さらば!

信じられんぐらい体調が悪い。元々身体は丈夫な方でインフルエンザとか低気圧とか花粉症で体調を崩す奴を見かける度、聞こえるか聞こえへんかぐらいの声で笑ってたらビックリするほど友達がおらんくなったんやけど、その報いが今返ってきてる気がする。まぁ最近は大阪に引っ越して来た須磨の服を勝手に全部売って全部ハンバーガーにして全部須磨に食わせたり、十時間ぐらい花見したり、どう考えても遊び過ぎていたのでクールダウンの意味も含めた現状と受け入れて惰眠を貪っている。

元来俺なんていう人間は月に一度人と会えば多い方で、それ以外は一人で映画やアニメや漫画を見てる岩の裏のダンゴムシみたいな人間なのだが、どういう訳かお笑い養成所にぶち込まれ、芸人などと言う、全く、これっぽっちもやる気の無かった職業に人生を賭けようとしてるから可笑しい。全然やり方も分からないまま、岩の裏のダンゴムシなりに日向へ出て丸まったり転がったりしてみたら存外お客が笑ってくれたり、同期が褒めてくれたりして、何やらそんなに悪くない仕事かもしれん、と、最近ようやく思い始めた。しかし本来、芸人なんてものは確固たる夢として目指すべきもので、俺みたいにやる事がないし辞めたら母親に怒られるから取り敢えず目指してるみたいな、本当にカスみたいな動機で飛び込んで良い世界では無いような気がする。養成所の初めの自己紹介でギラつきと期待に目を輝かせて、やれ誰々さんや何とか師匠を引き合いに出して流暢に将来の目標を語っていた生徒達や、各種賞レースに向けて熱い想いを抱いてる彼らに対して、どうしようも無く不義理を働いている心持ちがして項垂れてしまう。勿論、貰った仕事は本気で取り組むし、人を笑わせたいと思う気持ちは本物ではあるし、このままこの道を歩む事に躊躇がある訳ではないけど、周りが全員胸を張って同じ方向を見ている中でたまに感じる孤独感には未だ慣れそうも無い。

小学生の頃「みんなが行くから」って理由で修学旅行に行かんかったのを覚えてる。ほんまはどうやって班に馴染んだり、楽しんだりしたら良いかが分からなかったからなのも覚えてる。中学校も高校も、枚挙に暇が無いほどそんなことばかりしてきた。ただ人と同じ事が出来ないだけの無能さを悟られまいとする為にチンケな逆張りに走り、さもそれが個性みたいな顔で同級生を有象無象と決め付けた。逆張りする対象が無ければ成立しない個性なんて何の意味も無いのに。あらゆる「普通」から逃げる度に脳裏をよぎる有りもせん未来が、人生最後の岐路に立たされた今一層激しく後ろ髪を引いてくるけれど、さよならを告げる時が来た!好きで岩の裏へ隠れた訳でも、好きで丸くなる訳でも、好きで人と違う仕事をする訳でもなく、もし叶うなら文化祭や修学旅行を楽しんだり、流行りの音楽で休み時間盛り上がったり、大学からの彼女と結婚したり、職場の愚痴を肴に同期と飲んだり、休日子供とキャッチボールをする、そんな普通の未来を夢見ていたけれど…、さらば美しい日々たち!一度きりの人生で、ほんのちょっと寄り添うだけで手に入るはずやった日常を全て投げ出して手に入れたこの世界で、俺は須磨の服を全部売って全部ハンバーガーにして全部須磨に食わせてる。どうなってる?まじで時間戻ってくれ。

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