見出し画像

窓越しの世界・総集編 2016年5月

5/1【再生の始まり】
もうずいぶんと色々な事を諦めてしまった気でいる。しかし、諦めてしまうということは悪い事ばかりではない。

なんだか力が抜けて、私の音楽の中に祈りの気配が漂って来ている。そしてその感覚は懐かしく、ずっと前からそこに居たような、帰って来たような、新しい場所のような。

再生の始まり。


5/2【人がいるだけで】
4車線の一方通行。300円の路側パーキング。隙間の無いビル街。

街路樹の根元に見える僅かな土の下にもコンクリートの塊が想像できる。

それでも、人がいるだけで、温かみのあるいい風景になる。


5/3【時の足】
時計の針がなかなか進まない。

教室で時計の針を見つめていた頃の感覚と似ている。

そんな状況を意識し始めると、時は途端に足をつけて走り去ってゆく。


5/4【私の憂鬱】
夜のドライブ。良くない気分が、不思議と晴れて行く。

後ろへ飛んでゆく景色が、私の憂鬱も連れて行ってくれるみたいだ。
 

5/5【私もあなたも】
珈琲店は休日なのだけれど、気まぐれに看板を出す。

こんな日は、だれも来なくたっていい。

今日は、私もあなたも、この場所にもてなされている気分。

5/6【場所の効果】
珈琲をすすりながら近況を交換。あれから季節は何度も行き、久しぶりにゆっくりと言葉を交わす。私も彼も少しずつ変わっている。

しかしありがたいことにguzuriのテラスを行く時の流れ方は穏やかで、二人のタイムラグをさりげなく縮めてくれる。

場所とは、そういう効果を持っている。

5/7【栄養補給】
うなぎを食べる。というか食べなければという状況。鼓舞していかなければたちまちに立ち止まってしまいそう。ずっと気になっていた鰻屋で栄養補給。

5/8【100人前】
焼きそばを100人前も作っていると、けんしょう炎の兆し。

いやはや私は、壮大なツアーを前に大変な予定を組み込んでしまったものである。

5/9【ケツをもつということ】
安心していたこと。大船に乗っていたつもりが、そうではなかったという一日。

餅は餅屋という言葉が霞む。また明日から忙しくなる。

人に任せるという事は、ケツを持つということでもある。

5/10【トラブルだらけ】
タイヤの危機に気がつく、外環外回り。

路肩に停めた車を降りてタイヤを目視。バースト寸前である。本日タイヤ交換の予定だったのに、と嘆く。その後1時間以上高速道路上で待機。

ほんの数メートル先を時速100km以上の車が、びゅんびゅん行く。それに乗っている時と外で見るのでは、その物体に抱くイメージがまるで違う。

昨日からのトラブルは続いている。トラブルを回避に向かう途中でまたトラブル。首都圏を二往復。人生の中でもこんなに忙しない一日は滅多に無い。

杉並、三郷、足立、立川、瑞穂、入間、三郷、入間、杉並、死に物狂いである。
 

5/11【破壊と構築】
芸術とは、破壊と再生だ。などと言いながら、時間をかけて作り上げた内装をバラし始める。

若いスタッフの手も借りて、三人掛かりでの作業。日が傾く頃にはペンキ塗りの作業に入る。一人では、まるまる三日はかかりそうな行程が、どんどん片付いてゆく。

2年前にコツコツと作り上げたベッドも、クローゼットも全部取り払う。金も時間もかかっているが、金も時間もかからずに見る見る無くなってしまった。しかし破壊であると同時に構築でもある。再生という言葉よりもしっくりくる。


