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(小説)まとめ @unun1901

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小説と題していますが、大抵が怪文書です。
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記事一覧

愛着(詩)

愛着(詩)

女の子の瞳がキラッと輝き こぼれ落ち
それは自分の気持ちが形になったとき
言葉として世界に脱出したその気持ちが
そのまま輝く涙

女の子を軽んじる全て
視線を引き寄せたい併せて
1等賞の犯罪の果て
ずる賢い的当て
全員がその子へ

たとえば
打撲 打ち身 見せびらかして覗き込んでも
あなたはこっちを見ていなかったりする
足は震えて
怒りのような 喪失のような 恐怖のような

欲しいものは視線
あの

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夢みる寄生虫(詩)

夢みる寄生虫(詩)

(399文字)

善の心があるのではなく
社会との差異を埋めるのがうまいだけ

凄惨なニュースが流れてきて
それを下品に囃し立てている
もし私が面白く殺されたらどうする?

書き綴った創作に登場させた
子どものころは思いつけなかった残酷さ
発想の欠片となった幾数の実話に
今も苦しめられる人々
誰かの苦しみを消費していく人生

都合の悪さを見たくない
ハッピーエンドが用意されていないなんて
どうしよ

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つつじの友だち(小説)

つつじの友だち(小説)

(3,815文字)

怒りで人を殺せる
区役所の自動ドアを入ってまっすぐ、背もたれが短いおもちゃみたいな長椅子が並ぶ1階の住民課。脳みそにガンガン響く踏切の音に嫌気が差していた私はそこで喚き散らした。よくわからない記入用紙が積み重ねられた机へ倒れ込み、その紙たちを全部宙へ投げる。私は、ちぎって、食べて、叫んだ。過激に大暴れする身体とは裏腹に、私は小さい漢字を記入するような丁寧な気持ちだった。私は、

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アケビ(小説)

アケビ(小説)

(1,402文字)

『見ると殴りたくなる
だから子どもは嫌い』

キミはそう言った。

俺はその夜、コンクリート造りの地下倉庫で、ゴミのように積み上がった、30余りの小学生の遺体の夢を見た。

顔に紙袋が被せられ
青いビニールシートを巻かれ
麻紐に固定された130cmほどの物体が
丸太のように積み上がっている

黄味がかったライトが
俺とその山を
“同じ空間のひとつ”として照らす

俺は何か大切

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誠実な恋(小説)

誠実な恋(小説)

(1,191文字)

生理の時に出てくる、あの血の塊みたいだ。油の中へ水のつぶを落とした化学おもちゃのように、私の頭のてっぺんからその赤い粒がぷかぷか飛んでいく。

どす黒さの混じった赤い粒が高い空でひとつずつ結合し、上空に溜まって重たい塊になった。平たく丸い、巨大などら焼きみたいに。
台風の目で見上げた、違和感を覚えるあの夕焼けと同じように、恐ろしいほど赤かった。
逃げ場がないと確信するほど大き

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悲しみにドボン(小説)

悲しみにドボン(小説)

(1,168文字)

透き通った暗い空で眩しく光る満月と目が合う。バチンと大きく破裂音を炸裂させたその視線の“線”がピンと張る。俺の視線を釣り上げたあいつは、「今日だよ」と言った。俺は「そうだよな」と思った。言葉にするなら「そうだよな」だが、心の中で光ったのは、日本語ではない共感の響きだった。

その月を背にし、歩道をまっすぐ歩いているつもりが、気づくと身体が左側へ逸れていく。小さな畑を囲ったグリ

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母親への復讐(小説)

母親への復讐(小説)

(7,965文字)

思い返すと、思い返す出来事なんて何もないことを痛感する。この冬で27歳になる俺は、独身、彼女なしどころか、高校を中退してから今の今まで、母親のスネかじりをしている。働きもせず、うだうだとニートを続け、常に何かしらに怒りをぶちまけている。怒り続けていなければ、誰かのため息にすら、吹き飛ばされて死ぬ気がしているからだ。

