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多羽(オオバ)くんへの手紙 ─12─

セーラー服の袖に腕を通す3回目の春。

真っサラでもなく
スカートのお尻や上服の背中がこすれて少し光っていたりするけれど
クリーニング帰りのパリッとした相棒が
「また1年付き合ってやるよ」と言っている。

肩先にヒラリと落ちて来た桜の花びらを
少し眺めてフッと吹いた。
ひらひら、ゆらゆらと風に舞ってどこかへ飛んでいく。


のんびりと正門をくぐると、クラス編成の貼り出してある窓の辺りが
生徒たちでごった返していた。

窓の外側に貼り出されている「○年○組 担任:○○」とそのクラスのメンバーが書かれた紙を順に確認していく。
答案用紙や通知表を渡される時よりも緊張する瞬間だ。


「ミスミーン!また同じクラスやで!ミスミンもはよ見ておいでや!」
私が確認するより先におリンが駆け寄ってきて教えてくれた。
それだけ言うと、おリンは別の友達の方へと行ってしまった。


またおリンと同じクラスなのは素直に嬉しい。
別のクラスになっても疎遠にはならないだろうが、私はいつもおリンの近くに居たかった。

明里アカリとは別のクラスになってしまったな。
ライパチとも離れた。
これはどっちでもいいや。

仲良しや初めましての名前を見つけて「へぇ~」などと思いながら
順番に確認していく。
私の名前は1組と2組にはなく、3組の貼り紙の前に来た。

50音順で上段に男子、下段に女子と2段に記載されている。
担任は野口先生という30代くらいの男性教師だった。





男子の段に多羽オオバの名前があった。
多羽オオバイタル
そうだ、イタルという名前だった。
バレンタインの時のようにフワッとしてドキンとした。


私の名前がありますように。
どうして「あ行」の苗字じゃないんだろうか。
羽田ハタ」なんて後ろの方じゃないか。



ハヤる気持ちをグッとコラえて
ゆっくり見ている振りをしながら、速読のように自分の名前を探した。



小牧鈴代。
リンの名前があった。
先に知っていたのにまた嬉しくなる。





ずっとずっと後ろのほとんど終わりの方。

羽田ハタ水澄ミスミ

宙ぶらりんで可哀そうに思えたこともあった私の名前。
この名前で良かったなどと現金な気持ちにすらなった。

最初の方じゃなくたっていい。
確かにそこにある。


「ミスミン、良かったなぁ」
どこからか戻ってきたおリンが満面の笑みを浮かべている。

「ウチがミスミンと多羽オオバを一緒のクラスにしたってって頼んだからな。野口先生にじゃないけどな。」

「ホンマやな!おリンのおかげやな。ありがとう」

リンの懇願でそうなるはずなどない。
持ちきれなくなった両手いっぱいのキャンディーが溢れ落ちるように
リンへの感謝の言葉が飛び出した。



13に続く…





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