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窓越しの世界・2018年7月の世界

7/1【乾杯】
僕らはこれから長い旅に出る。しかしそれが何の旅なのかをまだ知らない。

前菜にはプロシュートの乗ったメロン。口には出さなかったが、お互いに別盛りの方がよいと思っていたのだと、あとで打ち明け合った。

梅雨が明けて今年はもう、夏が始まっている。今日はまだ太陽が高い。

水の入ったワイングラスで乾杯。

7/2【4年ぶり】
水の中に入ると、毎日のようにプールに通っていたあの頃を思い出す。

あの頃必死に追いかけていた内層の筋肉にもう一度問いかける。

今はもっとたくさんのフィジカルが連動していることを知っているから、あの頃と違うことをたくさん感じる。

記憶の限りだと、4年ぶりの入水。

7/3【時間を意識する生活】
浅い眠りの中から感じる朝の気配。

目覚めてまだ7時だということが不思議たった。

1日のタイムテーブルを決めて、今日という日を漕ぎ始める。

時間通りにはいかないけれど、時間を意識する生活を始めてみる。

7/4【寝付けない夜】
寝つけない夜。

トトもなのか、暗闇の中でドタバタしている。

風が激しすぎて窓を開けるとやかましいし、閉めたら閉めたで蒸し暑い。エアコンをつけるほどでもない。

そうだそうだ、欲しかったのは扇風機のそよ風。いよいよ空が白み出してきてくる。

なかなか明るくならないから、今日は天気が悪いのだろう。

7/5【guzuriを整えると】
長い移動時間が育んでくれたものがある。

たまにそれを忘れて、時間の経過だけを恨めしく思ったりしてしまう。

guzuriを整えると、時間が持つたくさんの性質を思い出すことができる。

7/6【失敗のすすめ】
失敗とうまく付き合っていくこと。

それができ始めると、好転する。

失敗は、土壌そのものだ。

7/7【忘れられたカセットテープ】
実家にあるはずのカセットテープには、たくさんの過去が眠っている。曲のアイディア、たくさんの鼻歌と、作りかけのメロディー。
 
忘れたかった日々、忘れたくなかった思いがその中には吹き込まれているけれど、そんなものと向き合う機会を、わざわざ自分自身では作らないだろう。

この間からはじまっているドキュメンタリーの打ち合わせで、また一つ、忘れていたことを思い出させてもらう。
 
7/8【無くてはならない物】
創り出すことと、届けることは、イコールではない。

ただ、創り出すことと、届けたいという思いは近い。

僕の歌は、この世界に無くてはならない物では無いけれど、せめて僕だけには無くてはならない物だと信じたい。
 
7/9【夏雲のように】
アルファルトからの照り返しが夏の到来を告げている。乗り込んだタクシーがスタジオに着くまでの束の間。

夏というのは、いつだって、いつかの夏を連想させる。

緑豊かに整備された公園も、あの夏はまだ空き地だった。国有地と書かれた看板が何年も立っていた気がする。
スタジオの裏のコンビニにも、その頃は100円のコーヒースタンドは無かったから、氷の入ったアイスコーヒーはスターバックスとかフレッシュネスバーガーとかで買っていたはず。

今思えば、とても暇で、考えることは少なく、頭の中にはたくさんの余白があって、とてものんびりとしていた。

ぱっと見たら静止しているような、今日の夏雲のように。

7/10【DNA】
これまでに聞いたことのない唸り、威嚇音がして目をやると、見知らぬ近所の猫。トトは初対面かな。

本能の覚醒を目の当たりにした後、少しだけ胸の奥がくすぐったくなった。そして自分の中にある抑えきれない感情や衝動というものを、ここしばらく感じていないことに気がつく。

学び、成長するということは、賢く生き抜くための知恵であるはずだけれど、その分、本能からは遠ざかっているんだろうなと、自分の中にもあるはずの眠れるDNAのことを思う。

