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下剋上就活【1/3】

もう夕方か。
そろそろ体がくたびれてきた。

上はスリーピース、下はスウェット。
髪はスプレーでセットしてある。

以前、円形脱毛症になった。
禿げかかった頭皮を隠すためにスプレーでセットを始めたら、
それでしか上手くできなくなった。

今まさにノートパソコンの前に座って、
グループディスカッションに参加している。

特に人気な外資系コンサルや有名な日系企業では、
選考の序盤に設けられている。

採用活動の効率化。
集団の中で秀でたヤツだけ面接する。

さしずめこれは、
合コンで全員が狙ってる美人にいかに直接的じゃなく、
けれども 直線的にアピール できるのか、
まさに 身分が下 であると言わんばかりの催しであると思う。

俺はこれを客観視しているような見方をしている。
俺はここにいるヤツらとは違うと、そう思っている。

しかしはたから見れば、俺とここにいるヤツらに違いなんてない。
そう思われることも自覚している。

虫唾が走る。
俺は、
俺は確実にここにいるようなヤツらとは違う

そんなことを胸に秘め、グループディスカッションでいうところの
前提条件整理に加担していた。

武器を携えて

グループディスカッションは滞りなく終了した。
一切の淀みがなかった。

それもそのはず、ブレイクアウトルームで話したところ、
参加者の大体八割は選抜コミュニティの参加者だった。

選抜コミュニティとは
大学二年生の十一月ごろに募集が開始される。
外資系戦略コンサルティングファーム、外資系投資銀行などを志す、
東大、最低でも早慶の学生が参加できる、クローズなコミュニティを指す。
(有名でない歴史の浅い選抜コミュニティであれば、MARCHもたまに見かける。)
企業が運営している場合がほとんどで、非公開選考パスや実際の志望先企業の社員との交流などの恩恵が得られる。

参加するのにも選考を突破しなくてはならない。
学生時代に力を入れたこと、自己PR、選考に際してのグループディスカッションの立ち回り
これら三つが高い水準で求められる。

裏を返せば、今回のグループディスカッションに参加してたやつは
ほぼ東大生であるということだ。
しかも就職意識が高く、実績も引っ提げてきて。

そんなヤツらと共同で行うんだ。
滞りがあるはずない。

しかし一つ懸念点が出てくる。
じゃあ、今回の選考を突破できるのは誰なんだ?


一週間ほど経った。
ようやくグループディスカッションに、
ひたすら参加しなければならない局面から脱出できた。

一日平均二社くらい。
大体、一日で四時間は吸い取られた。

先週のグループディスカッション。
結果は合格
選考過程を一つ飛ばして座談会からのスタートになった。

どうして突破できたのか?

就活における競争なんて、常に相対的なものだ。
つまり、俺の立ち回り、スペック、アピアランスの総合点
ほかのヤツらより優れていた
それだけのことだ。

俺は東大生ではない。
海外大でもない。
俳優並みのルックス。まったくそんなこともない。
ただの中堅私立の文系大学生だ。

少なくとも俺の大学では、グループディスカッションはおろか、
その前の書類審査だって突破できないはずだ。

しかしそれでも俺は突破できた

それはひとえに、
当たり前のことをやれば、当たり前の結果が返ってくる。
そのことを理解し、行動できたことが最大要因だと考えている。

俺はメールで来た「座談会のご案内」を見て、
はじめて自分の過去を肯定できたような気がした。


中編へつづく


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