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【ゲーム感想文】『Fate/Samurai Remnant』~コーエーテクモのFate愛が結実した聖杯戦争体験装置~


評価:★★★★☆

 先日、PS5版『Fate/Samurai Remnant』(Fate/SR)をクリアーしました。
より詳しく言うと、全エンディング(若旦那のアレも含めて)と全異傳を見て、それ以外のやり込み要素はぼちぼち残している状態ですね。

 自分は同人版『月姫』からのTYPE-MOONファンで、このFate/SRも発売前から期待して発売日から早速プレイ……していたのですが、ゲームとして冗長に感じられる時期があって一旦中断、その間は『龍が如く7』とか『バルダーズ・ゲート3』とか『P5T』を遊んでました。
 しかし2024年1月中旬に『Fate/Grand Order』で、このFate/SRとのコラボイベントが始まると告知され、ネタバレを喰らう前にと攻略を再開する事に。まぁ割と後半まで進めていたので、再開後はサクサクと各エンディングやサブイベントを消化する事ができましたが。

 本作Fate/SRはTYPE-MOONやラセングルではなく、コーエーテクモ主体で製作されたゲームですが、実際にプレイするとコーエーテクモのFateに対する「愛」がこれでもかと込められており、同社が得意とする歴史的な知識やセンス、更には文章ベースだったFateの世界観や聖杯戦争と云う舞台を、ゲームとして再現するシミュレーション・ゲームのノウハウを活かした本家に一歩も劣らぬFateであり、聖杯戦争を体験できる優れた装置だったとも思います。
 ただし個人的にはアクションゲームとしての不満や、設定的にもやや説明不足で面白いが故に物足りなく感じた点から、自己評価は4/5点(良作)としました。



剣士、江戸を駆ける


 本作の舞台は江戸時代(慶安四年、1651年)で主人公は宮本伊織。実在の人物であり、あの宮本武蔵の養子としても有名な武士ですね。
 本作の伊織の生い立ちや生き様は創作ですが、同時代を生きた一人の人間だと感じられる、血の通ったキャラクターとして描かれていました。
 そんな彼が江戸で行われる亜種聖杯戦争「盈月 ( えいげつ ) の儀」に巻き込まれ、セイバーのマスターとして魔術師と英霊のバトルロイヤルを勝ち抜く――というのが本作の物語。

 他のFateシリーズとの違いとしては、ひとつは主人公の伊織が凄腕の剣士であり、文字通り英霊と肩を並べて戦うマスターである事。『Fate/stay night』(Fate/SN)だと葛木先生の様なポジションですね。まぁ伊織のサーヴァントであるセイバーは後方支援ではなくバリバリのアタッカーなので、基本は二人で戦う事になるのですが。
 もうひとつが物語の舞台が江戸時代であるという事。単に和風なFateなのではなく、この時代や歴史的背景だからこそ描くことのできるドラマや関係性が描かれ、ビジュアル的にも時代劇のイメージより更に一歩リアルに踏み込んだ江戸の街並みは、散策するだけでもたっぷり楽しめます。

 本作の優れた点は江戸の町を散策する事が育成だけでなく、聖杯戦争のロールプレイにも繋がっていて、セイバーと共に名所を観光や屋台で食べ歩きしたり、本筋以外のトラブルやエピソードを解決することで、ユーザーとしても自分のサーヴァントと親睦を深められるんですね。
 型月ファンならそれがFate/SNにおけるセイバールートの追体験だとすぐ気付くと思いますが、それをコントローラーを通じて疑似体験できるのは、このゲームならではの醍醐味だと思います。


Fateシリーズとしても魅力たっぷりの英霊とマスターたち


※一覧画像がないのでキービジュアルで代用

 Fateと言えば、時に史実や伝承に忠実で時に大胆にアレンジされる英霊(サーヴァント)とそのマスターとの関係性、バトルロイヤルを主軸とした群像劇が売りですが、他のFateシリーズに登場する数多のキャラクターと比べても、本作のマスターとサーヴァントも魅力的すぎて、FGOに来たらまた財布が空になるじゃないですか! 俺がセイバーお迎えするのにどんだけ課金させられたと思ってるんだ!(実話

 詳しい事はネタバレ満載なので語りませんが、本作は主人公であるセイバー陣営のドラマが濃密に描かれる一方、周回プレイの楽しみとして他の陣営のドラマがサブイベント(異傳)として用意されています。これがまた短い割に濃密で楽しくてねぇ……
 単なるドラマだけでなく、そのイベントだけのプレイアブルキャラクターとしてセイバー以外のサーヴァントを操作することができたり、専用の宝具演出もあるので、余計に好きになっちゃうじゃんこんなの……

