就活生のルッキズム
これまでの人生、振り返ると
他人の物差しをおもんばかって生きてきたような気がする。
つるむ人間、趣味、身に着けるアクセサリー。
どれもが他人を意識した結果、選択したものだった。
微妙に寝癖を残したまま、全身無地の服をまとい、
絶妙に汚れた瞬足みたいなスニーカーを履いてるヤツを見ると、
なんだか可哀想に思う。
他人からどう見えるのか?
どう思われるか?
なにを感じ取られるか?
マイナスのほうには行かせまいと思い、常に選択してきた。
「自分は、自分の好きな恰好をする」
こんな言葉をよく聞く。とても耳障りがいい。
でもそんな言葉に共感してないのはわかってる。
どうせ逃げてるだけだろ。
「服とかよくわからない」 「そもそも別に気にしてない」
じゃあそのまま寝癖をつけて、きったない瞬足を履き続ければいい。
それが "お前の" 恰好なんだろうから。
ただこっちに馴れ馴れしくしないでくれよ。
同じコミュニティにいると思われたら癪だからな。
はあ。
あと三組か。
あと三回プレゼンを聞いたら終わる。
早く帰りたい。
五月の少し暑いくらいの日にスリーピースはなかなか心地悪い。
swatchをリクルートスーツに合わせるか?
アクセサリーのセンス、中学生から変わってないのか?
アンバランスすぎて目につく。
まあ就活生だったら許されるか。
大体なんだあのしゃべり方。
小声のせいで緊張による声の震えが強調されて、聞いているこっちが不安になってくる。
頭を掻くような仕草、落ち着きがなくやたらと体を左右に揺らす癖。
見てて恥ずかしくなってくる。
プレゼンの内容うんぬんなんて頭に残らねえよ。
それ以前の問題だなありゃ。
ようやく最後の一組か。
ハミルトンPSR、ブラウンのジャケット、あれは革のスニーカーか。
パッと目がいくな。
他のリクルートスーツ一緒くたのやつとは明らかに印象が違う。
堂々とゆったりしゃべっている。
なかなかうまい。
少なくともストレスは感じない。
しっかり内容が入ってくる。
論理構造や根拠の出典にも違和感をもたない。
ふーん。
やっぱり早期選考ってこともあって掘り出し物があるもんだな。
「みなさん!大変お疲れ様でした!」
「みなさんのプレゼンですが、大変クオリティが高く、実に練られた内容でしたね!」
んなわけあるか。
最後のプレゼンが圧倒的に出来がよかった。
あとは別に大したことなかったろ。
「これからの選考ですが、またみなさん個人個人にこちらからご連絡いたします!」
「それでは、みなさん本日はご参加いただき誠にありがとうございました!」
「ねえねえ!その時計カッコいいね!どこのヤツ?」
「あ? グランドセイコー。」
終
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