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窓越しの世界・総集編 2017年10月の世界

10/1【再びの祭囃子】
三日間続いた祭りも今夜でお終い。名残惜しくて夜店をはしごする。

今朝の潮騒から、再び今夜祭囃子に舞い戻った。

この灯をいつまでも感じていたいけれど、店じまいが始まる前に帰ろう。

帰ってもう少し呑みたい。

10/2【雨は大切】
昨日までの祭りの終わりを待っていたかのような、夜の雨。

少しぐらい濡れても心地よいと思える雨。

雨降って地固まる。

雨は大切。

10/3【風の仕草】 
時折、夜風のかける音がする。冬が近づくほどに増す風の仕草。

風のわりに大げさな木々のざわめき。

季節の動く音がする。

10/4【下北沢】
井の頭通りを遮るように佇む浄水場を大きく迂回して環状7号線へ入る。代田橋駅の坂道を下ると、左手に下北沢の街。

ある夜は大雨だった。コインパーキングの精算機には濡れた千円札が詰まっていて、土砂降りの中奮闘した。ある夜は坂上の路地から東京タワーが見えて感動した。

苦い思い出の夜も、宝物のような時間の夜も、たくさん詰まっている。

10/5【オルソンギター】
憧れのオルソンギター。
 
手に馴染みすぎるネックに、はじめは戸惑った。思い描いていた弾き心地とは全くちがったけれど、しばらく弾いていると、それは良い意味で期待を裏切るものだった。

ジェイムス・テイラーで聴き馴染みのあるオルソンの音。フィンガリングもストロ
ークも、拍子抜けするくらい、それはよく知っているオルソンサウンド。

帰り道の車窓からは、大きな中秋の名月が見えた。気分が良くて、30分以上夜道を散歩した。少し肌寒い。赤い暖簾をくぐると、暖かな店内。テレビのニュースに大将の声、中華鍋を振るう音。全てが心地よい。

なんとなくもう、心は決まっている。

10/6【雨の憂鬱】
土砂降りを眺める。

憂鬱になるのは、これから出かけるから。

雨は嫌いではない。窓越しに眺めていたい。

10/7【無垢の中に】
寝ても冷めても、そこにある無垢と向き合える。

無垢を前にして知る、たくさんのこと。

無垢の中には、強さ、弱さも、尊さも、残酷さも、全て。


10/8【移ろうからこそ】
かろうじて聞こえる蝉の声。

夏にしがみついていた心が、いつのまにか次の季節へ向いている。

移ろうからこそ、留まることに憧れる。

10/9【いつもどこかで】
天災や戦争は、ある日突然始まるのではない。

そこへ向かうまでの、果てしない積み重ねの結果そうなる。

いつもどこかで起こっている。
 
10/10【ならば私は】
損益で世の中が見えてくると、どうしようもない無力感とそれを克服したいという欲望が湧く。

はたと見渡せば、損益から生み出される全てに圧倒されるけれど、そこに息づく人々のことを思うと急にその圧力から解放される。

音楽でさえ、その世界から目はそらせても逃れることはできない。

ならば私は、すべてを受け入れて克服したい。
 

10/11【振り返れば猫がいる】
都心へ向かう足を止めて引き返した。疲れていたし、無理はすまいと思った。

予定を繰り越して故郷へ向かう高速道路へ乗ると、気持ちは少し楽になった。ここのところ第二東名のルートばかりだったので、気分転換に中央道から富士山を迂回するルートを選ぶ。早速眠気が襲ってきた。藤野PAで少し休む。

ここのところ甲信越へ行くことが多かったので、大月ジャンクションがやけに近く感じられた。富士の樹海を過ぎて朝霧高原に差し掛かると、深い霧と雨が降っていた。雲の中だ。そう思った。

