鍋で米を炊いている時に、鍋が動き出した。
スルーっと遊園地のコーヒーカップのようにIHの上を回りながら滑る。

鍋には5合の米と1Lの水が入っていて重いはずなのだが、それを感じさせない軽やかな動きだった。ギョッとしたものの、すぐに原因は理解できた。IHと鍋の間に水が入っており、一部が熱で蒸発。鍋底が浮き、滑るように移動したのだろう。鍋をずらし、水分を拭き取ると案の定鍋は動かなくなった。

先ほどの鍋の動き方を思い出す。あまりに軽やかで、生物性すら覚えた。
僕が先述の対処ができたのは、科学で説明できるはずだという思い込みによるものだ。神や運命で世界を説明する人が見たら「見えざる手」や「吉兆、凶兆」に見えるに違いない。僕はその見えざる手を科学の目で振り払ってしまった。

ごめん、次はもっと遊ぼう、またきてね。

もう動かない鍋を見ながらそう思った。

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