では、ブリッジでブースターが踏まれるとオーディエンスから歓声が上がった。
Vo.布施はMCで、東京大学ISKを「一緒に作っていきましょう」と話した。3時間休みなく続くライブの熱を共有した観客から、あたたかな拍手があった。
ラスト2曲が始まり、大きくて暖かみのある音の塊が観客を揺らす。この日最後の曲「envy」では、もはや観客たちは演者のエフェクターを踏んでしまいそうなくらい前進していた。熱気に呼応するようにVo.布施は叫び、エモーティブなリフが空間を満たす。轟音と感情が最高潮に達してライブは大団円を迎えた。
6/15、Nano Raccoonは新宿SUNFACEでの自主企画を行う。対バンとして、今回も出演したひぐらしずや金沢のバンドを呼ぶ。主催する企画でNano Raccoonがどのように化学反応を起こすのか、今から楽しみだ。
セットリスト:
1. I let you go
2. Underneath
3. Large room
4. Pizza
5. Kanto
6. envy
終わりに
あまり大きくないスタジオで、ぎゅうぎゅうに観客が詰まった中でのライブ。音が鳴り出した瞬間から大きな熱量が生まれ、一曲一曲ごとに増大していった。次のライブも、よいものになるに違いない。
今年度、東京大学ISKはいくつかのライブを企画している。直近では、6月末〜7月にソロ出演も可能なミニライブを計画している。
また、未だ企画段階にはあるが、年度末には駒場小空間でフェスを行うことを予定している。大きなお祭りにする予定なので、読者諸氏も手伝ってくれると嬉しい。
東京大学ISKは新入生をいつでも受け付けている。バンドを既に組んでいる方はもちろん、これから組む方や組みたいと思っている方も歓迎。加わりたいと思った方は、TwitterやInstagram、メール(utokyo.isk@gmail.com)に一報入れてほしい。
Written by あき本
Photo by 中野翔太
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