139号線を下ると富士宮の街が始まる。久しぶりの信号機で停車。

振り返ると後部座席上の窓際でくつろぐ猫がいる。

10/12【親しい感覚】
ナビ通りに新清水のICで新東名を降りる。山道を下って間も無く、ある予感が始まる。

知らなかった道は、知っていた道に繋がっていた。

その感覚がやけに尾を引いている。
 
とても親しみのある、嬉しい感覚。

10/13【母のもの】
それは僕のものではなく、母の手ぬぐい。

落してしまったことに気がついて来た道を引き返すと、歩道の隅に落ちていた。

なぜだろう。

子供のころ、頑なに守っていた掟のような、信念のような、本能のようなものが一瞬だけよぎった。

10/14【僕】
僕を認めていない僕と、僕を認めている僕がいる。

僕を知っている僕と、僕を知らない僕がいる。

僕を好きな僕と、僕を嫌いな僕がいる。

朝の珈琲とクラシックの中に、たくさんの僕が見える。
 
10/15【後ろ髪】
後ろ髪の長いミキサーのことを、この頃よく思い出す。

僕もずいぶんと髪が伸びた。

南の窓から舞い込むあの人の影が去ってから、もうすぐ4年。

録音マイクを立てるたびに、寂しさが積もる。

10/16【方程式】
ずっと取り組んできた様々が繋がり始めている。

些細な筋肉と筋肉が導きあって、声を作っていく連動を感じることができる。

それはまるで、方程式のよう。

10/17【些細、それでいて、壮大】
しばらく遠ざかっていた曲と向き合う。

同じメロディーだけれど、コード進行を変えると別の響きが広がる。

そこからまた新しいメロディーが導かれていく。

些細、それででいて、壮大。 

10/18【秋の深さは】
久しぶりの晴れ間。風は冷たく、ニットのカーディガンを羽織って歩く住宅街に見え隠れする次の季節。

靴下を二枚重ねた。そのうち、もう何枚か靴下を重ねるだろう。

秋の深さは冬の足音。

10/19【三層の床】
仕上がった黒い床の下には、白い床。

白い床の下には茶色い床がある。

3層の床と、もうすぐ11年。

10/20【接近中】
秋刀魚の炊き込みご飯に合うはずだと思い、白ワインを買い物カゴに入れる。

閉店のアナウンスが流れるスーパーマーケット。ギリギリで駆けつけたものだから車は路上にエンジンをかけたままだ。

雨は続く。台風何号だかが接近中。
 
10/21【昨日と同じ】
週間予報を見て、雨に肩を落とすのをやめた。
 
湿度は無いから車のエンジンのかかりもそれほど悪くはない。それでもセルをしばらく回す。

秋刀魚ご飯も雨も昨日と同じ。

10/22【うすっぺらい】
つるっとした投票用紙に尖った鉛筆を滑らすと、「あぁ、この感じ。」そう思う。

何度足を運んでも、投票の瞬間というのは薄っぺらい。

消去法で投じる一票は、なんとも薄っぺらい。

10/23【走り去る雲】
外へ出ると吹き返しがつよい。灰色の雲の向こうには青空が始まっているはず。

風の音を聞きながら珈琲豆を焼いていると。薄暗い梢が次第に明るくなり始めた。

焼きあがった豆をビンに詰めて自転車を漕ぎ出すと、青空に追われるような雲が走り去っていった。

10/24【じれったくない】
雨の落ちそうで落ちない空が夜まで続く。

今日も少しだけ進む様々なこと。

日々の方は足早だけれど、じれったくない。

10/25【気持ちが緩む】
雨上がりの湿った、少しひんやりとした夜。大判のストールを引っ張り出して首に巻いた。

しばらく工事中の川沿いの角地、小学校の裏通り、初めて登る坂道、そこから抜けるといつもの道。
 
店に入ると途端に上がる湿度。温度も。

素朴な食卓の香りに、気持ちが緩む。

10/26【始まるまで】
何もしないという選択をする。

何かが始まる前の、そんな時間。

10/27【百段階段】
百段階段の三十六段目から下を見下ろす。そして九十九段目を見上げる。

人生はまだまだ始まったばかりだ。

65段目の母を見上げて、思う。

10/28【ほんのり灯る変化】
まだ今日だった。眠りについたのが19時。

少し目が覚めたのでしばらくギターを弾く。トトは眠っていて起きてこない。

季節が少しずつ変わるように、僕も少しずつ変わっている。

夜の静けさの中ならば、そのほんのり灯る変化に気づくことができる。

10/29【静かな夜】
台風22号は足早に去り、雨が止んで静かな夜が来た。
 
屋上パーキングからは遠くの東京タワーまで見渡せるほどに天気は回復している。

明日はまた吹き返しの強い一日だろう。

ウイスキーのお湯割と読書の秋。

10/30【木枯らし1号】
西日が激しく揺れる揺れる。

風が止んだら、外の仕事。

それまでは、中の仕事。

台風の吹き返しが冷たい。木枯らし1号とのこと。

10/31【今日が始まる時】
ひんやりとした早朝の公園を覗き込むと、老人たちが体操をしている。

ギターを手に譜面を広げる。朝の、真夜中には無いクリアな集中力が好きだ。

不意に光が差し込む。眩しい。

今日が始まる。

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