5/12【出発】
深夜2時、すこし湿度の高い入間市を出発。きっとアドレナリンが沢山でていただろうから、疲れは感じない。

今朝は、今日一日の事を考える事を辞めた。考えずに作業だけを進めなければ気持ちが持たなかった、などとは思わなかったが無意識にそういうモードに入ったのだろう。

まだ少しペンキの匂いがするエアストリーム。ついに走り出す。
 
5/13【代わる代わる考える】
入間から蒲郡、時速60km走行。ここまで辿り着いた事でとりあえずは安堵である。

全く未知のクルージングをしている。この先を考えると途方も無いが、この国ではまだ誰も経験した事の無いであろう無謀でやりがいのある旅だ。

アクセルの感触、ハンドルから感じる路面状況。否応無しに集中しざるを得ない。

今夜から始まる演奏の事に頭を切り替え始めるが、海風の心地よさと、塩風による車へのダメージをも、代わる代わる考える。

5/14【いつか歌になる瞬間】
角に丸みを帯びた窓ガラスに縁取られた海の風景。ヨットや貨物船、遊覧船が代わる代わる横切る。反対側の海に目をやると西日の強い照り返しが眩しい。もうじき太陽の色味も変わって、東から夜が始まる。

この瞬間がいつか歌になるのだろうか。そう思いながら歌っていた。

5/15【祭りの間に】
やっと辿り着いた露天風呂にも、最後のステージの音がこだましてくる。

蒲郡のリゾート地帯は、このイベントの為に存在しているのかのようだった。この景色のシンボルでもある大観覧車のライトアップも最後の音に包まれる。

店じまいばかりの中で見つけたタイラーメンの屋台。ひんやりとした海風と湯上がりの私たち。

祭りは祭りの間に立ち去りたい。出来るだけそうしたい。


5/16【おまかせ】
早朝の蒲郡を発ち、昼過ぎには京都から能勢への山越えに差し掛かる。銀色のトレーラーは、峠のヘアピンも、箱根級のアッウダウンもクリアして目的地まで辿り着いた。そこからは牽引車のバンで折り返し京都へ向かう。

宿へたどり着いて暫くすると雨。

鴨川沿いの居酒屋に腰を下ろす。雨の音と車の立てる水しぶきの音が、BGMの無い店内に響いてくる。

おでん種も、串盛りも、おまかせ。
 
 
5/17【言霊の源】
京都大学農学部キャンパスの裏手の住宅街。碁盤の目の外れの町並みで見たのは、ブロンドヘアーの少女が生粋の日本語で遊ぶ風景。

そして、六畳二間ほどの空間も、これから演奏が行われるようには思えない佇まい。

どちらも私には心地よい刺激となって、言霊の源となる。

5/18【よく眠れそう】
凸凹工房の夜は冷える。暖かい物をと、車を走らせコンビニへ向かう。夕方までは賑やかだったカエルたちも静まり、いつの間にか虫の音に変わっている。温泉で暖まった体も冷えてしまった。カセットコンロで湯を沸かしているとトレーラーの中もほんのり暖まり始める。空腹を満たすと目蓋が重たくなる。良く眠れそうだ。

明日は高知へ発つ。


5/19【取り残されたハイウェイオアシス】
夜間集中工事のため閉鎖された吉野川ハイウェイオアシス。どこか所沢の西武園を思わせる佇まいは、居心地の良さも悪さも混在する昭和の名残。

風呂上がりに駐車場へ出ると、工事車両だけの物々しい雰囲気だ。サービスエリアのコンビニも、今夜は停電とのことでもうすぐ店じまいらしい。暗いがここはかなりの崖っぷちである。その向こうには静かに流れを続けているらしい真っ黒な吉野川が見える。

