四国三郎 & OK-tosh Design Office

四国三郎:仏像研究家 さいたま市在住 趣味は自転車🚲 愛車はDAHON SP-8…

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四国三郎:仏像研究家 さいたま市在住 趣味は自転車🚲 愛車はDAHON SP-8   OK-tosh :イラストレーター 趣味は昼飲

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【小説】真神奇譚 第十六話

 「実は里の外から来たのだ」しまったと思ったが相手の反応は意外なものだった。  「よそ者が入ったと言って騒いでおったがあんた達だったのか。こんなところをうろうろしてるとすぐ見つかるぞ。わしが龍勢まで連れて行ってやるから付いてきなされ」   小四郎がどうしたものかと考えていると五郎蔵がやってきた。  「考えても仕方がないこの人にお願いしよう」と小四郎に耳打ちした。  「ではお願いする」小四郎が言うと老人は無表情に頷くと踵を返して小川の流れの方向に歩き出した。小四郎と五郎蔵も後に

    • 【小説】真神奇譚 第十五話

       小四郎は五郎蔵を背負ったまま結界の中を駆けた。背後から日光と月光の気配が追ってくる。短いようで長いような時間が過ぎついに二人は結界を抜けた。真冬のはずであったが隠れ里の中は春のように暖かで心地良い春の風が吹いていた。結界の出口は高台の上のやはり祠の鳥居の中だった。夜明けまではまだ間がある、眼前は漆黒の闇に覆われていた。  小四郎は暫し茫然と下界の闇を見ていたが、追手の気配で我にかえった。小四郎は追手を欺くために足跡や匂いに細工を施して山の上に昇って行き繁みに身を隠した。  

      • 【小説】真神奇譚 第四話

         あっしらが阿波は剣山の麓を旅立ったのはもう二年も前になりますか。まずは隣の土佐に行きやした。土佐にはオオカミの血を受け継いだ四国犬がいますのでこれに会って話を聞こうと思ったわけです。すぐ見つかると思っていたのが大間違いで一か月も山の中を彷徨いやしたよ。ようやく見つけたのは奈半利の虎と言う年のころは十歳くらいの中年男でした。  自分の曾おじいさんはオオカミの血をひいていたと言ってましたが生まれてこの方オオカミに会ったことは無いと言ってやした。旦那の見立てでも虎にはオオカミの面

        • 【小説】真神奇譚 第十四話

           「これは驚いた何やら騒がしいので来てみればおぬしオオカミだな。しかも見かけぬ顔だ。一体どこから来た」  「口の利き方を知らぬ若造だ、ものを尋ねる時は先に名乗ったらどうだ」  「ほう、まあよかろう。我々は結界の番人、日光と月光だ。それにしてもこの里以外でまだ生き残った者が居ようとは思わなかった。おぬしどこから来た」  「私は剣の小四郎。四国は阿波の山奥から仲間を探しにはるばるここまでやってきたのだ。この結界を通してはくれぬか」  「四国にはまだオオカミが生きているのか」  「

        【小説】真神奇譚 第十六話

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        • 【小説】弥勒奇譚
          30本

        記事

          【小説】真神奇譚 第十三話

           「ただいま帰りやした」  「ご苦労。五郎蔵さんの様子はどうだ」  「このところ天気も良くて昼間は陽も差し込むそうで思ったより元気そうですよ。この調子なら大丈夫そうでやす」  「そうかひとまず安心だな。それで満月まではあと何日ぐらいだ」  眩次は外に出て月を見上げると戻ってきた。  「あと二三日くらいでしょうかね。もうずいぶん丸くなってきやしたよ。でも月が傘を被ってますね。ひょっとすると明日辺り雪になるかもしれやせんよ」  次の日の夕方から眩次の予想通り雪が降り出した。  「

