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政治に対する雑感8-日本の政党政治は確立されているか-


続く阿波戦争

 先日、元総理大臣三木武夫の孫である高橋永が衆議院選挙区の徳島1区より立憲民主党の公認で出馬することを知った。(※1)週刊誌のFLASHは、立憲民主党は高橋永、菅源太郎などの擁立について、世襲を批判しながら世襲候補を公認するのかという批判記事を執筆した。(※2)確かに、菅直人が自身の地盤である武蔵野市に息子の菅源太郎を市議会議員にしたことは情実の様相が強く、政治の私物化の点で問題である。ただ、亀井亜紀子の場合、父親久興の元々の地盤は津和野であり、島根1区ではない。これは地盤の世襲とは言えないだろう。また、高橋の出馬については単純な地盤継承による世襲批判だけではない、徳島県における政治上の対立である阿波戦争の深刻さがいまだに尾を引いていることが背景にある。ここでは阿波戦争と世襲の問題について取り上げていきたい。

 阿波戦争は1974年の参議院徳島選挙区における、三木武夫の直系参議院議員久次米健太郎と田中角栄をバックに対抗した後藤田正晴の保守分裂選挙及びその後の徳島県における三木系と後藤田系の政治家の徳島県知事選挙、徳島市長選挙などにおける選挙を中心とした権力闘争一般を指す言葉である。(※3)三木、後藤田の対立自体は、三木の在職中の死、後藤田の政界引退で終わるのだが、徳島県内における選挙を中心とした権力闘争自体はその後も続く。

 三木武夫の系列は1998年から2004年まで野党系参議院議員として活動した三木武夫の娘である高橋紀世子がいる。紀世子の次男である永は、前述通り、母親同様野党系候補として徳島1区から立憲民主党公認で出馬する。後藤田の系列は、後藤田正晴を大叔父とする後藤田正純が2000年から2023年まで自民党衆議院議員として活動した後、2023年に徳島県知事選挙に出馬、当選し徳島県知事となっている。

 近年の徳島市長選挙、徳島県知事選挙においても、かつての阿波戦争同様激しい選挙戦が展開されている。徳島市長選挙では、2020年の同選挙で現職遠藤彰良を破った内藤佐和子が2024年の選挙で不出馬を迫られた際には、前回敗れた遠藤が返り咲く結果となっている。徳島県知事選挙では、2019年の同選挙で現職の飯泉嘉門に対し、後藤田正晴が徳島県議である岸本泰治を推して保守分裂選挙となり、2023年の同選挙では前述通り、後藤田が現職の飯泉嘉門と自民党参議院議員の三木亨らを下して徳島県知事となっている。

 以上の事実だけでも、三木武夫の系列が野党系となったこと以外は、政党間、候補者同士の政策論争よりも、地縁、血縁に基づく選挙戦、権力闘争が展開されていることをうかがい知ることができる。ただし、これらの選挙戦は徳島県内における特徴に限定されることではない。群馬県においても俗に中曽根レストラン、福田食堂と言われたように中曽根康弘の系列、福田赳夫の系列による保守分裂の選挙戦が展開されるなど、保守政治においてみられる特徴である。

政党組織力のなさ

 なぜ、政党間、候補者同士の政策論争よりも地縁、血縁に基づく個人間の選挙戦が展開されるのだろうか。日本政治史を専門とする北岡伸一は自民党の二世議員が増加した佐藤政権時代に注目する。北岡は、世襲議員の増加を、政治家の選挙の際に核となる個人後援会の事情によるものであるとしている。北岡によると、中選挙区時代の自民党は党としての地盤はないに等しく、個々の政治家が個人後援会によって選挙区の選挙民を組織することによって選挙戦を戦っているとしている。その上で、個人後援会が組織の結束力を維持するのにもっともまとまりやすいのは政治家の息子、娘婿であること、また、世襲議員が若いうちに当選することは当選回数の点でも有利になるため、世襲議員が増加することになったと結論づける。(※4)

 ただ、北岡は世襲議員の続出を個人後援会の事情によるとしている一方で、個人後援会の発展の理由は衆議院において中選挙区制度が実施されていたため、同じ政党同士で選挙戦を戦う必要があることから、選挙民の世話をすることで当選する必要があるとして、中選挙区制度に起因しているともしている。(※5)だが、各派閥による政治とカネの問題が未だに起きていること、2021年衆議院選挙の静岡5区、熊本2区、鹿児島2区などで保守分裂選挙が起きていることなどを考慮すると、選挙制度が変更された後も、政党間の政策論争による選挙戦よりも候補者個人による選挙戦が根強いこともうかがえる。

 そもそも、保守系無所属議員が、市区町村レベルでは主流であること、都道府県レベルでも一定の力を保っていることからしても、地方議員が選挙戦を戦う場合は個人戦の様相が強く、政党がきちんときめ細かく組織力を展開できるという体制にはなっていないことがわかる。地方における政党制の確立ができていないことは、地方議員立候補者の資質チェックや地方議員としての活動への教育機能を果たすことができないことを意味するものであり、地方議会で議員としての資質を欠いた議員が相次いでいるとの指摘もある。(※6)

政党政治から程遠い現実

 以上を考えると、私は日本の現状は政党政治自体がそもそもきちんと機能をしていないと考える。政党政治が機能していないことが、個人による選挙戦中心となるために、地域の有力者、名望家といった、その地域において一定の影響力を持つ人物が担ぎ出され、その結果二世、三世といった政治家が相次ぎ、地盤を継承するという構造になると言えよう。

 ヨーロッパにも政治家の二世、三世は存在するが、彼らが選挙区の地盤を継ぐといったことや、比例区の場合において上位で優遇されるといったことは滅多にない。いわゆる「雑巾がけ」と呼ばれる様々な政治家になるための雑務なり、訓練を経て、能力があるとされたときにはじめて一人前の政治家として認められる。政党自体の組織力が強いため、親の七光りを認めないというけじめをきちんとつけていることがわかる。

 また、政党助成金の制度は日本における政党組織力の強化し、ヨーロッパのような政党政治を目指して設立された制度であるが、政党助成金は政党中心の政治の一助となっている状況であろうか。地方政治のあり方、構造も踏まえた政治全般のあり方を考えない限り、国レベルでの政治家や政治のあり方を議論しても表面的な対応に終わるだろう。世襲の政治家に対する批判というものは、単なる情実に対する批判に留めるべきではなく、日本における政党政治のあり方、制度設計自体が問われているものと考える。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) 衆院選徳島1区 立憲民主公認 高橋永氏立候補表明|NHK 徳島県のニュース

(※2) 「恥も外聞もなさすぎ」世襲批判の立憲が「三木武夫氏の孫」擁立「行き当たりばったり」党運営に集まる痛烈批判 | Smart FLASH/スマフラ[光文社週刊誌] (smart-flash.jp)

(※3) 「阿波戦争」に関する一考察 ―第10回参議院選挙徳島地方区における保守系候補の対立を中心に―

(※4) 北岡伸一 「自民党」P114~P115,P137~P138 読売新聞社

(※5) 北岡「前掲」 P115~P116

(※6) 曽我謙吾「日本の地方政府」 P51 中央公論社

 ただ、議員定数が1桁といった規模が極めて小さい議会においては、個々の議員の多様性を議会過程に反映させることで合議体のメリットを活かせるとの指摘もあり、(辻 陽「日本の地方議会」 P135 中央公論社)地方議会において一律に政党化をすることが、必ずしも望ましいと言えるものでもない。

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