明日は高知へ入る。旅はまだまだ始まったばかり。

 
5/20【ずっと】
背もたれの後ろに流れる川からはヒンヤリとした空気が心地よく漂ってくる。初夏めいた高知の炎天下をよく歩いたおかげで、生ビールがうまい。
 
カウンターに並ぶ私たちは、時間を忘れ、お財布との相談も忘れ、高知の恵みに身を委ねてしまった。

不思議な夜の感触が高知にはある。始めて来た時から、ずっと。

5/21【昼下がりの幻】
一週間前の海辺から、今日は川辺。

川を渡った涼しげな風に包まれていると、強い陽射しも心地よく、うっかり太陽を浴びすぎてしまいそう。
 
ステージの日陰で歌っていると気持ちが良すぎて、炎天下の人々と目が合う度に少し後ろめたい気持ちになる。

土けむりの向こうのかき氷屋の行列も、早仕舞いの食堂も、初夏の昼下がりの幻のような光景。


5/22【無意味な哲学】
「場所が人を作るのか。人が場所を作るのか。」

数百メートルに渡る日曜市は朝の光の中で輝き、地と時の恵みに満ち、豊かな歳月を感じるものだった。

塩っぽい温泉につかる私だが、もうすぐ演奏の時間である。ぼんやりと考えていたが、ふいに言葉を交わしたご老人の響きに、そんな哲学など無意味な光景だと思い行き当たる。

ご老人に頂いた気持ちで、今日は歌える。

 
5/23【日常と非日常】
穏やかな凪ぎに、ふいに波が立つ。ここからは見えないが、港に船が着くのだろう。防波堤に屯する猫達も、満ち潮の気配にそろそろ根城へ引き上げようとしている。

小豆島の夕暮れが始まる。

山に沈んだ太陽が、その向こうで美しいサンセットを繰り広げていそうなオレンジ。湾の方々で飛び跳ねるのはボラであろう。

つがいの渡り鳥がひと鳴きして飛び立つ。大きな翼が水面に触れるほど低いので感心して見届けていると、対岸への短い旅であった。

私の非日常は今、この島の日常に溶け込んでいる。
 
5/24【二人の輪郭】
見送る二人の輪郭が遠ざかる。小豆島から離れるフェリーの上から、いつかと同じような風景。

向こうから見える景色のことを私は知らないが、想像すると胸が熱くなり、またここへ帰って来ようと思うのだ。

5/25【私もその一人】
彼女の歌を待っているであろう人々のことを思う。私もその一人であることに気がつく。

長い夜を共にしながら、どこかへ連れて行ってくれそうで、どこへも行けないような。そんな温度が心地よい。

5/26【疲れた人に】
夜景の素晴らしいホテルは、ゲストハウスよりも低価格で駐車場も無料ときた。夕方になって雨になった岡山市内を抜け、山にそびえるホテルへ向かう。

テレビの中ではとんねるずが馬鹿騒ぎをしていて、私は安堵する。

私と同じように疲れた人に必要なのだろう。

5/27【ブレンドに酔う夜】
牛窪の港のレストランは、時が止まったかのよう。始めての場所なのに、勝手気ままに思い出が巡り出すのだ。

子供の頃に毎年訪れた伊豆の温泉街や、富士山麓にあるゴルフ場のレストランのモーニングだとか、初めて行ったバイキングの夜とか。

ホームシックとノスタルジーのブレンドに酔いながら歌う夜。

5/28【心配はいらない】
3年ぶりの友人は、変わらない笑顔で迎えてくれた。あの頃とは変わってしまったことだらけだけれど、私たちに流れる空気感は何も変わ
っていないと感じた。
 
ある思いを共有している実感が確実にある。そういう人とはこの先も繋がってゆける。

何も心配はいらない。

5/29【アンビリーバボー】
二度目の場所だというのに、妙な望郷感を覚えてしまう。たまにある、始めての場所でさえ生まれるその感覚が好きだ。

カウンターで生ビールを傾けながら、夕方のニュースが笑点へ移行する自然な流れに安らぎを感じていると、ゴボウの天ぷらが運ばれてきて、もう何も言うことは無い。

一曲終わる度に、カウンター席のお客さんから升酒が手渡され、呑む。歌う。

なんということだろうか。

5/30【まだわからない】
長い旅の中で、内面の何かが削ぎ落とされていくのを感じる。ただの疲れがそうさせているのかは、まだわからない。

日常が始まって暫くしてから、答えが出るのかもしれない。

5/31【復路へ】
歌声で疲れが癒えるのを感じて、音楽に感謝できた。この旅の、どの海辺よりも今日は風が強く吹いたけれど、心は静かだった。

たくさん手を振って、この旅も復路に入る。

蒜山サービスエリアに夜通し響くピアノの音のせいで、なかなか寝付けない。

昼間の心地よい流れのままには眠れず空が白みだす。

画像1

画像2

画像3

画像4

画像5

画像6

画像7

画像8

画像9

画像10

画像11

画像12

画像13

画像14

画像15

画像16

画像17

sasakura2019アー写

画像19

画像20

画像21

画像22

画像23

画像24

画像25

画像26

画像27

画像28

画像29

画像30

画像31

画像32

画像33


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?