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銀行員が目覚めた場所は透明な箱だった

※ノンフィクションです


「え、なにこれ?」


男は目を開けて周囲を見渡した。

なぜか自分が透明な箱の中にいるのだ。

透明な壁を叩いてみる。

さらに強く叩く。

割れない。


どうしたものか、なぜこんなことになっているのか。


服は着ている。

でもカバンがない。

携帯もないので電話もかけられない。



ずいぶん経って、男性が入ってきた。


「目が覚めましたか」

制服姿の男性が言った。

「あなた、なんでここに来たかわかりますか?」

「わかりません」

「そうでしょうね」
「あなたはね、築地の交差点のど真ん中で
大の字になって寝ていたんですよ」


(築地、、、?)


自宅でも職場でもない。


なぜ築地?

その時、記憶が蘇った。



大学を卒業してメガバンクに入行。

20代半ばになり、初めて支店長のお供で

接待に行けることになった。

先方は一部上場の有名企業。

緊張した。


「まあ飲みなさい飲みなさい」

お酒を勧められて飲んだ。

「まあまあ飲みなさい」

飲んだ。


記憶が断片的になる。


次に覚えているのは

自分が支店長にキレまくっているシーンだった。


「俺はオマエなんか嫌いだ!」
「だいたいオマエがしっかりしてないから
 俺がこんなに苦労してるんじゃないか!」

「まあまあまあまあ」
なだめるお客さま。


次のシーン。

「もう私と一緒に帰ろう」と支店長。

「うるせー!俺はオマエなんかと
 帰りたくねえんだよ!」
「俺は自分でタクシーで帰る!」


次のシーン。

タクシーに乗り込んだ自分。
支店長が窓の外から自分を見ている。



そして透明な箱で目覚めた。



血の気が引いた。


警察官に謝り倒して警察署を出た。

すぐ職場に電話をかけた。

仕事はとっくに始まっている時間だったが、
今日はもう休めと言われた。

そんなわけにはいかないと、
急いで出勤した。


直属の上司に謝り、
付き添ってもらって支店長室へ。


なぜかあまり怒られることなく、

「あの時最後まで送ってやらなかった」
「心配だったが、タクシーに乗ったから
 帰れるかなと思ってしまった」
「キミにすまないことをした」
と謝られてしまった。


支店長に連れられ
先方に謝罪に行った。



ここでもなぜか怒られず。

ただ

「この一件は弊社で代々語り継がせてもらいます」

と、半笑いで言われただけだった。




銀行ってこんなとこなん?





※冒頭写真はenageさんの作品です。



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