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#愚痴-1グランプリ「ドライバー伊佐坂先生」

今は退職されたが、高齢のドライバ
ーが私の働く会社のデイサービスで
送迎車の運転をしていた。

60歳までは、物流の仕事で管理職を
されていたらしい。それからはドラ
イバーの仕事を転々とされていたよ
うだ。

初めて会った時、丸いメガネをかけ
ておられ、「あれ、どっかで見たこ
とあるな〜」と思って、ずっと自分
の頭の中で考えていた。しばらく考
えていたら、ふと、「サザエさんに
出てくる伊佐坂先生に似ている」と
天から答えが舞い降りてきた。

以下、伊佐坂先生と呼ぶ。

伊佐坂先生の指導係は私となった。
「となると、私はノリスケさんみ
たいな立ち位置かな〜」とか、少し
楽しみながら指導に入る。
ドライバーの仕事なので、当然送迎
車を使って指導をする。出発前の点
検から、必要な道具、当日担当する
送迎コースなど、一気に覚えるのは
難しいと思うので、日々少しずつ情
報を増しながら必要なことを伝えて
いく。

勤務を始めて数日間は、会社の送迎
車に慣れてもらうこと、利用する高
齢者への挨拶、あと私とコミュニケ
ーションをとり、お互いに慣れる期
間をとるようにしている。
もう、その時点から違和感を感じて
いた。まず、伊佐坂先生は自分のこ
とを「小職」と呼ぶ。あまりにも会
話の中で「小職は、小職は、小職は」
と言うので、自分のことを下の名前
で言うタイプなのかなと思い、履歴
書を見るが、「としお」と書いてあ
る。私はあまり聞き慣れない言葉な
ので、家に帰った時に国語辞典で調
べてみた。「役職者がへり下って自
分を指す言葉」と書いてあった。
「ああ、とてもきっちりされていて
礼儀正しく言ってたのか〜」と無知
な自分を恥ずかしく思っていたが、

「んっ、ちゃうちゃうちゃう、
 今は新米のドライバーで、
 役職者じゃないやんっ!」

と、心の中でツッコみ直した。

それからもずっと「小職は、小職は、
小職は‥」と言い続けていたが、そ
の言葉を使うのは、私の前だけだっ
たので、自分の中で「下の名前だ」
と思うようにした。

日が経つごとに、伊佐坂先生は私に
話しかけてくれるようになったが、
お客様である高齢者の方にはあまり
話かけようとしないので、「そろそ
ろ、お客様の名前と顔を一致させる
ためにも、お客様とも会話していき
ましょうか」と伝え始めることにし
た。ただ、待てども待てどもお客様
と会話をしようとしない。「どうし
て話しかけないんですか?」と質問
してみると、「今はまず、送迎する
高齢者の各ご自宅の場所を覚えるこ
とに集中しているのです」と伊佐坂
先生は言う。なるほど。それなら今
はまず集中的に送迎する各ご自宅の
場所から覚えてもらうことに切り替
えた。覚えやすいようにあらかじめ、
その日のコースの地図も事前に渡し
ておく。しかし、来る日も来る日も
「あれ、どっちやったかな〜」
「この地図は、どの人のやったかな」
等のセリフを繰り返す伊佐坂先生。
わからない時は正直にわからないと
言って質問してくれたら答えるし、
でも次は間違えずに行けるように
メモしたり、復習したりご自身でも
工夫をして覚えていってもらうよう
に丁寧に伝えた。週5日勤務、この
ような毎日を繰り返し、1ヶ月が経
ったが、1人で確実に行けるのは3
件程で、しばらくは私も送迎車に
添乗し、指導を続けなければならな
いことを覚悟した。「ご年齢もある
と思うが、これは私の指導の至らな
さのせいだ」と思い、違う伝え方を
考え続けていた。

ある日のこと。相変わらず道を間違
え続ける伊佐坂先生が、真面目な顔
をして私に話しかけてきた。「あの、
小職はいつぐらいで時給が上がるん
でしょうか?」。

「 な、な、なに〜〜〜〜〜〜っ 」

口に出してしまいそうだったが、な
んとか自分を抑えて、伝えた。

「まず、自分1人で運転業務ができる
ようになってからの話なので、1人で
運転できるようになってから時給に
ついては話していきましょう」。

すると、伊佐坂先生は少し声を大き
くして言った。

「そんなことだったら、もう今日で辞
めさせてもらおうと思います。時給が
上がるシステムがないならないで先に
言っておいてほしい、騙されたわ」

「 うぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜っ 」。

思わず叫びそうになったが、必死に抑
えて、「はい、わかりました」とだけ
伝えて、私はその場から立ち去った。

次の日から、伊佐坂先生は来なくなっ
た。

今だからこそ、思っていたすべての事
を言う。

「まず小職、小職、小職っていうなっ!
 過去の栄光にすがるんじゃないっ! 」

「何度も丁寧にお客様の名前や自宅の
 場所も伝え、地図も用意し、業務後
 も復習で2人で運転して覚える時間
 もとったのに、面倒臭そうな顔をす
 るのやめてくれへんかなっ!!」

「よく、時給上げてほしいって言うた
 なっ!どの口がいうとんねんっ!!、
 ほとんどこっちが送迎業務してるよ
 うなもんやし、こっちが時給を足し
 てほしいぐらいやわ〜〜〜〜っ!!
 高い時給がほしいなら、伊佐坂先生
 ぐらい期限がギリギリになっても
 原稿を仕上げてくるぐらいの頑張り
 をみせんかいっ!!」

「あと、毎日近所の小学校の前を通る度
 に、覚えたてのNiziUの話を必ずして
 くるのやめて〜。小学校から縄跳び
 を連想するんか知らんけど、3回目
 以降は、そろそろ縄跳びダンスの話
 が来るって予測できてしもたわ!。
 それに、たまにその話をしない時も
 あったんはどういうことなん?変な
 期待させんといて〜っ‼︎ 」

 日曜の夜のサザエさんの番組を見ると、
 今でも時々思い出す。ノリスケさんの
 ように、隣のサザエさん家で昼寝でも
 しながら、伊佐坂先生が原稿を書き終
 えるのをのんびり待つイメージで、こ
 れからは自分も指導にあたろうと思う。

伊佐坂ドライバー

 あの時はよう言わんかったけど、
 愚痴-1グランプリの開催を皮切りに、
 ぶちまけ特攻隊長になってみました。

 私の投稿記事はあくまで例の1つなので、
 審査には入りません。

 この記事のマネをする必要もありません。

 皆さんの、自由な発想の愚痴記事を心待
 ちにしております。

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