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ケン坊とドロボット🤖(寓話)

ケン坊はおばあちゃんがキライでした。
ご飯を作ってくれるのはいいけど、メニューが気に入らないのです。毎日でもハンバーグやスパゲティが食べたいのに、たまにしか作ってくれません。
そのうえ好きでない食べものも、残しちゃいけないこぼしちゃいけない、大切に食べなさいとムチャをいうのです。
パパもママもキライでした。それはおばあちゃんが正しいなどとリフジンを言うからです。

いつもおばあちゃん、パパママがいなくなればどんなにせいせいするかと思っていました。
「ああ、ジユウが欲しい!」

ある日の留守番中、怪しげなヒゲの紳士がおうちを訪ねてきました。
「ぼうや、いまお父さんかお母さんはいるかい?」
「いないよ」
「それは好都合、いやなんでもない。ぼうや、パパやママはうるさくないかい。セイカツに疲れてはいないかい?」
「なんだか大げさみたいだけど、うるさいよ。パパもママもおばあちゃんも」
「さあ、それだ」
ヒゲは車から大きな箱を下ろし、蓋を開けました。「先日、ジユウが欲しいとぼうやの声が聞こえてね。持ってきたのさ」中にはロボットが一体、入っていました。


「コイツはゲンダイカガクの粋を集めたパーフェクト・ロボットだ。コイツに出来ないことはない。そうだな…例えばぼうやの好物はなんだい?」
「ハンバーグ、ミートソース、唐揚げ、カレーライス、クリームシチュー」
「ずいぶんあるな」
「まだだよ。チキンナゲット、ポテトチップ、チョコレート、ロールケーキ、あとモンブラン」
「上出来だ。よくそんなに料理名が出る。このロボットなら…名前は『ドロボット』と言うんだが、今言った全てを完全に知り尽くしている。おちゃのこさいさいだ」
「なんだかドロボーみたいな名前」
「バカ言うな。ド外れた、超ド級のドだ。まあいい、ぼうや、こんなロボットを欲しくないかい?」
「欲しくないと言えばウソになるけど、お金なんかないよ」
「うむ。何しろド外れたロボットだからな。心配するのも無理はない。しかしぼうや、もし、これをタダだと言ったら?」
「それはド外れたサービスだね」
「察しがいいな。まさに私はそのド外れたサービスをしようと言うんだ。キミにコレをタダであげよう。今日からぼうやはパパとママから解放される。もう何もガマンしなくていい、キミは本当のジユウを手に入れるのだ」
「マジで?」
「このヒゲに誓って、マジだ。じゃ、そういうことで」
ヒゲの紳士は、ドロボットを置いて去っていきました。

案の定、パパとママは怒りました。
「知らない人からものを貰うなんて!」
「返そうにもどこの誰かも分からないし…」
ケンケンガクガクです。
いつもそうだ。僕の思ったことはみんなじゃまするんだ。だいたい僕の好物を出してくれないから、こんなロボットを貰う気になったんだぞ!
いよいよ腹が立ったケン坊は、
「もうこんなうち出ていく!ドロボット、僕せんようの家を建てて!」と叫びました。


ドロボットは玄関を飛び出すが早いか、どこからともなく柱や板やブロックやレンガやらを抱えてきてあっという間に庭に小さな家を(それは日本のとも外国のともつかない奇妙な家でしたが)建ててしまいました。ケン坊はそこに引きこもったのです。