学生の頃から、安いアパートに母と2人暮らし。脱衣所もない直

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かわいい立方体(小説)

かわいい立方体(小説)

(1,851文字)

暑い。
もう水も尽きた。
どうして私がこんな、名前も知らない異国にいるのか、どうも思い出せない。
日本とは全く違う、かまくらのような造りの赤茶色した家が4軒並んでいるが、人は誰もいない。街ではなく、砂漠のような土地。ぽつぽつ木は生えている。
目の前の建物には断熱効果なんてなさそうで、牢屋のようだった。見渡す限りの乾燥した地面が、地平線の果てまで続いている。私は歩いていく気力も

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暖簾に腕押し(小説)

暖簾に腕押し(小説)

(2,663文字)


生活が続いていく。寝不足で苦しい朝を迎え、ぼんやりした1日の合間合間に将来を憂い、瞼を閉じた瞬間の無に耐えられずに結局また夜が更ける。これが生活か。財布の中の小銭を1枚2枚と数え、時計の針を見つめ、頭の中は常に何かしらの引き算をしている。予定通り行くならば、この生活というものはあと数十年と続いていくらしい。

映画としたときにワンカットもいらないような、“僕の日常”という

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火をやぶる(小説)

火をやぶる(小説)

(1,283文字)

大火事の煙が高い空へと昇っていく。それはまるで天地を入れ替えた滝のようで、空がひたすらに煙を受け入れていく。すごいスピードで巻き起こる黒い煙幕が、目の前にある。
そんなふうに、そんな勢いのように、
あなたの熱量が僕の前にある。僕は包み込まれる。

これは火事の話じゃない。
たった1枚の、ただの写真を見つめている僕の話だ。

机の上に置かれた、あなたの写真から暴発した黒い煙がそ

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異常(小説)

異常(小説)

(9,035文字)

「死ね」と言われてしまった。
「死ね」と言われてしまったのだ。

「しね」
軽やかで爽やかな雰囲気の「し」に
穏やかで優しそうな「ね」がくっついて、
その2人が並んだだけで、それは
「しね」
である。僕の鼓膜は「死ね」で震えた。
脳みそに届き、これまでの人生における全ての偏見を含めた色眼鏡で「死ね」を理解した。

「は?マジで気持ち悪い、なにこれ。
もう話しかけてくんな。早く

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日々(小説)

日々(小説)

(720文字)

眼球が2つ
受験生の頑張る夜半に
外飼いの犬が吠える

コンビニの前で
しゃがみこむ6人の男たちに怯える
女に生まれてきたからだ

玄関ドアの前にはおじいちゃんが
ドアノブを握って開けようとしている
ゴミ置き場でメロンを腐らせていたのは
きっとこの痴呆症の人

深夜3時のコインランドリーに
部屋着で仲良さげな夫婦が訪れる
私の事なんて見えていないように
見えてないことにして追いや

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こころ(詩)

こころ(詩)

能書き垂れてる学者の生首を
ヘラを持ったアイス屋が冷たい鉄板の上へ
みんなで歌いながらカメラを構えて
面で押し潰し辺で切り刻もう

楽器隊をうちに帰らせて
シンバルの欠片すら叩き砕く
茶碗の白米に箸を立てるように
太鼓の中心へバチを

画家のキャンバスに火をつけて
毛筆の根元はハサミで切り落とす
煮込んだスープに絵の具を混ぜて
黒いスープで死んでいけばいい

乗り込んだ電車は空を飛ぶ
私とともに飛

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耳(小説)

耳(小説)

(1,461文字)

耳がひとつ落ちていた。

私は延々と終わらない散歩を続けていた。

何も面白くない。
何にも心が動かない。
何かが欲しくて
ただひたすらに歩き続けた。

歩き続けた汗や運動エネルギーが
錯覚を起こして、
脳がその
「何か」
を受け取ったことにしないかと、
馬鹿の打算的な行動で
私は足だけを動かすことになっていた。

ふと見やると
オレンジの街灯で照らされた黒い道路に
耳がひと

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