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気候変動を懸念する人ほど、原発を「支持しない」という研究


気候変動と原発

気候変動の緊急性が叫ばれる中、原発に対してこの国はどう向き合っていくべきなのでしょうか。

2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ、2030年の46%(~50%)削減が表明され、国の気候変動対策が強化されていく中で、これはますます重要な問題になっていきます。

原発を使い続けることのメリット・デメリットについては様々な論点から考えることができますが、少なくとも、

1.温室効果ガス削減につながるのは事実
2.ただ、脱炭素社会を作るのに必要不可欠とも言い難い(実際に原発に依存せず再エネ中心で削減目標を達成するシナリオ・試算は存在する)
3.だから、是非はともかく、原発を使う道を選ぶこともできるし、そうでない道を選ぶこともできる

ということは言えるでしょう。

だからこそ、最後の最後で重要なのは、「世論(=私たち)が原発をどの程度受け入れるのか、あるいは、はっきりと拒否し違う道を選択するのか」ということです。

では、気候変動への危機感が高まっていく中で、原発に対する世論はどうなっていくのでしょうか

一見、気候変動になりふり構わず対策していこうというムードが生まれれば原発への支持は上がっていくと思うのが普通でしょう。

しかし、気候変動に対する懸念と原発への支持の関係について検証した、複数の研究を見てみると、そうとも言えないようなのです

むしろ気候変動への懸念が高まる中で、原発への支持が「低下」することすら考えられます。

このnoteでは原発推進派でも反対派でもぜひ知っておくべき、「気候変動と原発への支持の関係」とその理由について紹介します。


気候変動を懸念する人ほど原発を支持しなくなる?

検証をしたのはドイツ、フランス、イギリス、ノルウェーの4つの大学・研究機関からなる研究チーム(Sonnberger et al, 2021)。

その4か国から、それぞれの国全体を代表するようなサンプルを集め(学歴や性別、経済状況などが偏らないようにして)、気候変動への懸念、原発への支持などについて質問し、その結果を分析しました。

結果として分かったことの一つは、気候変動に対する懸念が高いほど傾向がどの国にもみられたということ。

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気候変動に対する懸念(横軸)と原発への支持(縦軸)の関係。
(Sonnberger et al, 2021)

驚くべきなのは、その傾向が、大々的に脱原発を進めているドイツにのみ見られるのではなく、4か国すべてで見られるということです。

原子力に大きく依存するフランス、脱原発を進めているドイツ、(政府としては)再エネとともに原発も推進しているイギリス、研究用以外の原発を一度も持たなかったノルウェー、といったように、4か国の原子力政策はバラバラです。

にも関わらず、程度の差こそあれ、気候変動の懸念が高いほど原発も支持しなくなるという傾向が共通しているのです。

しかも、同様の傾向は他の研究でも確認されています。

例えば、Spenceらの研究チームは(2010)、イギリスにおいて、気候変動の懸念が高いほど再エネの支持は高い一方で、原発の支持は下がるということを報告しています。(これは福島第一原発事故の前に行われた調査であり、事故の影響を受けたものではないというのも興味深いです)

欧州ではなく、日本ではどうかというと、日本では「気候変動(温暖化)に対する懸念」が原発の支持に与える影響そのものを検証した研究で、査読を経たものは見つかりませんでした(自分のリサーチ不足かもしれません)。

一方で、環境問題全般に対する意識が原発の支持に与える影響については、辻川らが分析していて(2016)、2011年の調査では、環境保護志向が高い人ほど(New Ecological Paradigm尺度の得点が高い人ほど)、原発への支持や、原発を取り扱う主体(政府や電力会社)などへの信頼が低いことが報告されています、

なぜそうなるのか?

