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M師の夢《Dream Diary 30》


xxxx年05月25日(x)


 Mさんは私が昔お世話になった仕事上の師である。それは街の三叉路の道祖神にハッタイ粉をまぶして歩く仕事だった。久し振りにそのMさんに呼ばれて出掛けたのだが、お宅に着いたのは朝の六時頃だった。いささか早過ぎたようだ。玄関先でMさんから、あらためて一時間後の七時に来てくれと言われた。さて何処で時間を潰そうか。久し振りにハッタイ粉でも浴びに行こうか。道路に出ようとした時、現在の仕事の師であるSさんからも、七時に来るように言われていたことを思い出した。それは巨大なモルフォ蝶の鉄のサナギから、アイアンバタフライを孵化させる仕事だった。Mさんが言った時間とかち合ってしまう。どうしよう困ったな。するとMさんの部下のKさんが、Mさん宅の二階の外階段から降りて来た。私はKさんを呼び止めて、七時に訪問できなくなった事をMさんに伝えてもらおうと思ったのだが、なかなか切り出すことが出来なかった。かつて私は、ハッタイ粉を三叉路の道祖神にまぶす仕事はあらかたマスターしたと思い、鉄のサナギをアイアンバタフライに孵化させる今の仕事に転職したのだ。そろそろMさんとは疎遠になった方がいいのかも知れない。私はそう思い始めた。しかしハッタイ粉を三叉路の道祖神にまぶす技術の基礎があってこそ、巨大なモルフォ蝶の鉄のサナギから、アイアンバタフライを孵化させる技術を習得できたのだ。今の私があるのはMさんあってこそであり、ハッタイ粉あってこそ、道祖神あってこそなのだ。Mさんへの感謝の気持ちを忘れてはならない。だが、ハッタイ粉を三叉路の道祖神にまぶすことよりも、モルフォ蝶の鉄のサナギからアイアンバタフライを孵化させることの方が、社会的価値が高い事業であることも明らかだ。私は七時にMさんのお宅へ伺って恩義に報いるべきか、それともSさんの呼び出しに応えるべきか、どうしても決め兼ねて街の三叉路に座り込むと、道祖神となって全ての厄介事から精神的にトンズラできる呪文を唱え始めた。In-A-Gadda-Da-Vida、In-A-Gadda-Da-Vida、ガダ・ダ・ヴィダ‥‥。Kさんが私にハッタイ粉をまぶしている。
 

 


IRON BUTTERFLY 『IN-A-GADDA-DA-VIDA』

https://www.youtube.com/watch?v=ZCkHanF4v1w

『アイアン・バタフライ』。何故かこのバンドの名前が夢に出てきた。
サイケデリック・サウンドが流行っていた昔々のバンド。
代表曲の邦題『ガダ・ダ・ヴィダ』。 どんな曲かすっかり忘れていた。
『はったい粉』。何故か子供の頃から気になっていた物質。
砂糖と混ぜて水で練って食べた記憶あり。田舎は気の利いたお菓子が無かった。




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