多羽(オオバ)くんへの手紙 ─3─
貴代先生は、担任が女性の体育教師だったためウチのクラス付きになったようだ。多羽の姉、貴代のいる学校生活に緊張していたのはおそらく私だけだっただろう。
多羽はモテそうなタイプではなかった。
当時はチェッカーズが大人気、不良マンガが流行っていたこともあり、可愛いいか、ちょっと悪そうなタイプの男の子に人気が集中していた。
野球部で坊主の多羽はもれなく非モテであった。女子にはかなり奥手だったようだが、今思えば多羽が好きだったのではないだろうかと思い当たる女の子がいる。
***
小牧鈴代。私が一番仲良くしていた子だ。
「水澄ってキレイな名前でええなぁ。鈴代っておばあちゃんみたいやろ?」と言っていたが、私はいい名前だなと思っていた。
「水澄のことさ、ミスミンって呼ぶわ。私はスズとかでええよ。」
スズって何か言いにくい。
「鈴でリンリンだからお鈴はどう?」と提案してみた。
「お鈴ー!いいね!ミスミンナイス!」
私はお鈴のことがとても好きだった。恋愛感情ではなく、憧憬の念を抱いていた。
お鈴の両親は離婚していた。
元は上村鈴代だったが、ある時から小牧姓になった。本人から聞いたわけではないが、母親の再婚相手の姓だったらしい。
2つ上の姉と2人姉妹だった。お鈴も姉も母親もちょっと目立つくらいの美人だった。それもあって子連れで再婚できたのかもしれない。
ただ、その頃からお鈴は夜遅くに遊び歩いたり、授業をまともに受けなかったり少し横道に逸れだした。休みの日も独りでブラブラとしていたようだ。
血の繋がりのない人がいきなり家族になる。
思春期の女の子が母親の女の部分を目の当たりにするのは酷だったろうなと今なら思う。
お鈴はもちろんモテた。
美人なのに気取ったところがなく、人や物の好き嫌いがハッキリしており今でいう「小悪魔」的な魅力があった。
不良で人とあまり群れないお鈴に憧れ羨ましく思っていた。
***
「ミスミンは気になる子おらんの?男子」
「多羽かな」
喉に刺さった魚の小骨がポロッと取れたような感覚だった。
「ふーん」
お鈴は「よそんちの昨日の晩ご飯」程度の興味しかなさそうだった。