          【小説】真神奇譚 第十三話

          【小説】真神奇譚 第十二話

           小四郎はしばらく考え込んでいたが眩次を手招きして呼び寄せた。  「おそらく場所はここで間違いないだろう。あの鳥居を潜ったとき一瞬明かりが見えたような気がした何かあるに違いない。眩次よお前も手伝ってこの周りに何か手がかりが無いか調べてみよう。このまま尻尾を巻いて帰る訳にはいかん」  「がってんだ。任せてくだせい」  小四郎と眩次は手分けして鳥居の周りや祠の裏を見て回った。  「どうだ何かあったか。こっちは特に手がかりになりそうな物はないな」  「旦那、暗くて良くは分かりません

          【小説】真神奇譚 第十二話

          【小説】真神奇譚 第十一話

           いつものけもの道を五郎蔵を先頭に小四郎、眩次、お雪の順で登って行く。五郎蔵の足取りは全く覚束ないが小四郎に後押しされて何とか登っている。しかし丁度語らずの滝までの中間点辺りに差し掛かると五郎蔵が音を上げた。  「少し休ませてくれ。わしももうろくしたものだこれくらいのことで」五郎蔵は大きく息をついた。  「五郎蔵さん夜が明けてしまうと何かと厄介だ。私が背負って行くから背中に乗りなさい」小四郎は五郎蔵の返事も聞かぬ間にひょいと背中に抱え上げた。  「では先を急ごう」今までの分を

          【小説】真神奇譚 第十一話

          【小説】真神奇譚 第十話

           「しっ、誰か外にいるぞ」小四郎はそう言いながら身構えた。眩次もお雪もほぼ同時にその気配に気が付いていた。お雪がそっと格子から外を覗くと一人の犬が辺りを嗅ぎ回っているのが見えた。月を覆っていた雲が一瞬途切れて辺りを照らした。  「門爺じゃないか。どうしたのこんなところまで」お雪の素っ頓狂な声がお堂の中に響いた。  「やはりここじゃったか。まだまだわしの鼻も捨てもんじゃなかろう。それともう名乗ったんだから門爺はやめてくれ」五郎蔵はニヤリと笑った。  「お主ら、これから語らずの滝

          【小説】真神奇譚 第十話

          【小説】真神奇譚 第九話

           紀州は九州と違って明確な目的地がありました。ニホンオオカミ復活を夢見た人間がオオカミの特徴が強い野犬を集めてきて飼っているということでそこに行って見ることにしました。  簡単に見つかると思っていましたがその人間が引っ越していたりしてあちらこちらと振り回されました。挙句の果てその人間は一年も前に死んでしまっていやした。  これで紀州でのオオカミ探しも断念かと思いやしたが、その人の犬が一人だけ生き残っていてさらに山奥の家で飼われていることを耳にしやした。  一縷の望みを繋いでそ

          【小説】真神奇譚 第九話

          【小説】真神奇譚 第八話

           二人は無言のまま長い時間見つめあっていた。  眩次が何か取り繕うと口を開いた時、門爺が驚きともつかぬ声を上げた。  「おお、なんと言うことじゃ。生きている内に会えるとは思わなんだ。そなたオオカミではないか。間違いない本物のオオカミじゃ。しかもまだ若い」  唖然とするお雪と眩次を尻目に小四郎は落ち着き払って答えた。  「いかにも私はニホンオオカミ。名は剣の小四郎と申す。はるばる四国は阿波の山から仲間を探しに来ました。ご老体も一目で見分けるとはただの飼い犬ではありませんな。もし

          【小説】真神奇譚 第八話

          【小説】真神奇譚 第七話

           北風が表戸を鳴らし小四郎は早くに目が覚めていた。その隣で眩次は幸せそうに大口を開けて寝ていた。  「まったく風の音がこうもうるさいのに良く寝ていられるものだな」小四郎は眩次の幸せそうな寝顔を呆れた顔でながめていた。  突然表戸が開き寒風が吹き込んできた。お雪が戸の隙間から飛び込んできた。  「旦那、もうお目覚めでしたか」息を弾ませて大きく伸びをした。  「相変わらず呑気そうに寝てる狸もいるね」お雪の声が耳に入ったのか眩次も目を覚まして寝ぼけ眼で起き上がった。  「あれ、お雪