 あと本作オリジナルのサーヴァントだけでなく、他のシリーズでもおなじみのサーヴァントも操作できたりサブイベントが用意されていて、ここでしか見られない側面もあるのはファンサービスとしてもグッジョブ!
 個人的には「あなたマジで神代の魔女だったんですね」となる逸れのキャスターと、逸れのセイバーの中で「彼女」が美化されすぎていて、カルデアに来る事になったら身辺整理させないと……と心配になったのが印象的でしたね。

無双したいのに無双できないアクションパート


 さてここから不満点についてですが、最大の不満点はやはり本作のアクションパートですね。

 本作はコーエーテクモの中でも「無双」シリーズのオメガフォースが製作に関わっているので、アクションパートのベースは無双シリーズのそれ。弱攻撃と強攻撃によるコンボと各種特殊攻撃で、無数の敵を文字通り薙ぎ倒すものになっています。
 本作では(一応)人間である伊織を操作して戦う為、ボス級の敵(サーヴァントなど)の強さを表現する手段として、闇雲に攻撃してもダメージがほぼ通らない、特殊攻撃以外は攻撃モーションがキャンセルされない、広範囲・高威力の攻撃を繰り出せる、などの差別化が図られています。
 その差別化自体はゲームとしても成功していて、伊織は人間のザコ相手なら無双できるが、サーヴァントを相手にする時は隙を伺いながら、セイバーと共闘しないと正面から太刀打ちできない、といった具合に設定的な力の差を体験することができて、それがボス戦闘での緊張感にも繋がっている――と言いたいところなのですが……問題は主人公・伊織のアクションもとい一部モーションにありました。

 無双シリーズを遊んだ人なら分かると思いますが、無双シリーズは多数の敵を単身で薙ぎ倒す為に武器などを大きく振り回したり、ダイナミックに動いて強烈な一撃を叩き込むモーションが多いんですよね。
 伊織は複数の攻撃スタイルを持っており、それを切り替える事で様々な戦い方ができるキャラクターになっているのですが、威力の大きいコンボを繰り出そうとすると必然的にモーションも大仰なものになり、攻撃を繰り出した後の硬直も大きくなってしまいます。
 これが1~2体のボス戦であればコンボを使い分ける戦法が求められるとして、ザコ相手とのメリハリが生まれるのですが、通常戦闘でも上記した特徴を持つ数体のボス級と無数のザコ敵が一斉に襲い掛かってくるので、ザコを薙ぎ払おうとモーションの大きい攻撃を繰り出すと、その中に混じっているボス級の所為で攻撃がキャンセルされてダメージを喰らう、と言うのが序盤から中盤にかけてよく発生しました。

 ではボス級を優先して叩けば良いかと言うと、そもそもボス級は体力以外にバリアゲージを持っていたり、攻撃後にしかダメージが入らない仕様のため、隙を伺っている内にザコの攻撃を受けてしまう――といった事故が多発するので頻繁に回復アイテムを使わされ、ちまちまザコを削った後でボスに対処する必要があるなど、無双したいのに無双できない戦闘が続くために1周目はとにかく爽快感が感じられませんでした。
 ある程度育成が進むと強力な特殊攻撃を連発できるようになったり、自分の攻撃がキャンセルされる事も少なくなるので、爽快感が生まれて楽しくなるのですが、そこに辿り着くまでに必要な戦闘があまり気持ち良くないんですよね……

 ちなみに本作でも、敵の攻撃をタイミングよく回避する事で強烈なカウンターを繰り出せる仕様になっているのですが、他のゲームに比べて回避のタイミングがシビアかつ無敵時間も範囲も渋いので、よほど見切りが上手い人でない限りは中々狙って出せないので、それがまたストレスをためると言うか……頼むからそこを改善して!


魔性の宮本伊織


 そんな訳で良い点も不満な点もハッキリしている本作Fate/SRですが、自分の中での本作の印象は「宮本伊織」の一言に尽きると言うか、この主人公が全部持って行ったんだよ! 何なんだよこいつは本当にもう!!

中央の剣士が宮本伊織。

 まぁ普通にイケメンですし、腕は立つわ頭は回るわ、主人公然とした言動もことごとく嫌味がないというパーフェクト主人公ですが、2周目以降に明らかになる在り方とエンディングを見ると……もう何も言えねぇ。
 もちろんキャラクターとしては大好きですし、ゲーム中で示された彼の生き様や在り方にも文句はないのですが、それでも一言言いたくなるくらい強烈な印象を残す奴でした。
 そりゃあ、例のエンディングを見届けた人達がこぞって脳を焼かれたり、情緒を狂わされるわけだよ! 俺だって直後はこうなってたから!

横山光輝『三国志』より

 面白いゲームを通してこんな想いを抱えるのは素直に腹が立つので、みんなFate/SRをプレイして宮本伊織という人間に頭を抱えてほしいと思います。




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