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ぎゅってして...

 間違いなく人生最高の日々を過ごしている。もう何日笑い続けてるか分からん。多分、NGKの年間の笑いの量を俺達は数人のグループで一日で消費している。笑いの分布図を示す機械みたいなものがあれば、我らが根城の天下茶屋を映した途端スカウターみたいに爆発して全員アフロになる。”面白さ”が持つ麻薬的作用は月収10万円以下のカスフリーター達が安定した職業を捨て、地元の友達を切り、連日連夜集うには十分過ぎる理由になる。スーツとパジャマの着替えを朝まで続けさせたり、勝手にLINEを見て女の子にキモいメッセージを送ってた奴を10時間謝罪させたり、貯金全部引き落として一頭の馬に全額賭けさせたり...、それぞれが持ち寄ったユーモアを組み合わせて作るこの夜がいつまでも続かないことを知ってるけど、永遠を信じるために笑い合って、過ぎ去っていく濃厚で緻密で愉快な時間が、温かいシャワーのように一瞬だけ身体を浸しては二度と触れられない場所へ流れ落ちていくことに気付かないフリをしてる。止めどなく溢れ出るこの温もりにいつまでものぼせていたいと願っている。しかし間違いなく俺達はこの完璧な時間を文字通り湯水の如く使い捨て、失いながら生きてる。足元を通り過ぎる、温度を失った冷たい水が排水溝へ流れていくのを見る度に人知れずぞっとして、今のこの温もりを抱きしめるように感じようと意識するけど、のぼせた頭ではどうしようもない。時間を溜めておく容れ物もない。いつかこの温かいシャワーが出なくなった時に全身に残る、すっかり冷たくなった思い出と言う名の水でずぶ濡れになりながら寒さに震えて初めて気付く。俺はその時の喪失に耐えられる気がせん。怖いヨ…ぎゅてして.…ナデナデして.….......…失礼。
 まぁこんな「失って初めて気付く」的な言説は散々使い古されて今更俺がどうこう言うことでもないし失わないと気付けないことも分かってるけどそれでも俺は失いたくない。誰かが売れてこの日々が無くなるなら、誰も売れて欲しくない。俺も一生今のまま(舞台で下ネタ言うたら滑り過ぎて客席から「う~~~ん」っていううめき声が聞こえる)でいい。よく芸人は下積みが大変とかほざいてるのを聞くけど、あんなもん、完全に嘘。なんだろう、嘘つくのやめてもらっていいですか?俺、こんなに楽しいこと他に知らん。何でそこまで売れたがるのか謎。金や知名度のある生活が今より楽しくて満たされてると思えん。そう言う建前としての共通の目標を置いて今を遊ぶための理由程度に考えた方が有効的な気がする。俺は短絡的で頭が悪いから今を楽しむことしか考えられん。話変わるけどそういう意味で最近は芸人って仕事が大好きになってきた。皆とにかく今、面白くなるように動く。面白いだけで十分ってのが良い。それを見て笑ってくれるお客も裏方も、なんか、良いなぁって感じる。それと同時にあんまり俺向いてないなぁってのも感じる。今を楽しむ事に目が行き過ぎて一番大切な上昇志向が二の次になってるし、なにより仕事でお客が数百人一斉に笑ってくれたら嬉しいけど、俺はそれより友達が一人腹抱えて笑ってくれる方がずっと嬉しくなっちゃうの、なんかお客さんに不義理やなとか思う。悔しい、でも感じちゃう俺を許して。ていうか当初と全然違う話になってるな。とにかく今が楽しいって話。こうして駄文でもなんでも書いて今の感情を形に残してるのが、俺がこの時間を失うことを恐れてる何よりの証明やな。いつか失くした後、お湯が出なくなったシャワーを恨めしそうに眺めて浴室で一人、全身思い出でびしょ濡れになりながら泣くでしょう。おまけにアフロやから渇くのが遅い。


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