久しぶりにバスに乗った。優先席がある。そこに座るのには結構勇気がいるものだ。

優先席

 

さっと席を立った女がいる

降りるのかと思ったら

どうぞ と席を譲られた

ドキリとしたが

席に座るとバスは動き出した

その人に頭を下げた

 

この席は高齢者優先席である

その年齢に達しない人が

おしゃべりしながら座っている

譲ろうとはしないが

吊革一つあれば

まだ立っている事ができる

 

その女の人は躊躇する事無く

席を立った

当たり前のように 

この席は高齢者ばかりが

座る席ではない

小さな子どもを連れたお母さん

妊婦さんや体調が悪い人

人の情が交わる席だ

 

次の停留場で

私より高齢と見られる人が乗った

おしゃべりはまだ続いている

私は立ち上がって

どうぞ とその人に席を譲った

席を譲られた者が席を譲る

その女の人と目があった

 

下車するブザーを押した

その女の人もブザーを押した

偶然が二つ重なった

優先席を譲ろうとしなかった

人の情が交わる席で

おしゃべりし続けていた人は

心に何も残せなかった

 

久しぶりに乗った

バスの中で人生の縮図を見た

心が興奮していた

当たり前のように席を譲り譲られ

バスに揺られる

今は無関心でも

その席に座る時が来るのだ

 

まだ知らないだけなのだろう

見る角度を一つ変えれば

席を譲ろうとしないその人にも

優先席が用意されている

今でない事だけは確かだ

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