 
7/11【幸せな日】
数秒ごとに押し寄せる不安をかき分けながら音は進んだ。

なるようにしかならないと楽しんでいたけれど、これではダメだとも思っていた。

それでも、打ちひしがれずに進める強さだけはもっているから、また明日からやり直そう。

もちろん、とても幸せな日だった。
 
7/12【よく眠れる予感】
木肌の西側が苔むした街路樹から、季節の移ろいが匂い立つ。

午後になるとこのファミレスはママたちの女子会の会場になるからと、二つあるスペースの小さいホールを選んで席に着いた。

案の定、向こうのホールでは黄色い声が飛び交っている。冷房が肌寒いだろうからと、カーディガンを持ってきてよかった。

昨日までの日々で外に向かい過ぎたのか、今日はSNSも何もする気にはならない。反省点と次にすべき事だけが疲れた体に滲みはじめる。

時間と太陽だけが刻々と動く日。

夜はここだと決めていためし屋は、いつもの混雑とは程遠く拍子抜けだったが、時計を見るともう21時を回っていて納得。

おそい夕飯と少しのお酒。

自転車で切る風が心地よくって、今夜はよく眠れる気がした。

7/13【この寂しさがあれば】
目覚めると、激しい孤独感。夢で見ていた遠い過去と現在の隔たりに、心が追いついてゆかない。

少しずつ刻々と、あまりにも変わってしまったことが瞬間的に押し寄せると、日々消化し続けて来た痛みだったり喪失感が、こんなにも積もっていたのかと、驚かされる。

でもきっと、この寂しさがあるから、生きていける。

無くしてしまったものはいつまでも美しく、輝いている。

7/14【遠回りは一番の近道】
歌メロの音符を書き始める。まるで夏休みの宿題をしているかのように、地味で時間がかかる。

ただ、こんなめんどくさいことの積み重ねでしか人は成長しない。

遠回りは一番の近道。
 
7/15【選択肢】
屋根裏の熱気は夜になってもそのままで、寝苦しい。今年も米軍ハウスの夏がやって来た。まさかこんなにも長い間ここで夏を迎えることになろうとは。

でも思い出すのはいつだって最初の2年間だ。毎日バイトに明け暮れて、曲を作って、手探りの毎日が輝いていた。

今はどうだろう。

あの頃よりも、ギターも歌も上達したし、生活も豊かになった。けれど。「けれど」という気持ちがつづく。

この街に別れを告げるという、選択肢が生まれる。

7/16【夏の陰影】
休日の市役所は駐車場が解放されている。車を降りて通りへ出ると、街路樹の木陰でバス停のベンチが涼しげ。なんだか初めて訪れた街の景色のような気になり嬉しくなる。

冷房のよく効いた地下室と、踊り場から溢れてくる真っ白な光に今年初めて夏の陰影を感じて、なんだか少し心が動いた。

トトはまだ庭で遊んでいるかな?もう帰って来ているかな?
 
昨日今日とよく遊んだから、今夜はお風呂に入れないとな。

7/17【勉強は楽しい】
6時間もほっつき歩いたトトは、また薄汚れて帰って来た。

宿題というか自由研究のような譜面書きは相変わらず時間がかかり、瞬く間に日が暮れ、夜も更けていく。こんな風に時間を費やす感覚は久しぶりで、学生の頃のよう。
 
あの頃と違うのは、それが何の為になるのかよくわかっているということ。勉強は楽しい。
 
今夜もトトはお風呂行き。そして、なぜだかとても甘えん坊。
 
7/18【脱帽】
早起きをして譜面を書く。随分と慣れてきた。プリントアウトして歌ってみる。

昔から音符はあまり好きではなく、とにかく自由に音を追いかけていた。感覚で覚えたものを頼りに。地図を持たない旅人のように。行き先を本能で察している鳥のように。

音の地図を広げると、これまでよくやってこれたな、、という思いしかない。目隠しで、耳だけを頼りに進んで来たことに、知ってはいたけど気がついて、自分の向こう見ずな性格に、ある意味脱帽。

ただただ脱帽。

7/19【投資】
まだ太陽が顔を出さない朝。少し曇り空。ひんやりとまではいかないけれど、涼しい空気の朝。

トトもまだ眠りの中。この静けさは僕だけのもので、ここ数日はこの時間に譜面をおこしている。でも結局一曲完成するのは午後になってしまう。

そのあとはとにかくギターを弾く。

自分を磨くことが一番の投資だと思うから、今日もその他のことには目もくれない。

7/20【夏休みの学生気分】
昼間にホームセンターで買ったよしずが、涼しさを演出している。風でなんどか飛ばされそうになったけれど、補強したから一安心。
真夏のホームセンターは季節感満載で、猛暑を乗り切る工夫を求める人たちで賑やかだった。いかにも夏!だった。

