見出し画像

MoMAとメトロポリタン美術館で推し活してきた | 10年後のニューヨーク #02

そんなわけで、10年ぶりにニューヨークに降り立った。

タイムズスクエアは相変わらず忙しなく、真夏の暑さと青空がより活気を与えているように見える。ちょうど夏休みの時期だったこともあって、世界中から観光客が押し寄せて足の踏み場もないほどだ。

たしか日本ではマスクを取るのか取らないのかという話題が出ていた頃だったと思うけれど、世界はひと足先にすっかり日常を取り戻していたようだった。

推しに会いに行かなくてはならない

何をしに来たのかというと、推し活をしにきたのである。

推しとの出会いについてはこちら。

私の住んでいる南米の都市にももちろん美術館はあり、ラファエロ、ゴッホ、ルノワール、マネ、モディリアーニなどなど、ちょっと意外だったほどに一通りコレクションが揃っている。

ここに住む人たちは皆、街で一番大きな美術館について「素晴らしいことこの上ない、比類のないコレクションだ」と言うし(この国の人たちはちょっと大げさに褒める、かわいいところがある。)、実際見てみても、こんな遠いところにもこんな作品が!とわくわくしたりもする。

素晴らしいのは間違いないのだけれど、ただ、美術オタクからすると少々物足りなく感じるのが本音だ。特に現代以降のコレクションはかなり薄く、当然推しの作品も少ない。

そんな環境の私からすれば、ひさしぶりに行ったMoMAは天国のような場所だった。

ニューヨークでジャングルを眺める

中庭を望む大きな窓が気持ち良い

この日もかなり多くの人がMoMAを訪れていた。観光客が多いからか、オープンなアメリカの雰囲気からか、人々の会話が多くて開放的な雰囲気だ。

さて、まず初めに目に入ったのはゴッホ。

大きくはない作品だが人だかりができ、何人もの人がゴッホとセルフィーしていた。さすが大人気の作品だ。

少し近づくと、盛り上がっている油絵のタッチがよくわかる。

最近よく思うけれど、ゴッホのように厚塗り系の作品の場合は特に、油絵独特のツヤがダウンライトに照らされるときらきらと輝いて、それがとても素敵に見える。ダウンライトに照らされることまでは、画家の意図したところではないのかもしれないけれど。

たとえばレンブラントなどのもっと昔の時代、蝋燭の灯りの中で見る油絵はもっと違う印象だったのだろうか、とも思う。それはそれで素敵だろうな。

そして推しのひとりである、アンリ・ルソー。

彼は何枚もジャングルの絵を描いていて、南国のエキゾチックな植物が大好きな私のとっておきの推しである。

ルソーはメキシコでの兵役経験を元に南国風景を描いたとも、パリの植物園でスケッチを重ねて描いたとも言われる。いずれにしてもマティスのように長年南国で過ごしたわけではないらしいが、それでこの完成度。

ジャングルと大都会を足して2で割ったような場所で暮らしている私にとっては、もはや親しみのある雰囲気である。

ニューヨークまで来て、なんだか一瞬地元に戻ったような気にすらなってしまった。

いつもと雰囲気の違う推し

そしてついに、推しの部屋へ。

この部屋を遠目でちらっと見て推しの存在を確認するや否や、そわそわにやにやしてちょっと気持ち悪い人になっていたかもしれない。

実は、明るい配色のロスコをしかも明るい部屋で見るのは初めてだったような気がする。

没入感のあるロスコ・ルームの作品とはかなり違った印象だが、こちらには細い線が入っていてまた興味深い。ぼんやりと滲んだような色の境界はここにも表されている。

そしてなんといっても、この大きさ。Sotherby’sの専門家が言っていた言葉を思い出す。

“Size matters”

そして、

“Bigger is better”

美術品の大きさはその値段に影響するのか、という文脈で言っていた言葉だったと思うけれど、実際に巨大な作品を目の前にした時に感じるパワーというのはやはり大きいと思う。

ちなみにロスコは高額落札されることでもよく知られており、過去には200億以上で取引されたこともある。

アートと経済の話になるとまた脱線してしまうけれど、資本主義の世界で独特の市場を持つ現代アートは、大金を一気に動かすという意味での巨大なエネルギーでもあるのだ。

この部屋の総額とかをちょっと考えてしまう

遠征2日目、METへ

メトロポリタン美術館に行くのは実は初めてだった。

MoMAで現代アートを、METでは近代以前のアートを中心に見ようと思っていたのだが、実はMETにもかなり広い現代アートのスペースがあったのは嬉しい驚きだった。

そしてもちろん、近代以前のコレクションの量と質はもはや暴力的だ。知人が丸一日あっても足りないと言っていたのは大げさではなかった。

特にここでは、小さい頃や学生の頃大好きだった名作をじっくり見ることができ、また改めて好きになる、そんな体験ができたことが嬉しかった。

小さい頃に大好きだったモネの《積み藁》と《ルーアン大聖堂》。

図録でよく見かけていたこのクリムト作品は、ようやくオリジナルを見ることができた。

世界の美術館を回っていると、有名な作品やお気に入りの作品と「ああ、ここにいたのか!」とちょっとした驚きとともに出会うときがある。時には企画展で日本に来たことがある作品と再会することも。
美術館巡りの、ささやかな楽しみである。

ちなみに、今回METの近代ゾーンで1番気持ちが高まったのはゴッホだった。

正直、ゴッホは自分の中ではどちらかというと癖のある印象で、敬遠とまではいかないもののそんなに好んで見てこなかった気がする。

それが変わったのはこの作品を見てから。

家の近所にたまたまあったゴッホ

空のグラデーションの様子や盛り上がる筆致、色のバランスなど、カタログではわかりにくかったが、実物を見たとき良さにすっかり惹かれてしまった。

METにあったゴッホ

METでも、このちょうど良いサイズ感にこれでもかと重ね盛られた色の数々、まるで動いているかのような筆致、モチーフのセンスなどなど、様々な作品を見れば見るほど、すっかり心に刺さってしまったのだった。

さて、METの現代アートゾーンに移動すると、ここではまた雰囲気の違うロスコ作品をさらに3点も見ることができた。

特にこちらはシーグラム壁画にも繋がるような赤色も含まれている作品。

じわっとした滲みやもやもやとした表現は、この前にぼーっと立っていつまでも見ていられそうだ。

現代アートの部屋はそこまで混雑もしておらず、正面に立ってのんびりゆったりと作品を鑑賞することができた。

それから、ほとんどの美術館で自由に写真を撮ることができるのも海外ならではの良い点だ。

気に入った作品はiPhoneのギャラリーに収めることができたし、推しとの写真もしっかり撮れた。

また家に戻ったらきっとなかなか会えることはないので、何年分かの推し活を一気にした形になったが、かなり大満足の遠征となった。

さすがニューヨーク、世界一の大都会は持っているアートの量も質も桁違いだな、なんて思いつつ、これで満足してまた自分の街に帰ることができそうだ。

この記事が参加している募集

#一度は行きたいあの場所

49,672件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?