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太陽を盗んだ男「日本列島を俺の夢でうずめるのだ!」

世の中には名画と呼ばれる映画が多いですが、中には敬意をこめて怪作と呼ばれ、カルト的人気を博す映画もあります。

その一つが邦画「太陽を盗んだ男」(1979)。

沢田研二演じる冴えない高校教師が、強奪したプルトニウムをもとにポータブル核爆弾を手づくり、それをネタに日本と対峙するプロット。
今では完全にアウトな内容です。

皇居、国会議事堂、首都高速をゲリラロケして、数多くのスタッフが逮捕されるなど、撮影自体も社会への挑戦づづきだったようです。

さて、物語の中では、神のような破壊力を手に入れたのに、何を要求したいのか、主人公はそれさえもわかりません。迷走する中、ナイター中継延長やローリングストーンズの日本公演など思いつく限りの要求を国に突きつけます。

義憤に駆られて、とか、誰かのために、とか、一切存在しません。
彼に興味を示し近づいてくる美人ラジオキャスターもぞんざいにあしらいます。
このあたりもピカレスクロマンと言われるゆえんでしょう。

ついには、彼を追い詰めた刑事から、武道館をバックに、

「お前が殺したかったのは、おまえ自身だ」

と看破され、我を失います。

ラストシーンは、雨降る雑踏をさまよう中、全てを諦めるように、放射線の影響で抜け落ちた髪を無造作に投げ捨てます。
虚ろな眼差しで風船ガムを噛みながら、その後に何かの爆発音が響くSEがかぶさって映像は終了。

暗転したエンドロールに流れる井上堯之のゆるやかなタイトル曲に

「途方もない、おとぎ話だったでしょう?」

と肩を軽く叩れているようで、ある意味救われます。

爽快感が持ち味のアクション映画のはずなのに、全編にねっとりとした暑苦しさが漂います。
さらに、持て余した自らのエネルギーを変換しきれない、やりきれなさを感じます。
ディテールにこだわらず、これこそが70年代終盤の日本が欲していたダークヒーロー像だったのかもしれません。

予告編で流れるキャッチコピー、

「50億?100億?俺が欲しいのは金じゃない。
日本列島を俺の夢でうずめるのだ!」

今の日本に、こんな言葉を生み出すチカラは残っているでしょうか?

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