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(展覧会感想)はしもとみお木彫展ーArtとTalk㉘ー


皆さまこんにちは、宇佐江です。

今回は、先週の記事「ひとりで美術館ハシゴ旅・愛知編」で訪れた、おかざき世界子ども美術博物館にて開催中の「はしもとみお木彫展」の感想をお話したいと思います。

お約束の前置きですが、私のnoteに書かれた内容は勤務先やその他施設とは一切関係なく、宇佐江みつこ個人の意見や感想です。
その点をご理解の上、今回もどうぞお付き合いください。

それでは参りましょう~!

(本文はエッセイ形式でお送りします。)


観たいじゃない、会いに行く。

お庭にて。①


「お仕事ですか?」

最寄駅からタクシーに乗り、「おかざき世界子ども美術博物館まで」と告げた早々、運転手さんに尋ねられた。
私の全身から美術関係者オーラが出まくっている、というわけではもちろんなく、平日の朝一に美術館まで行く客がおそらく珍しいのだろう。
「いえ、私、好きなんです美術館が」
「はあー。すばらしいねえそれは。今なんか彫刻の人、やっとるねえ」
「ええ、はしもとみおさん!大好きなんですー」

そうなのだ。
西三河で美術館をハシゴしよう、と思ったきっかけも、実はこの展示が現在岡崎であったから。2018年にヤマザキマザック美術館(愛知)で観てからすっかりファンになってしまった。いや、正確には、展示を観るより先に展覧会のチラシを見て。

広大な山を背景に佇む3匹の犬の写真だった。しかしよく見ると、ほんものはまんなかだけで、両サイドは彼をモデルに彫られた等身大の木彫。
なんか惹かれる…と手に取り、ぺらりとめくるとそこには、真っ白いワンピース姿で木槌を手に小犬を彫る女性がいた。彼女のまわりには、まるで一緒に生きて暮らしているかのように、犬や猫の木彫が何体も寄り添っていた。
このひとが作る木彫の、本物。会いに行きたい。

以来私は、すっかりはしもとみおさんの世界のとりこである。

さわるというより、喉カイカイ。

お庭にて。②

チケット売り場のすぐ隣が入り口。ちら、と中がみえた瞬間、

「か、かわいい……!」

と息をのむ。
可愛すぎて入り口で立ち尽くすという初体験。中にいる動物たち(木彫)が「誰か来たっ!」と一斉に、視線を向けてくるようだった。

湾曲した白い壁には、自宅に飾られているような距離感で親しみやすく、美しいスケッチがならんでいる。
どてっとおっさん座りする私のいちおし猫(チグリス)がさっそくいて、めったに撮らない写真を撮りまくってしまった。(※今回の展示では全作品撮影OK。でもこの記事では、現物をみて欲しいのであえて掲載は控えます。)

最初の展示室からものすごい長居をきめこむ。いつまでたっても入場したはずの客(私)が次の展示室へ来ないので、おそらく心配になった監視員さんがひょっこりと様子を見に来て「今回、芝生の上にいる子は触れるので、ぜひ」と誘ってくれる。
美術館で、触れる作品はたまにあるし、そういう時は積極的に触るほう。でも、今回はなぜかすぐには手が出ない。
白黒ブチ猫の頭に、そっと手を置いてみる。

猫だ。あまりにも猫すぎる。
撫でるより、おもわず喉をカイカイしたくなった。


自分の望む暮らしは、自分で獲得しなければ。

お庭にて。③

はしもとさんのつくる木彫は、リアルとも、個性的とも違う。なんともいえない心地よさがある。表面にはノミのあとがくっきりと残り、粗さを感じるのがまた心地いい。ご自身も、「平ノミを使うことが多いのが自分の特徴だと思う」とインタビューで語られている。

もとは獣医を目指していたというはしもとみおさん。ところが中学生の時、地元兵庫で阪神・淡路大震災にあい、大切なものや景色が、突然失われてしまう体験をする。失くした命は医学では取り戻せないけれど、作品にして自分がつくれば、この世に姿がずっと残る。
そんな考えの変化から、彫刻の道を目指すようになったのだという。

始まりがそのようなきっかけであったからだろう、はしもとさんの創作に対する姿勢はいつも揺るぎなく、シンプルで美しい。
美術の世界で長く作り手をやっていると、「作風が変化してこそ作家としての成長」とか、人と違うことをしなければ、という自意識がつきまとうものだが、はしもとさんはむしろ、そういう「作家らしさ」が自身の作品には不要と感じて、職人的な素直さをとても大切にされている。

展示の後半、子どもたちへ、はしもとさんから絵を描くことの10のメッセージがあった。
小さな文字の羅列を目で追ううちに、じわじわと涙が滲んできてしまう。自分も、こんなふうに、絵を描くことをだいじに思い続けたい。

最近よく考える。

私、このスピードで大丈夫だろうか。今は働きながら制作をしているけれど、それで間に合うだろうか。自分の、目指している場所に。
朝から晩まで毎日描くような暮らしが早くしたいけれど、現時点では経済的にも色々と難しい。それに、アトリエに籠りきりになる生活も憧れるが、毎日色んな人と会い、小さな発見や出来事にも触れ続けていたい、とも思う。

将来何になりたい、よりも、自分がどう暮らしたいのか。そのために自分は今、何をすべきなのか。
その日その日をのらりくらり過ごすだけでは誰も、自分の行きたい場所には連れて行ってくれない。
自分の望む暮らしは、自分で獲得しなければ。

展示のあと、今の気分に「これしかない!」なフルーツ牛乳を自販機で見つけて一気に飲み干した。




美合駅までの戻り道。
遠ざかる美術館を背に、行きとは別のタクシー運転手さんが「私も今度、時間出来たら行こうかと思っとるんです」と言うので、

「ぜひ!ぜひ観てください!すっごく、良かったです!!!」と熱烈に、おすすめした。





今週もお読みいただきありがとうございました。余談ですが、展示室にはしもとみおさんの作業着がかかっていて、そのブランドが、自分が好きなお洋服と同じだったのがミーハー的にめっちゃ嬉しかったです。

◆次回予告◆
『美大時代の日記帳⑮』新歓コンパの夜/翌日の七尾。

それではまた、次の月曜に。


*「はしもとみお木彫展」は7月17日まで開催中!!↓


*先週の「愛知の美術館ハシゴ旅」記事はこちら↓




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