そして死体は石油王になった「マダミ屋」デザインノート
マダミ屋というアプリを作ってもうすぐ1年くらいになるので、デザインノートを書きます。作ったときどういうことを考えていたか?どういう意図で開発に取り組んでいるのか?などを紹介します。マダミ屋はマーダーミステリーが遊べるアプリです。
この記事の結論はマダミ屋はマダミを拡まりやすくしようとしているで、筆者のやりたいことは問題解決です。文中では既存のシナリオに触れますが、公開されている情報以外のネタバレはありません。また、読むにあたってはマーダーミステリーが何か知ってる・やったことがある、くらいの認識を前提としています。
とっても拡がりにくいゲーム「マーダーミステリー」
筆者がマダミを初めて遊んだのは一昨年の秋頃、新宿RabbitHoleというお店でハルカゲカグラウタを遊びました。ボドゲ仲間から噂を聞いたので試しに遊んでみるかくらいの気持ちだったんですが、内容や配役のおかげもあってとても良い体験になり、そこから一気にマダミにハマりました。
筆者はその頃デジタルゲームを作る息抜きにアナログゲームを作るというスタンスをとっており、ちょうどアナログゲームを作りたくなっていた時期だったのもあってマダミも自分で作ろうかと考えていました。
ただ、当時思っていた率直な感想は
「儲からなさそう……」
でした。
いきなりお金の話になってしまいましたね。だいたい中身より先にお金の話をし始めるヤツは敬遠されがちですが、ちゃんと意図があるので掘り下げさせて下さい。
筆者が儲からなさそうと感じたことを正確に言い直すと遊ぶ(遊ばれる)のが大変な割にはお金が動くポイントが少なく、結果的に拡がりにくそうです。なので、問題意識の中心はこの拡がりにくさという点で、これを分解していくのが最初の議題になります。
筆者は拡がりにくさを次の5点で考えています。
・人数がいないと遊べない
・1回しか遊べない
・GMが大変
・他人に勧められない
・お金が回るポイントが少ない
順番に見ていきましょう。
①人数がいないと遊べない
現状、世に出てるマダミのプレイ人数はオフライン・店舗用のものが7〜8人、オンライン用や軽めのものが4〜5人でしょうか。この人数はそもそも集めるのが大変なだけでなく、多くても少なくてもダメです。例えばボドゲだったら7人で遊ぼうとして1人来れなくなったら3-3で2卓作って別のゲームにするといったことができますが、マダミだとそれがかないません。
また、おそらくなんですが多くの人にとってゲームをするために予定を調整して時間を作って腰を据えてじっくりゲームを遊ぶ友達、というのはそんなに沢山いません。普段ボドゲやマルチプレイのゲームで友達と遊んでいる人は忘れがちですが、拡がるという点を考えれば必要人数が多いことは枷になる場合があります。
↑Among Us気になってるけど遊べてない人、結構いるのではないでしょうか
②1回しか遊べない
物語の真相を知ってしまうともう遊べなくなる、というのは上記人数の問題と合わさってさらにマダミを遊びにくくしています。
例えばいつも一緒に遊んでいる仲良し4人組がいたとして、そこにとっても面白い3人用シナリオがリリースされたら……。マダミをやる前に別の椅子取りゲームを初めないとですね。仮に余った1人がなんとか別卓で体験しても、プレイ後の感想を4人組で共有できないのは悲しいですね。
↑こんなことになってないよう祈っています
③GMが大変
マダミのGMは一見すると物語を知ってさえいれば誰でもできそうですが、見えないところに沢山仕事があります。PLからの質問に答えられるよう事前にシナリオを把握したり、進行中にトラブルが起きたときの対処など細かい気配りが求められます。
遊ぶ人にとっては1度きりの体験なので、GMが何か間違えてしまい体験が損なわれてしまうと大変です。それらを未然に防ぐための準備なども含め、マダミのGMはとっても大変です。
④他人に勧められない
コンテンツが拡まるために口コミはとても大事な要素ですが、マダミはその性質上、中身を他人に話すことができません。どんなに好みのシナリオや驚きのギミックを体験しても他人に勧めるときは「詳しくは遊んでみてくれ!」としか言えないのは歯痒いですね。
また上記の1回しか遊べない問題もあるので、勧めたいシナリオを自分が一緒に遊べないのも問題です。このシナリオ面白かったから一緒に遊ぼう!とは言えず、このシナリオ面白かったから誰かと遊んできてくれ!としか言えないのは、体験が大事なコンテンツとしてはかなりの弱点です。
⑤お金が回るポイントが少ない
シナリオ1本でみたときにそれを繰り返し遊ぶ、長く遊ぶといったことはありません。プレイ前に一度支払いが終わると、例えどんなにゲームが面白かったとしてもそれ以上取引が発生することはなく、あったとして同じデザイナの別作品を買うといったくらいです。
他の4つと違い、この問題のみデザイナ視点でプレイヤ視点だけではあまり重要ではないようにみえますが、拡がりやすさの面で考えればこれも重要な問題です。うまくいったときお金が回る、またその可能性が傍から見えてる、という状況はまだマダミのことを知らないデザイナが入ってくるかどうかに関わっており、結果的に拡がりやすさに大きく影響していると考えられます。
拡がりやすいゲーム
少し話が逸れますが、筆者がマダミに取り組む前はカジュアルゲームや個人開発ゲームと言われるような領域で物作りをしていました。これらに明確な定義は無いんですが、少人数・小規模で作られたゲームを指し、大きく話題になった例でいうと、どうぶつタワーバトルやひとりぼっち惑星といったゲームがあります。
