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若年層の棄権傾向にどう向かい合うべきなのか(前編)-若年棄権層に関する考察⑦-


はじめに

 若年層における棄権の背景には何があるのかについて、8回に渡り考察します。今回は7回目です。
 前回までは、20代の若年層の棄権について、政治不信によるものか(「特定世代若年層棄権継続説」)、それとも年代を重ねることで政治を意識するようになって投票するようになるのか(「若年棄権層政治意識変動説」)について考察をしてまいりました。結果、若年層の棄権は、政治を意識していないために起きる現象であり、年代を重ね社会に参加することによって政治を意識するようになることで投票に赴くようになるとする「若年棄権層政治意識変動説」と考えるに至りました。
 今回と次回は、2回に渡って、前回までの考察、検証(1回目2回目3回目4回目5回目6回目)を踏まえ、若年層の棄権についてどのように私たちが向き合うべきかについて、考察して参ります。

若年層の政治的関心の向上に何が必要か

政治から疎外され続ける若年層

 前回のnote記事では、衆議院選挙、参議院選挙において若年層が年齢を重ねると投票率が増えていく状況をデータで示した。データ上からは若年層の棄権はそのまま固定化されるのではなく、年齢を重ねるごとに政治を意識するようになるということが少なくとも国政レベルにおいては示されたものと思われる。

 「統一地方選挙に思うこと⑤-若年層は政治に無関心なのか-」でも述べたが、若年層の投票率が低い状況は、議会に特定層の利害のみが反映されやすい傾向を生み、そのことが政治に対する有権者の不信や無関心をもたらす悪循環となっている一因になっていることは否めない。現実には様々な利益、要望が存在するのであり、議会において多様な利益、要望を政治に反映させる機能が果たされていなければ、民主主義の正当性への疑念が生じかねることになる。その意味でも若年層の投票率の低さは決して放置されるべき問題ではない。

 「統一地方選挙に思うこと⑤-若年層は政治に無関心なのか-」で言及した「国分寺市投票率を1位にプロジェクト」発起人の鈴木弘樹は若年層は子育て、高齢者福祉、教育などの施策と接点が少ないことが地方自治体の選挙に対する関心が低い傾向にあるとの見解を示している。ただ、若年層の政治意識の低さは地方自治体の選挙に留まるものでもないことは、国政選挙における20代以下の投票率が全体と比較した際に低く出ていることからもわかる。若年層の政治の関心への低さは地方自治体の選挙だけではなく、すべての選挙に該当すると言えよう。

若年層における政治的課題

 現実には若者にまつわる政治課題も多い。例えば、雇用の問題は若者にとって最も深刻かつ生活に身近な問題であるが、日本型雇用制度が継続する一方、非正規雇用が拡大しており、非正規雇用が若年層に偏る傾向が出ている。非正規雇用が雇用の調整弁の役割を果たしている以上、雇用は若者に不利な状況にあることがわかる。だが、雇用の問題については、日本では自己責任の問題で片付けられるか、表面的に雇用確保を強調する言動に留まるかのいずれかの議論のみが目立つ。日本の雇用のあり方自体について、当事者である若年層の意見が反映されている状況にはない。特に地方における雇用環境は厳しい状況にあるが、私は自治体が雇用を創設するための権限が少ないところにも原因があるのではないかと考える。

 過疎化の背景には、地方において地縁がある場合を除けば、若者の雇用を確保するための雇用環境が整っていないことも原因の一つである。雇用環境確保の一環として、税制面における自治体の裁量を拡大し、自治体が様々な選択を行えるようにすることが必要ではないか。事業税、住民税については多くの税源が、税率を現行の標準税率に基づく制限税率を設けるという一定の枠に留める規定となっている。(※1)しかし、各自治体が自由に設定できる任意税率とする法改正を行うなど、自治体に課税自主権を認めるべきだろう。自治体に課税自主権を認めることで、若者の地方での雇用確保の一環として企業、工場を誘致しやすくすることができるよう、税制面全般について優遇措置を行うといった小さい地方政府も、逆に税制面において富裕層、大企業に応分の負担を求める代わりに、社会政策や雇用確保のための自治体独自の助成を充実させるといった大きい地方政府も両方可能となり、様々な政策を自治体が行えるようになる。自治体が様々な政策を行えるようになれば、若年層、働き盛りの壮年層による「足による投票」(※2)を通じて、自治体間の適正な競争を促す一因となり、地方自治体間の競争を促し、地方自治体の活性化につながるのではないか。

 学生については、高等教育についての無償化が議論されているが(※3)、学費に留まらず学生として勉学に集中できるために、家賃補助、食費補助の社会保険制度などの整備を、少子化の問題と相まって議論がなされるべきであろう。勉学に励むためには学費だけではなく、勉学を行うのに必要な生活基盤をどうするのかという視点は無視できない。日本では給付に伴い負担をどうするかという議論を忌避する傾向が強いが、給付によって安定した生活を受けられるようにすることが、消費の循環を促すことにもつながり経済の活性化にもつながる。若年層が他の世代と比較して生活面において不利な扱いを受けやすいことを考慮すれば、若年層向けのセーフティネットの確立が求められるだろう。

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 いかがだったでしょうか。次回後編では、政治教育の実践としての生徒による自治活動について考察して参ります。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) 地方税法第72条の24の7(法人の事業税の標準税率等)

地方税法 | e-Gov法令検索

税務研究会 税務用語辞典 税率より 税率 | 地方税 (zeiken.co.jp)

総務省|地方税制度|法人事業税 (soumu.go.jp)

(※2) 

足による投票 - Wikipedia

(※3) 日本財団が全国の10歳から18歳までの1万人を対象にした意識調査では国、社会で取り組んでほしい項目について、「高校・大学の無償化」を求める声が40.3%となった。(2023年6月15日 東京新聞 朝刊 P7)

こども1万人意識調査結果 | 日本財団 (nippon-foundation.or.jp)

こども1万人意識調査 要約版レポート P19

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