火竜廻路


寧王朝創始以来、二千年弱の歴史を持つ古都、龍城京の地下中枢部。そこには厳しい真鍮製の龍脈機関が胎動していた。龍脈機関から伸びる蛇のように長いパイプラインは龍城京の隅々にまで気力が行き渡り人々に繁栄をもたらしていた。
 しかし、どこか言葉では形容することができない不安が人々の心を蝕むようにのしかかっているように感じていた。

◆◆◆◆◆

――龍城京、王城区。
 龍城京の行政の心臓部にありながら一目につかないような幽霊屋敷が存在した。そこはかつて寧王朝で大臣を務めた貴族の古い屋敷だった。なぜ過去形なのかというと、その貴族は政変で追われて屋敷を放棄したからである。それ以来この屋敷は時が止まったままだ。
 そんな忘れられた幽霊屋敷に分け入る何者かがいた。
 「こんな気味の悪い幽霊屋敷に私の探し人がいるの?」
 少女が訝しげな表情を見せる。そこらかしこに怨念の気配を感じる。少女術師はしばらく躊躇したのち意を決して侵入した。
 屋敷内部は不気味なまで静かで、に気力の気配も何も感じなかった。少女は不気味さを覚えながらも幽霊屋敷内を探索していった。しかし成果は何も出てこなかった。
「やっぱり占い婆さんのお告げはデタラメじゃない」
 少女は苛立ちを感じさせる口調で毒づいた。その直後、少女は強大な気力を感知し振り返った!
「この強大な気力は竜……これがお告げに出た存在!?」
「それはこっちの台詞だ……お前、俺のことを探していただろ?」
 少女と相対したその男は低い声で少女を咎めた。男の瞳は黄金に輝き、強者の風格を漂わせていた。少女は思わず息を呑んだ。
「えぇ、あなたの存在をずっと探していたわ。今から鳳来山に来て……あなたにはやってもらいたいことが山ほどあるの」
 しかし、男は呆れた様子で少女を見た。
「お前が本当に探してたのは俺じゃない……俺がガキの頃に喰った竜のことだろ? 操竜術師さんよ」
 幽霊屋敷に剣呑な空気が走った。

【続く】

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