「ドロボット、お前すごいね。ヒゲの言った通りだ。でもなんだかヘンテコな家だけど」
「めいれいノじょうほうぶそくデス」
「ふーん。じゃあ次は晩ごはんだ。ハンバーグとクリームシチュー!」
またどこかに出ていったドロボットは、程なく料理を抱えて帰ってきました。
お皿には、ハンバーグとシチューがごちゃ混ぜに入っています。
「おい、なんで混ぜちゃうんだよ」
「はんばーぐトしちゅー、andめいれいデシタノデ」
「??…気が効かない奴なんだな。そういえばこの家もなんだかごちゃ混ぜみたいだし。カレーとお刺身なんて言わなくて良かったけど」
「キニイラナイナラ、ナンドデモメイレイデキマス」
「あのさ、こう混ぜないで…駅前の『トントン亭』みたいにキレイなハンバーグを持ってきてくれない?」
ドロボットは三度出ていきました。今度は少し時間がかかりましたが、持ってきたのはきれいに盛り付けられたハンバーグ…それはもう駅前トントン亭、そのもののようでした。
「やればできるじゃないか!なるほどこう命令すればいいんだな。じゃあ『アミーゴ』みたいなミックスピザと『ワック』みたいなポテト、あと『ファミスト』みたいなジュースも頼むよ、混ぜないでね」
ドロボットはまた出ていき、言われた通りのものを持ってきました。それはケン坊の希望が詰まった、まさに理想的なディナーに見えました。
が、食べようとしたまさにその時。
「ケン!これはお前のロボットか?」
怒号に目をあげると、ドアの前にトントン亭のご主人が赤い顔をして立っていました。
「さっきいきなりコイツが店に来たかと思ったら、客に出すハンバーグをひったくって逃げやがった!追いかけてきてみたら…」
「うちもヨ!」
と言いながら、ピザ屋『アミーゴ』のお兄さん(彼は帰国子女なんです)もやってきます。
「こっちも!」コンビニ『ファミスト』のレジのお姉さん、『ワック』クルーのおばさんも来ました。お皿を見て口々にこれはうちのだ、こっちはうちのだと大騒ぎです。
「え?え?ドロボット、おまえ、やっぱりドロボーだったのか!?」
「めいれいヲじっこうシマシタ」
「だって、でも盗んじゃダメじゃないか!」
「めいれいノきんしじょうほうぶそくデス」
「じょうほうぶそくじょうほうぶそくって、それくらい分かりそうなもんじゃないか!全くお前は…」
「ケン!」
一際大きく、トントン亭のご主人が叫びました。
「分からん奴は、お前だ。食いモノがタダでポコポコ出てくるわけないだろう!」
「ピザ、私のアート!盗むはヒドいヨ」
「ほかのお客さんに迷惑だよ」
「ロボットのせいにするなんてケンちゃん卑怯だわ」
アミーゴのお兄さんも、ワックのおばさんも、ファミストのお姉さんも言いました。
慌てて飛び出してきたパパが平謝りに謝って、代金を払っています。


その後、ケン坊も一緒に全部のお店に謝りに行ったのは言うまでもありません。
(庭にこさえた家の材料だけは、ゴミ捨て場から拾ってきたようですけど)

「…くっそーあのヒゲ。何が『ヒゲにかけて誓う』だ、今度あったら引っこ抜いてやる!」
「たすくすけじゅーる二いんぷっとシマス」
「もう黙っててくれよ」
けっきょく、ひとくちも食べられなかったケン坊はお腹がペコペコになってしまいました。でももうさすがにドロボットに頼むことはできません。家族のみんなにも恥ずかしくて頼めません。途方に暮れていると、おばあちゃんがそっと耳打ちをしました。
「ケン坊、わたしゃ思うんだけどね。さっきは命令がヘタだったんじゃないのかね」
「え?」
「どっかのなにかを持ってこいの命令はこれはドロボーだ。そうじゃなく…まず試しに、どうやって作るのかを聞いてみたら?」
その時、ドロボットの目が青く点滅しました。
「ワタシハセカイジュウノアラユルれしぴ二あくせすデキマス」
「ハンバーグも?」ケン坊は聞きました。
「0,25びょうデ5せん250まんケンノれしぴヲはっけんシマシタ」
「モンブランも?ロールケーキも?カレーもシチューもポテトチップも?」
「スベテけんぼうノオモウガママデス」
「大した奴だね」おばあちゃんは笑いました。「私だってそんなに知りゃしない。ねえケン坊、コイツは本来こう使うんじゃないかえ?」
「でもダメだよ」ケン坊は言いました。
「だって作り方を聞いたって、僕はできっこないもの」
「ワタシハせかいじゅうノアラユルむーびー二あくせすデキマス」ドロボットが言いました。「くっきんぐどうがヲさんしょうシ、まねルコトデさいげんノかのうせいガアリマス」
「さいげんって、要するに作れるの?」
「至れり尽くせり」またおばあちゃんは笑いました。
「でも、材料は?」ケン坊がさらに言うと、
「それくらい買ってあげるわよ!」
「お店に弁償するより、ずっと安い!」パパママが言いました。
「トリアエズれいぞうこノナカミヲすきゃんサセテクダサイ…かれーナラスグデキマス」
ケン坊はあきらめて、ドロボットと一緒に生まれて初めての料理に挑んだのでした。

