見出し画像

ヘミングウェイの入口②「老人と海」

画像1

  (ほぼネタバレ)

  ヘミングウェイは、自身の小説のスタイルについて以下のように述べています。

   「もし作家が十分に真実を書いているのであれば、読者は省かれたものを強く感じとることだろう。動く氷山の威厳は、水面に見える8分の1のためだけにある」(略述)。

   1952年に書かれた「老人と海」も、その手法が貫かれた作品です。

舞台はキューバ。かつて「町でいちばんの漁師」だった老人は、84日に及ぶ不漁にも関わらず、一人小舟で沖へ出ます。

5メートルを超えるカジキマグロがかかりますが、血の匂いに群れ集まったサメたちの襲撃に遭います。

短く切られた描写と会話・独り言により、話は淡々と進みます。

老人は同じ夢を何度も見ます。夕暮れのアフリカ、輝く砂浜で子猫のように戯れるライオンたちの姿です。この夢は繰り返し現れますが、その意味について何も語られていません。

また、老人をかいがいしく世話する少年がいます。かつて老人に師事し、一緒に漁に出ていたのですが、両親に忠言されて他の舟に移っています。

四日に及ぶ死闘から戻ってきた老人は、ベッドに横たわっています。老人を慕う少年は、「師匠」をいたわり、励まします。

少年は、二人で飲むためのコーヒーをカフェまでとりに出ます。店に行くまで、少年の涙は止まりません。なぜ、彼は泣いているのか。その心情は一切説明されません。

読者に分かるのは、「老い」という宿命と、少年がこれから強く生きて行かなければならないという現実です。

ヘミングウェイ

アーネスト・ヘミングウェイ(1899-1961)~アメリカ・小説家~
「失われた世代」の代表的作家。後に多くの作家に影響を及ぼしたハードボイルドの文体をつくりあげた。「老人と海」でノーベル文学賞を受賞。他に「武器よさらば」「日はまた昇る」などが有名。

https://www.amazon.co.jp/dp/4102100180/


この記事が参加している募集

海外文学のススメ