では、なぜ、このような傾向が見られるのでしょうか。

一つ挙げられる理由は、気候変動に対して懸念を抱く人は気候変動だけでなく環境問題全般への懸念が高いことが多く、そういう人は原発のデメリットにも敏感だろうということです。

原子力は確かに温室効果ガス削減につながり、気候変動には良いでしょうが、放射性廃棄物は次世代に大きな負担になると考えられますし、事故が起こった場合などには環境が汚染されます。

だから、環境に関心が高く、次世代の人の生活を守りたいと考える人がそれを避けようとすることそれ自体、何も不思議なことではありません。

実際、1990年ごろに温暖化問題が関心を集める前は、環境運動や緑の党は、気候変動よりもまず脱原発に注力していていたという背景もあります。

また、個人的に理由として考えられると思うのは、気候変動に関心を持つことで、再生可能エネルギーについて深く知るきっかけになり、そのポテンシャルに触れることができるため、原発への支持が結果として下がったという可能性です。

実際、気候変動に関心が高いほど再エネへの支持が高いことを示す研究は多いですし、自分も気候変動に関心を持ったことで、「再エネは変動するから火力によるバックアップが必要」だとか「再エネで電力需要を100%賄うことは物理的に不可能」といった言説が相当疑わしいものだということが知ることができました。(興味があれば下のリンクの本がおすすめです)

理由がどうであれ、気候変動への懸念が原発の支持につながらないどころか傾向としては、むしろ原発の支持の低下と関連があるということは社会的に大きな意味を持ちます。

この知見の意義

原発推進派の視点で見れば、気候変動が進み、危機感が高まっていくことで、自然に原発が容認されていくと考えるのは甘い、ということを意味しています。政府レベルでは原発推進への回帰の動きありますが、世論がそれについてくると考える根拠は今のところ十分ではありません。

それはつまりもし原発を稼働しようにも根強い反対で止められ、進まないということはこれからも起こると考えた方がいいでしょう。

当然信頼回復等が必要でしょうし、もし政策として原発依存を続けると決めたとしても、原発が十分に展開できなかった場合にも対応できるようなシナリオも用意すべきだと考えられます。これは国際エネルギー機関(IEA)も指摘していることです。


一方、原発反対派の視点から見ると、気候変動に対する危機感が高まることで、原発が支持を伸ばすということを過剰に恐れる必要はないということです。

このnoteを書くために日本での研究がないか調べた際、原発に反対するあまり、「気候変動の原因が人間による温室効果ガス排出である」ということさえ否定してしまうような論考がちらほら見られました。

これはとても悲しいことです。焦点になるべきは気候変動対策をするかどうかではなく、それが原発依存で行われるべきか否かでしょう。

将来社会を守るためには気候変動対策を進める必要があるからと言って、必ず原発に大きく依存した道を歩まなければならないわけではありません。

実際に、再エネ拡大とエネルギー効率化(省エネ)を徹底して行うことで、再エネ100%の脱炭素化を目指すシナリオ.・試算は存在します。

ただ、こういった野心的なシナリオは、私たちがその未来を切に望み、戦略的に動かなければ実現できない類のものであるのも確かです。

日本でも高まりつつある気候変動に対する危機感は、その未来を求める推進力の一つになるのかもしれません。


参考文献

Sonnberger,M., Ruddat,M., Arnold,A., Scheer,D., Poortinga,W., Böhm,G., Bertoldo,R., Mays,C., Pidgeon,N., & Poumadère,M.(2021). Climate concerned but anti-nuclear: Exploring (dis) approval of nuclear energy in four european countries. Energy research & social science, 75, 102008.

Spence,A., Poortinga,W., Pidgeon,N., & Lorenzoni,I.(2010). Public perceptions of energy choices: The influence of beliefs about climate change and the environment. Energy & environment, 21, 385-407.

Tsujikawa,N., Tsuchida,S., & Shiotani,T.(2016). Changes in the factors influencing public acceptance of nuclear power generation in japan since the 2011 fukushima daiichi nuclear disaster. Risk analysis, 36, 98-113.

画像はAyumu Kawazoe

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