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#35 野に咲く花もまた天下のものだ

 春は花の季節であり、花が気になる季節でもある。早春の蝋梅、梅から春本番の桜、ハナミズキと咲いてきて、今はツツジが盛りとなり、これから藤や菖蒲、サツキの季節となる。しかし、有名な花ばかりでなく、春は様々な花の季節であり、民家の庭先はまさに百花繚乱の態をなしている。
 筆者が通勤する海老名市門沢橋駅から職場までの5分強の道すがら、3月から4月前半には雲南黄梅(オウバイモドキ)の黄色が目を引いた。同じモクセイ科ソケイ属の黄梅の近隣種であるが、花弁が少し小さい。原産地も同じ中国西部であり、つる性で枝垂れるが、黄梅は落葉低木で、雲南黄梅は常緑低木である。雲南黄梅の方が少し暖かい地方の植物であったらしい。黄梅は江戸時代前半に招来されたことが分かっており、園芸種として好まれた。なお、黄梅は花期が2~3月と早めで、中国では「迎春花」と呼ばれている。筆者も学生時代に中国旅行した際、中国人ガイドから教えてもらった記憶がある。

雲南黄梅(オウバイモドキ)


 道端の庭先では木香薔薇(モッコウバラ)も見事であり、白モッコウと黄モッコウが緑の葉に映えていた。前も少し書いたが、これも中国原産のバラで、江戸時代に支那から輸入されたことが分かっている。香りがあり、バラでありながら棘がないため、扱いやすい庭木として重宝されている。花期は初夏というが、実際には4月前半には咲いていた。ちなみに、秋篠宮家眞子内親王(現在は皇籍離脱)のお印(御印章)は黄モッコウであった。

木香薔薇(黄モッコウ)


 同じ庭先に大手毬(オオデマリ)の立派な木があり、白い球状の花が美しい。ガマズミ属の落葉低木でテマリバナとも呼ばれる。テマリカンボクとともにスノーボールの愛称でも知られるが、もともとは我が国原産のヤブデマリの園芸種と考えられている。はじめは葉と同じ緑の花弁が咲き、徐々に白くなる。花期は4~5月である。

大手毬(オオデマリ)


 同じガマズミ属の白い花に白山木(ハクサンボク)があり、生垣などに利用されている。実は筆者が毎日見ている花がガマズミかハクサンボクかあるいは違う近隣種かは判然としない。調べても葉の形が違うように感じるのだが、ガマズミの一種には違いない。みな秋には小さな赤い実をつける。ガマズミは落葉低木で、ハクサンボクは常緑低木であるが、花期は同じ4月頃とされる。

白山木(ハクサンボク)?


 もう一つ忘れてならないのが、道端に咲く片喰(カタバミ)である。あまりに小さく、足元を気をつけていないと見落としてしまうが、雑草とは思えないほど可憐な黄色の花が咲く。カタバミ科カタバミ属の多年草で、酢漿草(すいば)とも呼ばれる。春から秋にかけて咲くそうだが、数センチの花茎の根には球根があるという。原産地は分かっていないが、中国でも同じく酢漿草と書き、噛むとすっぱい味がする。生薬ともなるそうであるから、やはり薬草として招来された可能性があろう。花弁は1㎝程度の大きさだが、日本全国で180種以上の方言があるほど日本人に愛された野花であり、消炎、解毒などの薬効も知られている。武家の家紋にも採用されており、譜代大名酒井家の片喰紋、剣片喰紋や戦国大名長宗我部家の「丸に七つ片喰紋」が著名である。花言葉は、「輝く心」。

片喰(カタバミ)

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