見出し画像

このどうしようもない世界を褒めまくる(エッセイ)

今日も心が疲れている。今日が昨日よりも良くなるようにと努めるが、

上向きのエネルギーがから回り、満たされない期待ばかり生まれ、失望を繰り返す。

ああ、この不満をどこにぶつけようか。
不満が勝手に晴れていくような何かがないか。

そうだ。
「すっとんきょうな褒め」をすればいい。


電車に乗っているが、この座席はなんだ。

しっかりとわたしを支えてくれている。彼にはなんの得もないのにというのに、この68キロの体をもろともせずに、強く下支えしている。この積極的に仕事をしている姿、褒めずにはいられない。偉い。

目の前で座れずにつり革をつかんでいる少年、なんて偉いんだ。

低めのつり革がある部分で、頑張って腕を伸ばし電車の揺れに耐えている。座りたかったのに座れず、それでも我が家へ帰るために電車と共にゆく少年。みながこの小さな英雄の生還を待っているだろう。

田舎だから何度も乗り換えをしないといけない電車。この町。なんてけなげなんだ。

田舎の民を見放さずに、ちゃんと移動できるように、乗り換えを用意してくれている。人にやさしい町だ。人口は減ってきているようだが、この町の未来は明るい。きっと。

前の席に座っている人の髪の毛はなんて誇らしいんだ。

見るからに元気がある。力を感じる。さながら、富嶽三十六景の大波ような動きをしている。葛飾北斎がその持ち前の観察眼で波を写し取ったように、髪の毛という筆そのものが一瞬の静を演じている。芸術的な素養を持った毛根なのだろう。


いつも思うことがある。周りの人がどう動いてくれるのか期待して、その期待はいつも外れる。

はじめからそんな期待をしなければいいものを、心に飼っている強欲なハリネズミが近づきたいと言う。しかしいつも痛がっている。トゲを持って生まれたのに、めげずにアタックするその姿は、いつまでも要領を得ず痛々しく映る。

それなのに。

それなのに、うまくいくようにと背中を押し、見守り、願ってしまう。必死に生きている姿も知っているから。


この文章を読んでいるあなたは、なんとやさしい人だろう。

この文章も、心の温かさで面白く捉えてくれている。ちょっぴりドジなこの世界を、そんなところも悪くないと受け入れられるように努力する。

そのやさしさが、絶妙な温かさが、
立ちはだかる苦難・別れ・失望を、
バターのように溶かしていく。

この記事が参加している募集

習慣にしていること

最近の学び

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?