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The Wind Began To Howl!

白いコーヒーカップが
モジモジしている様子なので
私はどこか痒いのかと思い
指先でひとしきり掻いてやった
すると紫色の煙が立ち昇り
ガラケーの着信音みたいな
安っぽいファンファーレと共に
ジミヘン魔神が姿を現わした
願いごとを叶えてくれるらしい
だったらさえないファンファーレを
あのウッドストックで演奏した
『スター・スパングルド・バナー』に
変えてもらえないか頼んでみよう
すると前のテーブルの町内会長が
「ジミヘンなら『紫のけむり』だぞ」
さもそれが当然のような口調で言う
しかし隣りのテーブルのセールスマンは
「『ブードゥー・チャイルド』の方が
タイトルが魔術っぽくていいな」と言う
「そういうことなら『スパニッシュ・
キャッスル・マジック』もありますわ」
これは奥のテーブルの人妻けえ子
「私は『リトル・ウィング』がいいわ。
フィギュア・スケートの音楽にも
こないだ使われてたじゃない?」
こっちはレジを打つウェイトレス
「『リトル・ウィング』のイントロは
おとなし過ぎると思うけどなあ」
パンを焼きながら疑問を口にする店長
「じゃあデレク&ドミノスがカバーした
『リトル・ウィング』のイントロなら、
けっこう華々しい感じだし、いいかも」
私が小倉パンをパクつきながら言うと
「ああ、エリック・クラプトンね!
ジミヘンよりずっとハンサムだわぁ‥‥」
うっとり顔のウェイトレスとけえ子
この発言が聞こえたのがまずかった
すっかりつむじを曲げたジミヘン魔神は
ガラケーの着信音みたいな音と共に
瞬く間に消え失せてしまった
私がいくらコーヒーカップを掻いても
二度と現れることはなかった
こりゃマズったわいと一同
ルックス関係はタブーだったか
でもジミヘン格好いいけどなぁ
ライバル意識の問題ですわ
みんなで万感胸に迫っていると
カップの中で風が吠え始めた
『ウォッチタワー』の最後の歌詞だ
The Wind Began To Howl !

(ギターソロでフェイドアウト)


*マガジン:「コーヒーショップの物語」
*「ウォッチタワー」:正式な曲名は「All Along The Watchtower」(ボブ・ディランの曲のカバー)

画像1
*Eric Clapton & Jimi Hendrix

 
  


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