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記事一覧
つつじの友だち(小説)
(3,815文字)
怒りで人を殺せる
区役所の自動ドアを入ってまっすぐ、背もたれが短いおもちゃみたいな長椅子が並ぶ1階の住民課。脳みそにガンガン響く踏切の音に嫌気が差していた私はそこで喚き散らした。よくわからない記入用紙が積み重ねられた机へ倒れ込み、その紙たちを全部宙へ投げる。私は、ちぎって、食べて、叫んだ。過激に大暴れする身体とは裏腹に、私は小さい漢字を記入するような丁寧な気持ちだった。私は、
悲しみにドボン(小説)
(1,168文字)
透き通った暗い空で眩しく光る満月と目が合う。バチンと大きく破裂音を炸裂させたその視線の“線”がピンと張る。俺の視線を釣り上げたあいつは、「今日だよ」と言った。俺は「そうだよな」と思った。言葉にするなら「そうだよな」だが、心の中で光ったのは、日本語ではない共感の響きだった。
その月を背にし、歩道をまっすぐ歩いているつもりが、気づくと身体が左側へ逸れていく。小さな畑を囲ったグリ
母親への復讐(小説)
(7,965文字)
思い返すと、思い返す出来事なんて何もないことを痛感する。この冬で27歳になる俺は、独身、彼女なしどころか、高校を中退してから今の今まで、母親のスネかじりをしている。働きもせず、うだうだとニートを続け、常に何かしらに怒りをぶちまけている。怒り続けていなければ、誰かのため息にすら、吹き飛ばされて死ぬ気がしているからだ。
学生の頃から、安いアパートに母と2人暮らし。脱衣所もない直
かわいい立方体(小説)
(1,851文字)
暑い。
もう水も尽きた。
どうして私がこんな、名前も知らない異国にいるのか、どうも思い出せない。
日本とは全く違う、かまくらのような造りの赤茶色した家が4軒並んでいるが、人は誰もいない。街ではなく、砂漠のような土地。ぽつぽつ木は生えている。
目の前の建物には断熱効果なんてなさそうで、牢屋のようだった。見渡す限りの乾燥した地面が、地平線の果てまで続いている。私は歩いていく気力も
暖簾に腕押し(小説)
(2,663文字)
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生活が続いていく。寝不足で苦しい朝を迎え、ぼんやりした1日の合間合間に将来を憂い、瞼を閉じた瞬間の無に耐えられずに結局また夜が更ける。これが生活か。財布の中の小銭を1枚2枚と数え、時計の針を見つめ、頭の中は常に何かしらの引き算をしている。予定通り行くならば、この生活というものはあと数十年と続いていくらしい。
映画としたときにワンカットもいらないような、“僕の日常”という