          【小説】真神奇譚 第七話

          【小説】真神奇譚 第六話

           「ところであんたの通り名、酒手の眩次の酒手って変わった名だけど何か云われでもおありかい」お雪は帰りの道すがら思い出したように気になっていた眩次の通り名の云われを聞いてみた。  「あっしの通り名ですかい。よくぞ聞いてくれやした」眩次はここぞとばかり喋り出した。  「また始まった。お雪さんや、あんた覚悟した方が良いぞ。この話が始まると一晩中でも止まらなくなるぞ」小四郎はうんざり顔で歩を早めた。  「旦那、良いじゃありやせんか。せっかく姉さんが聞いているんだから」 眩次は眼を輝か

          【小説】真神奇譚 第六話

          【小説】真神奇譚 第五話

           「おっと、もうこんな時間だこの続きはまたにしやしょう」  「そうね、あたいも縄張りの見回りをしないといけないからまた明日来るわ。あんた達みたいな得体の知れない連中がいるといけないからね」お雪はにやっと笑うと繁みに姿を消した。  「口のへらぬやつだ」  「まあ良いじゃないですか旦那、何も伝手が無いよりはましですよ」  翌日、陽が落ち辺りに夕闇が迫るころお雪さんが現れた。  「疲れは取れたかい。話の続きも聞きたいところだけど、今日はオオカミだって写真が撮られたところへ連れて行っ

          【小説】真神奇譚 第五話

          【小説】真神奇譚 第四話

           あっしらが阿波は剣山の麓を旅立ったのはもう二年も前になりますか。まずは隣の土佐に行きやした。土佐にはオオカミの血を受け継いだ四国犬がいますのでこれに会って話を聞こうと思ったわけです。すぐ見つかると思っていたのが大間違いで一か月も山の中を彷徨いやしたよ。ようやく見つけたのは奈半利の虎と言う年のころは十歳くらいの中年男でした。  自分の曾おじいさんはオオカミの血をひいていたと言ってましたが生まれてこの方オオカミに会ったことは無いと言ってやした。旦那の見立てでも虎にはオオカミの面

          【小説】真神奇譚 第四話

          【小説】真神奇譚 第三話

           陽が山の端にかかろうとする頃、小四郎は何かの気配を感じて目を覚ました。白い影が格子戸の陰からこちらを伺っているようだ。  「おい、眩次、おい起きろ」小四郎は眩次を軽く小突いた。  「どうしやした」起き上がろうとする眩次を制して、小四郎は耳元で囁いた。  「寝たふりをしていろ。外から誰かこちらを伺っている。殺気は感じないが恐ろしく気配を消すのが巧みな奴だ。正体がわからんがお前の得意技でひとつ脅かしてやれ。尻尾を出すかも知れん」  「良いんですかい」眩次はゆっくり起き上がり手で

          【小説】真神奇譚 第三話

          【小説】真神奇譚 第二話

           「いかがです旦那。なかなか良いところでしょう。しばらく厄介になりやしょう」  「とにかく疲れた。一休みさせてくれ」  「あっしは水場を探してきますから旦那はゆっくり休んでいてくだせえ」  小さな影はそう言い残すとさっと扉から出て行った。  「いつもすまんな」と言い終わらぬうちに姿は消えていた。  しばらくするとはたまた息せき切ってどこで拾ったか一升瓶を背負って駆け戻ってきた。  「旦那、水はすぐそこに小川が流れてますんで不自由しませんや。失礼して一口頂きやす」眩次は一升瓶を

          【小説】真神奇譚 第二話