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【小説】真神奇譚 第四話
あっしらが阿波は剣山の麓を旅立ったのはもう二年も前になりますか。まずは隣の土佐に行きやした。土佐にはオオカミの血を受け継いだ四国犬がいますのでこれに会って話を聞こうと思ったわけです。すぐ見つかると思っていたのが大間違いで一か月も山の中を彷徨いやしたよ。ようやく見つけたのは奈半利の虎と言う年のころは十歳くらいの中年男でした。
自分の曾おじいさんはオオカミの血をひいていたと言ってましたが生まれてこ
【小説】真神奇譚 第十四話
「これは驚いた何やら騒がしいので来てみればおぬしオオカミだな。しかも見かけぬ顔だ。一体どこから来た」
「口の利き方を知らぬ若造だ、ものを尋ねる時は先に名乗ったらどうだ」
「ほう、まあよかろう。我々は結界の番人、日光と月光だ。それにしてもこの里以外でまだ生き残った者が居ようとは思わなかった。おぬしどこから来た」
「私は剣の小四郎。四国は阿波の山奥から仲間を探しにはるばるここまでやってきたのだ
【小説】真神奇譚 第十三話
「ただいま帰りやした」
「ご苦労。五郎蔵さんの様子はどうだ」
「このところ天気も良くて昼間は陽も差し込むそうで思ったより元気そうですよ。この調子なら大丈夫そうでやす」
「そうかひとまず安心だな。それで満月まではあと何日ぐらいだ」
眩次は外に出て月を見上げると戻ってきた。
「あと二三日くらいでしょうかね。もうずいぶん丸くなってきやしたよ。でも月が傘を被ってますね。ひょっとすると明日辺り雪
【小説】真神奇譚 第十二話
小四郎はしばらく考え込んでいたが眩次を手招きして呼び寄せた。
「おそらく場所はここで間違いないだろう。あの鳥居を潜ったとき一瞬明かりが見えたような気がした何かあるに違いない。眩次よお前も手伝ってこの周りに何か手がかりが無いか調べてみよう。このまま尻尾を巻いて帰る訳にはいかん」
「がってんだ。任せてくだせい」
小四郎と眩次は手分けして鳥居の周りや祠の裏を見て回った。
「どうだ何かあったか。
【小説】真神奇譚 第十一話
いつものけもの道を五郎蔵を先頭に小四郎、眩次、お雪の順で登って行く。五郎蔵の足取りは全く覚束ないが小四郎に後押しされて何とか登っている。しかし丁度語らずの滝までの中間点辺りに差し掛かると五郎蔵が音を上げた。
「少し休ませてくれ。わしももうろくしたものだこれくらいのことで」五郎蔵は大きく息をついた。
「五郎蔵さん夜が明けてしまうと何かと厄介だ。私が背負って行くから背中に乗りなさい」小四郎は五郎
【小説】真神奇譚 第十話
「しっ、誰か外にいるぞ」小四郎はそう言いながら身構えた。眩次もお雪もほぼ同時にその気配に気が付いていた。お雪がそっと格子から外を覗くと一人の犬が辺りを嗅ぎ回っているのが見えた。月を覆っていた雲が一瞬途切れて辺りを照らした。
「門爺じゃないか。どうしたのこんなところまで」お雪の素っ頓狂な声がお堂の中に響いた。
「やはりここじゃったか。まだまだわしの鼻も捨てもんじゃなかろう。それともう名乗ったん
【小説】真神奇譚 第九話
紀州は九州と違って明確な目的地がありました。ニホンオオカミ復活を夢見た人間がオオカミの特徴が強い野犬を集めてきて飼っているということでそこに行って見ることにしました。
簡単に見つかると思っていましたがその人間が引っ越していたりしてあちらこちらと振り回されました。挙句の果てその人間は一年も前に死んでしまっていやした。
これで紀州でのオオカミ探しも断念かと思いやしたが、その人の犬が一人だけ生き残