3か月後。
トントン亭にケン坊一家が食事に来ていました。ドロボットは料理をスキャンしながら「そーす二せろりのソンザイヲカクニン、トントンテイコウシキさいとニナイじょうほうデス…でーたコウシン…」と忙しそうです。ケン坊も「セロリ?僕キライだけどな、苦味がいいのかな」と興味津々です。ご主人を見たり、厨房を見たり…パパは「こら、あんまりキョロキョロするな」と心配そうです。

「なに、お金払って座った席から見えるものは何を見たって構いませんぜ」とご主人は笑いました。「ケン坊しっかり食えよ。これが本当に旨いハンバーグだ。商品はダメだが味は盗んだっていい。けどそう簡単にマネできるとは思わない方がいいぜ」ご主人は自信たっぷりです。

その時、ケン坊の目に見覚えのある顔が飛び込んできました。窓の外です。ケン坊は急いで席をたち、追いかけて通りへ出ました。
「こら待て!そこのヒゲ!」
呼ばれて振り向いたのは、あのヒゲの怪紳士でした。
「おお、ぼうやか。ドロボットの調子はどうかね?」
「どうかねじゃないよ、最初はホントにドロボーをやらかして町じゅう謝り歩いたんだぞ!何がパーフェクトロボットだい、え、誰がジユウだって?」
ケン坊はこの日にために考えておいた文句をいっぺんに叩きつけました。怪紳士は目を伏せて、ゆっくり返事をしました。
「キミもか。みんな使い方を間違える…で、それからどうしたね?」
「おかげさまでこっちはすっかり料理少年だい。けっきょく自分で作ってりゃ世話ないよ、あんなもの押し付けられて」
「するとぼうやはめでたくジユウになったわけだな」
「なんだって?」
「食べたいものをいくつか作れるようになった。おばあちゃんに頼らなくても」
「いくつかどころか、もうカレーもシチューも唐揚げもポテトチップもハンバーグもミートソースも」
「いい、いい。ぼうやが料理の名前に詳しいことはよく覚えてるよ」
「ロールケーキとモンブランはまだだけど」
「それもそのうち覚えるだろう。そしてまたジユウになるわけだ」
「なんだいジユウって」
「自分のことが自分で出来ることさ」
「お説教なら聞かないよ」
「お説教だって?バカな、ゲンゼンたる…ただの事実だよ」
怪紳士は大きく息を吸って、ケン坊を見据えました。
「料理上手のおばあちゃんがいて、いいパパママがいて。それはそれでいいだろう。みんな優しい家族任せだ。で、ぼうやは満足だったのか?ジユウが欲しいと叫んでいたのはぼうや、他ならぬキミじゃなかったかね。私はドロボットをそういう人達のために作った。今までぼうやの前にも、何体もあげて回ったのだよ。ジユウを掴んでもらうために…!
…だが間違いだったかもしれぬ。多くの人は、ドロボットに結局同じことを望む。自分でするより…何もかも代わりにやって欲しがるのだ。その時。まさにそのココロが、ドロボットを本当のドロボーに…

いてえ!!!」

ブチッっと強烈な音を立てて怪紳士の口ヒゲ、見事な八の字ヒゲの右片方が、豪快に引き抜かれました。抜いたのはいつの間にかケン坊を追ってきていた、ドロボットでした。


「おま…何すんだ!ワタシの顔を忘れたのか?」
涙目で怪紳士が言うと、ケン坊が思い出しました。
「あ、ごめん。そういえば命令してあったんだ」
「コンドアッタラヒゲヲヒッコヌク。すけじゅーるたすくヲかんりょうシマシタ」
「いや、まだ半分残ってる」
「やめろ!」
怪紳士はわめきながら人混みに紛れ、それっきりもう見えなくなってしまいました。


…ケン坊とドロボット(寓話) 、終わり。

たくさんのサポートを戴いており、イラストももう一通り送ったような気がするので…どんなお礼がいいですかねえ?考え中(._.)