さっきスーパーで買ってきたアボカドとサーモンをマヨネーズで和える。帰り道でビールを一本空けているので、もうすでに、ほろ酔い。

毎日毎日、ギターの練習や譜面の作成に明け暮れていて、僕は夏休みの学生のようだ。
 
7/21【僕のお守り】
ある日突然できるようになる。毎日やっているとそんな日がやってくる。

テニスの東海大会で優勝した日は、そんな日だった。朝の練習で、いつもと違う自分に驚いて、驚いているうちに優勝した。
決勝戦は不戦勝だったけれど、優勝は優勝。

僕がこんなにも意味の無さそうな毎日を信頼できるのは、あの日があったからだと思う。

昔の僕は、今の僕のお守り。

 
7/22【研ぎ澄ます必要】
携帯を持たずに出かけると、なんだかすごく気分がよい。

視界がクリアで、目の前にあるものだけが全てだと思える。

スマートフォンから得られる遠くの物語も嫌いではないけれど、こうしてここにあるものだけと向き合う時間の必要を感じる。
 
若くて多感だった頃、ポケベルが携帯に変わり、ただそれだけだった頃。携帯すら持たないことを試みた。

もう一度、研ぎ澄ましてみたい。

7/23【手紙】
何気なく見かけた雑誌には昔の友達。

そうか今はそんな生活をしているのか、と胸が熱くなる。

なんだか、手紙をもらったみたいな気持ちになり、心の中で返事を書く。

僕はね、いろいろあったよ。僕はね、まだ今も歌っているよ。

7/24【眠れない夜】
日が暮れてしばらくすると、久しぶりの雨。思わず裸足で外へ出ると、足元に雨が跳ねて心地いい。

どの夏も変わらない、暑い日のアスファルトの濡れた匂い。隣街も雨に霞んで見える。すぐに去っていった雨雲のあとでも
気温は下がらず、寝苦しい。

明け方、目が覚めてしまい眠れず、とにかくギターを弾く。

硬い鉄の弦が指先を滑る心地よい感覚が戻ってきている。

7/25【12年目の花火】
入間に着くと雨上がりの様子。またすぐに雨が降ってきて、都心との天気の違いを感じる。

自衛隊の納涼祭の花火は12年目にして初めて、まじまじと見た。雨上がりの少しひんやりとした空気も感じながら、
僕は音楽以外のことを手放していこうと決めた。

決めたけれど、手放すのには時間も体力もかかる。ゆっくりと少しずつ、手放していこう。

7/26【夕涼みの街】
テラスから心地よい風が入ってくる。僕もトトも寝転んで夕暮れの空気を楽しんでいた。早過ぎた夏の到来で、8月にも満たないこの時期なのに、猛暑はもうこりごり。

夕涼みに出掛けた街で知り合いに会うと、なんだか嬉しくなった。隣町だけれど自転車で来れる距離感がいい。夕食を済ませ店を出ると、ひとしお今夜の涼しさを感じて、また嬉しくなる。
 
眠い目で自転車を漕いで、近所のスーパーに入ると、こないだまで心地よかった冷房が、寒い~となる。

今夜はすごくよく眠れそう。

7/27【宿るビート】 
夜道を歩きながらのキンキンに冷えたビールは格別なので、スーパーマーケットを出てすぐさま栓を開けるのが習慣だったけれど、今日の涼しさはなんだか拍子抜け。

さて。

今日の課題は楽曲の裏に宿っているビート。音楽には音になっていないグルーブが存在するけれど、ひたすらそれを解読する。

空気みたいに、確実にある。見つけるたびに、なぞなぞを解いた後のような充実感があり早くバンドで共有したい。

7/28【人の人生もしかり】
天気図を見て驚く。今回の台風、東からやってくるとは。

いよいよ天変地異の始まりを見た気がするが、地球の長い歴史を思えばそれもまた自然の摂理なのではないなと、問題をはぐらかしてみる。

思いもよらない出来事というのは、ある日突然やってくるように見えるけれど、実は毎日少しずつ忍び寄って来ている。

人の人生においてもしかり。
 
7/29【土の中】
この12年で溜め込んだ物量に目眩がする。いつかはやるだろうと放置してあるあらゆる事も、同じように蓄積している。

久しぶりにguzuriに来ると蝉の音が一層激しく、相変わらず夜通し泣き続ける彼ら。
 
幼虫のまま何年も土の中で過ごす時間のその静かさと、飛び立ってからのけたたましさの対比が清々しい。

僕はまだまだ土の中。蓄える時間が、まだまだ足りない。

7/30【何も言えない】
母と待ち合わせをしたのは、子供の頃から馴染みのあるホームセンター。
今思えば、郊外型大型店の走りで、その後のバイパス沿いにはたくさんの店が軒を連ね賑わった。

建物も古くなり相変わらず佇んでいる姿に、自然と胸をなでおろしてしまうけど、大型店がこの街へ進出してくる度、商店街や地元の小さな商店は衰退していき街の景色は変わっていった。

昨今、富士山が世界遺産になる傍、街を切り裂く計画道路がいよいよ進行するらしく、この数年でさらにその症状は進むだろう。僕らの心の遺産もさらに失われて行く。

でも、何も言えない。そういうものだと思い流すしかない。
 
7/31【愛しい朝】
ふと、部活へ出かけていく時の気持ちを思い出したのは、まだ涼しい風を感じつつも、
これから暑くなる日を予感させるあの朝の雰囲気。味噌汁に半熟で入っている卵や、うまく漬けられなかったと言って出されたきゅうりのぬか漬け。納豆に添えられた万能ネギの匂い、その全てがいつかの夏の朝と同じだったのかもしれない。

こんな朝があと何回あるだろうか。すべてが愛しい朝が。

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