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2017/12/14~16 あのとき、ぼくは心の闇だった――演劇にまつわる黒歴史

子供の発表会を見ていて、そういえば自分もこうした劇をやったことがあったのを思い出した。

高校時代のことだ。

たしか全国高校文化祭とかいう名前で、地域の高校生を集めてミュージカルを行うという企画がもちあがった。

うちの高校にも役者募集がきたわけだが、全寮制脳筋の男子校のやつらがそんなものに興味があるわけがなく、結局立候補したのはぼく一人だった。

練習は他校でやるのでそのときだけ下界に降りられてジュースを飲んだりできる! やったぜ! それが楽しみだった。

初日に集まってみると、20人くらいいるメンバーはほとんど女子。

男子は4人くらいだった。

当然ながら当時のぼくはクソがつくほどの二次元好きだったので三次元女子はどうでもいいと思っていた。
ミュージカルのタイトルは「ミスコロンブス」というもので、ヨットで女子がシドニーだかどっかを目指すというストーリーだ。

主催者側も男子のことはあまり考えていなかったらしく、急遽作られたぼくらの役は「心の闇」。
心の闇は、ヨットが難破しそうになるとき黒タイツで現れて踊り狂う。

一ヶ月以上練習しただろうか。
本番、市民センターの舞台で、ぼくらは踊り狂った。

踊り狂ったあと、その足でぼくはひとり脚本の先生にあいにいった。

たまたま休憩時間だったらしく、偉い校長先生みたいな人がぽつんと部屋で椅子に座っていた。

「あの脚本を書いたのはあなたですか?」

とぼくは言った。
校長は嬉しそうに。

「そうだよ。まあ時間がなかったから数日でつくりあげたんですが」

と笑った。
「そうですか……」と、返す。
そんなことはどうでも良かった。
もっと大事なことがあるのだ。
ぼくは目を合わせずに早口で言った。

「失望しましたよ。コロンブス? 噴飯物ですね。あなたはコロンブスのことがなにもわかっていない。これには虐殺された先住民族のことが書かれていないじゃないですか。そうしたことを盛り込まずしてコロンブスなどといった象徴的なタイトルをつけるのはうわべだけのうすっぺらい脚本だとは考えたりしなかったんですか?」

部屋をあとにして、打ち上げには参加せず家に帰った。
心配して電話をかけてきた女子に、

「おれはあの演劇の脚本には賛同しかねる。委細は校長に尋ねればわかるであろう」

とか自意識過剰な態度で一方的に電話を切った。
なぜあのとき、それほどまでにあの脚本に文句をつけたのか。
それには深い理由があった。
20年以上前の、あのときの理由をいま告白しようと思う。
なぜぼくがあのとき、ミスコロンブスに対して過剰な拒否反応をしめしたのか……それは、

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