マガジンのカバー画像

【小説】弥勒奇譚

30
京の仏師弥勒は夢に導かれて一世一代の造仏に挑む。
運営しているクリエイター

記事一覧

【小説】弥勒奇譚 第一話(全三十話)

「またあの夢だ」 弥勒は同じ夢を繰り返し見るようになり、ここ数年は三日と開けず頻繁に見る…

【小説】弥勒奇譚 第二話

年の暮れも近づき仕事も大詰めとなっていた小雪の舞う寒い日に、師匠の不空がふらりと現れた。…

【小説】弥勒奇譚 第三話

その日は帰宅して早く床に着いたがなかなか寝付かれなかった。 弥勒は自身が大仏師となって造…

【小説】弥勒奇譚 第四話

翌朝、夜も明けやらぬうちに家を出た。寒風が松飾りを揺らしている。 寒さが身に応える。 大和…

【小説】弥勒奇譚 第五話

加波多寺に着くころには陽は西に傾き生駒の山並みが夕焼けに赤く染まっていた。 普賢寺に比べ…

【小説】弥勒奇譚 第六話

翌日も早くから朝市の呼び声で大賑わいの街を抜け、少し奥まった大御輪寺まで来ると人もまばら…

【小説】弥勒奇譚 第七話

山田寺を辞すと来た道を戻り松阪方面に曲がり初瀬街道に入る。 このまま行けば夜遅くには室生に着けそうだが不案内な山道を夜中に一人歩くのは気が進まなかった。まだ日暮れまでには少しあったが初瀬で一泊する事にした。 明日の今頃は室生の里にいるのかと思うとなかなか 寝付けなかった。 あの夢の景色を見ることになるのだろうかそれとも全く関係の無い話なのだろうか。 翌朝は山道もあるので足ごしらえを十分にして出発した。 まずは長谷寺に参拝することにして街道を挟んで南側の山に向かった。 さすがに

【小説】弥勒奇譚 第八話

疲れも頂点に達した頃ようやく室生の里に入った。 室生寺の入り口はすぐに分かった。造営中と…

【小説】弥勒奇譚 第九話

翌朝、不動に連れられ仕事場に向かった。龍穴社を出て川沿いに上って行くと道の右側の少し高く…

【小説】弥勒奇譚 第十話

その夜久しぶりに夢を見た。 さらに続きがあり少女が弥勒に語りかけるのだった。 口元は喋って…

【小説】弥勒奇譚 第十一話

ある日気分を変えようと里の衆に聞いた少し山を上った所にある古い社の跡へ行ってみた。 かな…

【小説】弥勒奇譚 第十二話

そしていよいよ弥勒は造像にとりかかった。まずは大まかな木取りである、墨で榧材に仏の輪郭を…

【小説】弥勒奇譚 第十三話

次に衣の彫だが弥勒は衣文の彫りがあまり得意ではなかった。 全躯の調和を取るのが苦手なので…

【小説】弥勒奇譚 第十四話

「ときに弥勒殿の数珠はあまり見かけないものだが どちらのご宗旨かな」 「この数珠は以前お話しましたが、寺に預けられた折に私が持っていたそうです。出自の手がかりになるのではないかと肌身離さず持っておりますがどこの物かはいまだに良く分からないのです」 「前から気にはなっておってどこかで同じものを見た記憶があるのじゃがどうしても思い出せんのだ。まったく歳は取りたくないものじゃて」 「数珠のほかには何か手がかりはないのですかな」 「ほかには何もありません。ただ住職の話では 私には随分