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2016年12月29日 大友良英スペシャルビッグバンド 『ノイズまみれのサウンドトラックス1』

(2016-12-29)

年末恒例、新宿ピットインで行われる大友良英さんの4DAYS公演。2013年以降、最終日を飾るのは「あまちゃんビッグバンド」そして名前を変えて続く「大友良英スペシャルビッグバンド」。

「2013年は色々あってチケットが物凄く売れたんです。だけど最近はだんだん売れなくなってきて。」なんて自虐的なコメントで冒頭から観客を笑わせた大友さんだけれど、この日の公演は超満員。数年にわたって「楽曲の解体と再構築」を繰り返すバンドの充実ぶりに「あまちゃんブーム」の頃とは全く異なる音楽ファンが根づいていることが伺える。

ピットインのステージエリアに所狭しと並べられた楽器、そしてメンバーのための小さな椅子。メンバーの入場が終わると、「えー」という口癖をSachikoさんや観客に突っ込まれながらの大友さんによるメンバー紹介。とても和やかな雰囲気。続いて大友さんから今回の趣旨説明。事前に全くセットリストを決めず、その場でいきなり譜面を配り、(劇伴の録音のように)その譜面を見ながらその場でアレンジの大枠を決め、メンバーはほぼ初見の譜面とそのアレンジに沿った形でアドリブを入れながら演奏する、と。「イントロはCM7ブワーッと始まる」「基本ユニゾンだけどカウンターライン行っても良い」「(2)になったらアドリブ、その後ダルセーニョ…」みたいな感じ。大枠だけ決めてチューニング、そして1曲目へ。

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実は、この日は二つの出来事があった。

まず、早朝に流れたピエール・バルーさんの訃報。僅か2カ月ほど前に大友さんがバンマスを務めた日本公演があったばかり。あの時の笑顔を見るとお元気そうだったのだが…

そして、この日の1stセットの開演直前。客電が落ちてすぐ、自分が座る2列目の斜め前、つまり最前列に座る人影。ステージに照明が入ってすぐのん(能年玲奈)さんだと気づく。その左には井上剛ディレクター。斜め前の席、後頭部越しにステージを眺めるなんて、2010年1月に大瀧詠一さんの後頭部を眺めながら松たか子さんのステージを見て以来のことで、意味もなく緊張してしまうが、少なくとも1st Setの段階で気づいた観客はほんの僅かだったように思う。

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昼の部 1st Set

1曲目は公開されたばかりの映画「この世界の片隅に」のテーマにも使われている「悲しくてやりきれない」。演奏後にのん(能年玲奈)さんが関わった映画でとても素晴らしい作品であること、映画ではコトリンゴさんによるカバーだが、フォーククルセダーズがオリジナルも素晴らしくて、加藤和彦さんの作品であること、など大友さんからは丁寧な作品説明。

2曲目、いきなり客席にリクエストを取るが「blue」という名前が挙がり、メンバーに配る譜面が無く却下。あまちゃんの劇伴制作の時にほぼ同じコード進行で作ったという「海」をやることに。と言っても、これらの曲はコードが進行しない「モード」という考え方で作った、という話を、「コード進行とは」という即席音楽講座を交えて説明。「坂本龍一さんのスコラみたい」とか笑いながら。

そう言えば、ちょうど大河(後の「いだてん」)を井上剛ディレクターが手がけることが発表されていた為、「自分にまだ依頼が来ていない。これで久石譲さんになったらどうしよう。」と言って笑わせる大友さん。

3曲目に入る前にピエール・バルーの訃報に触れ、「10月にライブをやったばっかりだった」と。そしてここでもその場で頭の入り方だけ決め、ブリジット・フォンテーヌの「ラジオのように」へ。中盤、コンダクターとしてメンバーのソロ回しをその場で指示していく大友さんと、アドリブで応えるメンバー達。緊張感と開放感が繰り返し押し寄せてくる。

4曲目は再び「あまちゃん」の劇伴から。恐らく長期間演奏していなかったのであろう。その場で「Aを2回」とかBPMの確認などをしている。「こんな場面見ていたらやっぱり音楽は久石譲さんに行ってしまうかも」との大友さんのコメントに場内爆笑、そして曲はほぼ全編インプロビゼーションの嵐。凄い。

5曲目は「あまちゃんワルツ」...鈴木広志さんが持ち込んだ1000円と90000円のリコーダーをその場で聴き比べることになったのだが、メンバーからは「変わらない」と冷たい意見。ちなみに、あまちゃんのレコーディングでは安い方を使ったそうだが、今回は高い方を採用。この曲はヘッドアレンジもせず「自分たちで考えましょ」と大友さん。それでも何とかしてしまうこのツワモノメンバーたち。

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昼の部 2nd Set

「休憩中に楽屋で喋りすぎと批判を浴びたので、2nd Setは早口で喋ります」とのコメントでスタートした2nd Set。1st Setでリクエストの入った「blue」の楽譜がコピーできたとのことで、この曲から。各パートごとにソロ割りやざっくりとしたアレンジをその場で決める。「中盤のドラムソロ、小林君が世界で一番かっこいいソロを決めてください」「2段目の4小節目はユニゾンで」と言った感じで大友さんとメンバーとのやり取りがいちいち面白い。

大友良英スペシャルビッグバンドはNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」の劇伴を担当することになった大友さんが、江藤直子さん、近藤達郎さん、Sachiko Mさん等の旧知のメンバーと、以前から交流のあったチャンチキトルネイドを合体させる形で結成された「あまちゃんスペシャルビッグバンド」を母体とし、「あまちゃん」がひと段落ついた2014年に現在の名前になった。以来、年半ばと年末のピットイン公演やフジロック、Project FUKUSHIMAなどのフェスやイベントで不定期に演奏を繰り返している。当初はあまちゃんの曲がレパートリーのメインだったが、徐々に楽曲はカバーが増え、初見演奏やインプロビゼーション、既存曲の「解体と再構築」中心の構成へと移行してきている。言うまでもないがメンバーの力量が異常に高い。

「その街のこども」は上述の井上剛さんが演出し、大友さんが音楽を担当した阪神大震災を扱った映画の主題歌。オリジナルでは阿部芙蓉美さんが歌ったが今日はインスト。パート割りやリピートの確認等をその場でしつつの演奏だが、演奏は完璧。

近藤達郎さんのハーモニカが秀逸なお馴染み「希求」から、大友さんのエレキギターのストロークに始まる「灯台」へと、あまちゃんのサウンドトラックでも人気の楽曲が続けて演奏されると、ライブも終盤。ここでサプライズが待っていた。

「じゃあ折角だから潮騒のメモリーもやっちゃおうか」という大友さんのコメントに沸く観客たち。その場でボーカルを担当することになったSachikoさんがステージ前に出てくると、手に持ったマイクをいきなり最前列ののんちゃんに「はいっ」と渡したのだ。恐らく後ろの方にいた観客はこの時点まで、彼女が会場にいることに気づいていなかっただろう。戸惑うのんちゃんをよそに、拍手喝采の客席。

1番をのんちゃん、2番以降をのんちゃんとSachikoさんのデュエットで歌ったこの曲は、恐らく能年玲奈さんにとって2年以上封印せざるを得なかった「あまちゃん」との久しぶりの邂逅。続く「あまちゃん」のオープニングテーマは、新たな一歩を踏み出したのんちゃんへの大友良英スペシャルビッグバンドからのエールのように思えてならなかった。

それにしても。今年6月のピットイン公演が、これまでの活動の集大成の如き完成度だった大友良英さんのスペシャルビッグバンド。今回は解体と再構築。その場で楽曲の進行やパートを打ち合わせ、さらにインプロをかませるミュージシャンシップに度肝を抜かれた第一部。いやー凄かった^^

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大友良英スペシャルビッグバンド「ノイズまみれのサウンドトラックス1」
(29 December 2016 / 新宿ピットイン)

昼の部 1st Set
01 悲しくてやりきれない
02 海
03 ラジオのように
04 地味で変で微妙
05 あまちゃんワルツ

昼の部 2nd Set
06 blue
07 その街のこども
08 希求
09 灯台
10 潮騒のメモリー
11 「あまちゃん」オープニングテーマ

大友良英 Guitar
江藤直子 Piano
近藤達郎 Keyboards, Harmonica
斉藤寛 Flute
井上梨江 Clarinet
鈴木広志 Sax
江川良子 Sax
東涼太 Sax
佐藤秀徳 Trumpet
今込治 Trombone
木村仁哉 Tuba
大口俊輔 Accordion
かわいしのぶ Bass
小林武文 Drums
上原なな江 Marimba
相川瞳 Percussion
Sachiko M Sinewaves, Vocal
のん Vocal (M10)

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さて、夜の部。昼の部に出たのんちゃんの出演はなく、夜の部に来た友人は悔しがってました(笑)。また、昼と夜でかなり曲が入れ替わっていたのも印象的。「男と女」はピエール・バルーさんの訃報を受け、この日朝に大tもさんと江藤直子さんで譜面を起こしたものだそう。

夜の部 1st Set
01 男と女
02 ラジオのように
03 悲しくてやりきれない
04 友情と軋轢
05 アキのワルツ

夜の部 2nd Set
06 地元に帰ろう(Vocal: Sachiko M)
07 LIVE! LOVE! SING!
08 テレビジョンがやってきた
09 海
10 孤独の歳月
11 希求
12 灯台
13 「あまちゃん」オープニングテーマ(Long Version)

encore
14 スーダラ節

大友良英 Guitar
江藤直子 Piano
近藤達郎 Keyboards, Harmonica
斉藤寛 Flute
井上梨江 Clarinet
鈴木広志 Sax
江川良子 Sax
東涼太 Sax
佐藤秀徳 Trumpet
今込治 Trombone
木村仁哉 Tuba
大口俊輔 Accordion
かわいしのぶ Bass
小林武文 Drums
上原なな江 Marimba
相川瞳 Percussion
Sachiko M Sinewaves, Vocal

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