これらはまさに拡がりやすいゲームです。今では個人開発ゲームのレベルもどんどん高くなってきて数も多いですが、依然として何かのきっかけで大きなことが起こる可能性を持っています。他にもDownwellや旅かえるのように海外に拡がっていく例もあります。
このように小さな力からどんどん大きな流れができていくという性質は、コンテンツが凄まじい速さで拡まり消費される社会ととっても相性が良く、その根底にはやはり遊びやすさという点が大きく寄与しているでしょう。
とっても自由なゲーム「マーダーミステリー」
上記のような問題意識もあり、筆者はその時点ではマダミを作り始めるまでには至れなかったです。
ただ、やはり自分で体験して面白いのは間違いなく、なにか人を惹きつけるものがあるのは確かだったので、作ってみたい気持ちはなかなか収まりませんでした。何か手はないかと色々調べていたところで見つけたのがあやつり人形の呪いというシナリオでした。
これはブラウザだけで遊べる無料マダミなんですが、GM無しで2人で遊べます。つまり筆者が持っている問題意識の多くにアプローチしています。
いやいや流石にそんなはずは無い、そもそも犯人を当てるゲームで2人だったら相手に投票するしかないのでゲームとして成り立つわけがないだろう……と半信半疑になりながら試してみると、普通に遊べました。しかも結構面白くて、終わった後の納得感もありました。
筆者はここで初めてマダミの自由度を理解できたんだと思います。
犯人はいるかもしれないし、いないかもしれない。投票があるかもしれないし無いかもしれない。でも最終的には遊んだ人がああなるほど、と納得してくれる。そこさえ担保していれば、驚きを表現する手段は自由に作ってもいいんだ、という懐の深さがマダミにはあります。
これをきっかけに、自分の中でのGOサインが出て実際に手を動かせるという判断に至れました。もちろん、持っている問題意識を全てを同時に解決することは難しいですが、部分的に取り組んでいくことはできます。沢山ある問題に少しずつアプローチしていくという方針で筆者のマダミ作りが始まりました。
独り身ユニオン
筆者にはモバイルアプリ開発のスキルセットがあったので、GMが大変という問題は比較的簡単にクリアできそうでしたが、まだもう一つ問題がありました。それはマダミが殺人事件だということです。
当時筆者が作っていたゲームが「破局ダイス」という勇者の恋愛の悩みを解決するゲームを作っていました。勇者なのにモンスターと戦闘せずに日常の恋愛や悩み事で困るというのを売りにしており、個人開発者としては作っているものの雰囲気や世界観はなるべく統一したいと思っていました。
それらのラブコメのような恋愛や笑いを殺人事件と組み合わせるのはあまりうまくいきませんでした。合コンで殺人事件、ハネムーンの孤島でデスゲームなどを考えていましたが、あまりパッとしたものにはならず、やはり相性が悪いようでした。
悩んでいたときに見つけたのがこの記事です
この記事はマダミを紹介するために実際のマダミを作ってみてその様子をレポートするという内容のものです。紹介するためだけにマダミを作ってしまうという取り組みが凄いのはもちろんなんですが、動物達の間で盗みが起きたという設定が筆者にとっては気付きでした。登場人物が人でもなく、事件が殺しでもない、でもやってることは犯人探しという構造で、殺人事件じゃなくてもマダミが作れるということが理解できました。
筆者が良いと思った部分を抽象化すると
ローカルルール→裏切り
となり、これなら殺人でなくても事件が作れそうです。例えば「イケメンホスト集団の中にマザコンがいる」「期末テストは皆でサボろうぜって約束したのに勉強したやつがいた」なども事件にできるでしょう。
こうしてあげられた例の中から筆者のそれまで作ってきたものの世界観に一番合っていた「独身でいる約束をした仲間内の誰かが恋人を作った」が採用され、独り身ユニオンができました。
殺人事件では死体が発見される→誰かが裏切った証拠となるので、独り身ユニオンでは裏切った証拠として石油王に登場してもらいました。
マダミを拡がりやすくしたい
以上が筆者のマダミ作りの経緯で、マダミ屋はマダミを拡がりやすくしようとしているという話でした。
独り身ユニオン以降はローカルルールと裏切りという構図のまま別パターンのシナリオを増やしていってます。改めて問題意識の部分を振り返ってみると
・人数がいないと遊べない
・GMが大変
という問題にアプローチしてきました。特にGMが大変という問題に関してアプリによる進行管理が大きく寄与していると考えています。人数の問題に関しても、マダミ屋では4〜5人のシナリオを公開していますが、世間では3人以下のシナリオで面白いものも沢山あるので、もっとコンパクトにできると思います。
次に公開するシナリオでは
・1度しか遊べない
問題に取り組んでおり、次の拡がりやすさを探しに行きます。
また筆者は最近、GMが大変という問題の認識が少しずつ変わってきており、これまでは大変な部分を減らしていこうというアプローチで取り組んでいたのですが、もっと他にやり方があるような気がしています。なんとなくですが。
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