見出し画像

おじいちゃんとの最後の旅

おじいちゃんとの最後の旅
ウルフ・スタルク(作)、キティ・クローザー(絵)、菱木晃子(訳)
徳間書店
---

タイトルからもう結末シーンは決まっているようなものじゃないですか……
と思いつつも、手にとってしまった児童書。
先日から子供向けの本がマイブームのわたしだよ。いやこれとてもいい作品でした。作家さん流しで作品追いかけたいですね。めもめも……
手に取ったきっかけは図書館で目についたから、てだけで予備知識一切なしの、過去にも未読な作品です。
大人には…たまに邪気の無い物語が必要なんだよ…

おばあちゃんを亡くしたおじいちゃんは、もうずいぶんと長く入院していて、主人公のウルフ少年(おじいちゃんの孫ですね)はお父さん(おじいちゃんの息子だ)と一緒にたまにお見舞いに行くんですけれど、おじいちゃんとお父さんはタイプが違いすぎて折り合いが悪いんですね。そのため、おじいちゃんは体が動かなくなる前にやっておきたいことについてお父さんに相談出来ないんですよ。
ウマの合うおじいちゃんと孫のウルフ少年は、ある時計画を立てて、こっそりとおじいちゃんの外泊を実行に移します。おじいちゃんは何をしたかったのか、なんで体が効かない中でもそれをしたのか、おじいちゃんと孫はどんな時間を過ごして、どんな思い出を作れたのか。それをゆっくり、しっかり味わえる作品です。適度に明るく、適度にしんみり、そして終始ドキドキワクワクが続くエンタメ感。児童書いいな…長すぎず難しすぎない。でもとても面白い。これ映画にでもしたらすごい面白そうなんだけど、なってないんだな。えー、映像で見てみたいなーこれ……

作品内に酢漬けニシンやミートボール、シナモンロールが出てくるので、北欧あたりの話かな?て思いながら読んでたんですけれど、作者さんがスウェーデンの方でしたね。スウェーデン…ノルウェーとフィンランドの真ん中の国だな。何があったっけ…て調べてみたら、「長くつ下のピッピ」「ニルスのふしぎな旅」「小さなバイキングビッケ」が生まれた国です。なんだろう、旅ってものが好きな国民性なんかな…バイキング…そうね…移動へのバイタリティは強いのかしらね…もうちょっとスウェーデンの勉強しときます。
※感想のために部分部分を見直していたら、スウェーデンて単語が本に出てきてましたわ…

基本的にはおじいちゃんとウルフ少年の物語なんですが、この作品、世代や立場の視点の違いや、相互理解の難しさをかなりうまいこと描いておりまして、流れ的にお父さんは頭から終わりまで敵役の立ち回りなんですね。少年とおじいちゃんの旅の味方は肉親でもなんでもない「パン屋のアダム」という青年なんですが、あの、私は中年の女なんですけれど
「そうだな、少年の冒険には「ちょっとワルい遊びを教えてくれる年上の友達」の手伝いが必要だな」
と、つい訳知り顔で微笑んでしまいました。
これが現実の話であればちょっと眉をひそめてしまう点も多くあるんですけれど、大人側の「見たい現実しか見えなくなってしまう」という視野の狭さも「旅の成功の要因」となってしまっているんですよね。なので、もう割り切って見事なミステリー作品のトリックを楽しむような読み方をしたら良いのではないかなと考えて、シンプルに読んで面白がることに注力してみました。

わたしは物心ついたときには祖父はもう亡くなっておりましたが、幼少のみぎりには祖母と共に生活してました。なので、お年寄りが入退院を重ねて体が弱っていく姿や、気弱になっていく時間や、亡くなった伴侶の思い出話をそんなに細かくたくさんはしない、でもそこに心が残り続けていることなど、このおじいちゃんと少年の間に流れる空気、覚えがあるんですね。
で、そういった空気を作品の中で一番敏感に感じ取っているのは、おそらく一番「関係の無い」立場のパン屋のアダムで、だからこそ彼は一番のピンチの場面にも、絶品の「助け舟の腕」を披露するのかな、と思ってみたり。
そうだな、年上の友達は頭が回るものだよな。ふふふ。

ウルフ少年は幼さもあって、おじいちゃんの旅を助けたいとは思うものの、年も技術も知恵も足りず、また、その旅の重さまでは感じ取れていなかったんですよね。でも、おじいちゃんとアダムは一番遠い立場でありながら、「わかっている手助け」と「手助けの受容」をしたのだと感じます。そして、ふたりとも旅の重さや尊さを知るからこそ、その計画と実行を後悔しそうになるウルフ少年に的確な励ましを与えられるんですね。
アダムは最後までおじいちゃんとウルフ少年の味方で、旅が終わっても報酬も無しで少年に焼きたてのシナモンロールを与え、病院へ連れていき、またおじいちゃんにお別れを言い、ハグをして、ふたりきりの時間を与えてくれます。お父さんとお母さんはおじいちゃんと少年にこの手助けを与えることは出来なかったんですけれど、肉親て近すぎるとこれがもうなかなか出来なくなってしまうんですよね。
おじいちゃんとおとうさんの親子ではだめ。おとうさんと少年の親子でもだめ。世代をひとつスキップする距離でないとこの旅はうまくいかなかった。近すぎるとだめなんですよね。おとなになった今ならとてもよくわかります。

タイトルから、話のはしばしからの予想がついたとおり、おじいちゃんは最後には旅立ってしまうのですが、作中でのおじいちゃんの願いは叶ったのだと思える美しい挿絵で〆られています。
抜群の締め方でした。これはまた数年したら再読しよう。おじいちゃんの旅を知りたい方はぜひぜひ。


地味に驚いたのが、奥付2020年だった点でした。
ふ、ふ、古くからの名作だと思っちゃってたな!勝手にな!!
また、作者のウルフ・スタルクさんはこの本の完成を待たずに儚くなってしまわれたとのことで…よい作品に巡り会えたと思ったというのに残念です…
個人的にはスウェーデンに興味の深まった素敵な出会いでした。

この記事が参加している募集

読書感想文

いただけたサポートは9割5分以上の確率で本に化けます。使い切ってみせる…!!