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下剋上就活【2/3】

前編


強迫された

気づけば、高校へ進学していた。
中学の記憶がほぼない。

小学校のころは強烈に記憶に残っている。
Nってでっかくロゴが押されたバッグを後ろに背負いながら、
泣きそうになるくらい嫌々毎日塾に通っていた。

「みなさんいいですかぁー? 君たちは今日から競争ですからねー?。」

塾へ入って初日に講師に言われた。
変に間延びしてしゃべるやつだった。
けれどもいやな圧迫感と緊張感を醸し出してくるやつだった。
現に今も脳にこびり付いて離れない。

実際毎日が競争だった。
毎日テストを解かされた。
一週間に一度テストの成績を基にクラス替え、席替えが行われた。
一番できるヤツが一番上のクラス、一番前の席になる。

成績は貼り出されないが、席替えの結果は貼り出された。
毎週毎週競わされた。
落ちた日には目も当てられなかった。
一人トイレに行き、胃の中が空っぽになるくらいまで吐いた。

ここくらいまでは記憶に残っている。
肝心の中学入試本番の記憶はない。
塾での競争、狂気、熱気、それの惰性で本番を迎えたと思う。

結果、第一志望の中高一貫に受かった。
嬉しかった。心から喜んだ。

やっと競争から解放される。

席替え表をもう見なくていいんだ。
胃がキリキリ、ムカムカする感じがなくなるんだ。
ようやくゲームができるんだ。

ここから中学生の記憶がショートしてるみたいに無い。

競争が嫌いだ

高校二年生の四月。
進路について考えさせられる時期だった。

ウチは進学校だった。
文系理系問わず大半が都内の国立を目指す。
自分も例にもれず、都内の国立の文系学部を第一志望に置いた。

周りが塾予備校へ行き始めた。

「〇〇高校の生徒だから」と、
近所にある塾予備校は授業料を格安にしたり、
iPadプレゼントとか、特別クラスへの招待など、
何らかの特典が用意されていた。

周りは全員、特典ありきで塾予備校に入っていった。
当然、自分もいく事を勧められた。

絶対に嫌だった。
どうせまた競争させられる。

小学生の頃がトラウマになっているのだろうか。
勝手に順位に組み込まれて、勝手に比べられて、走らされる。
そんなの絶対嫌だった。

結局、塾予備校にはいかず、
独力で受験にそなえることになった。

こんな風にはなから比べられるのを嫌がった。

結果は不合格。
滑り止めのそのまた滑り止めに合格した。

多分世間から見れば、それでも高学歴と呼ばれる大学なんだと思う。
でも学校では、負けたヤツ、エリート街道から落っこったヤツみたいな見方をされてたと思う。

競争を嫌い、というかそもそも参加してなかったつもりでも、
大学受験をした時点で競争という土俵に乗っていた。

そんなことすら気づいてなかった。

劣等感が無いと言ったら噓になる。
けれども別に心は平穏なままだった。

強迫してくるやつがまた現れた

入学して一年がたった。
二年生になった。

そんな自覚も一切なく、機械的に手続きをされた結果だった。
単位はどうだったか。
基本取れてはいたけどチラホラ落としたものもあったような。
まあとにかく、特に記憶に残るようなことはなかった。

妹が大学生になった。
一個下で今年大学へ入学した。
都内の国立に受かってた。

自分がいけなかったとこ、まさにそこに合格した。

親は大層喜んでいた。
たしか母親が泣いていた。
親戚も大喜びしてた。

「お兄ちゃんのリベンジできたね!」

黙ってろよ。
喚くなよ。
自分を比較対象に挙げんじゃねえ。
なんで劣等感を抱かなきゃいけないんだ。

小学生のころの塾を思い出した。
勝手に競争に組み込まれた感覚。
比べられて、下に回った日には
「お前もう価値ないぞ」って言われてるみたいになる感覚。

ようやく気付いた。
自分は常に競争に組み込まれている。

中学受験、大学受験。
校内試験、全国模試。

自分のこれまででも常に競争があった。
自分が競争に組み込まれている。という自覚がなくても、
周りから勝手に気づかされて、競争を意識することがたしかにあった。

自分は多分、負けたくないんだと思う。
競争に負けたくない。
だからそもそも競争に参加したくなかった。

この劣等感を消し去りたい。
そのためには競争の存在そのものに対して無自覚になるか、
競争に勝利しなければならない。

無自覚になんてなれない。
どうせ周りがまた気づかせてくる。

勝利するしかない。

小学生のころみたいに、競争を忘れるために競争に勝利するしかない。

大学生における競争ってなんだ?

いや、もう気づいてる。
将来の進路、つまるところ就職活動。

大学院へ行こうと、学者にでもならない限り就職活動がどうせ待っている。

なら自分は、就職活動で勝利してやる。
誰もがうらやむようなとこに行く。
それが自分にとっての勝利だ。

大学二年生の春、自分は就職活動に勝利すると心に誓った。

胃がキリキリ、ムカムカする感じを我慢しなければならないとしても。


後編へ続く

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