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闘う日本人 5月 ゴールデンウィークが明けると

 このショート小説は、約5分で読めるほんとにバカバカしいショートショートの物語です。
 毎日、日本人は頑張っていつも何かと闘っています。
 そんな姿を面白おかしく書いたものです。
 今月は5月の闘いで「ゴールデンウィーク明けると」がテーマです。
 楽しみに待っていたゴールデンウィーク。
 しかしその長い連休が終わるとしばらくは祝日がないという現実。
 ゴールデンウィークが終わって初めて知る現実に鈴木たちはどう思うのか。

「ふぅ」

 鈴木は目の前にパソコンのスケジュール表を見ながら大きなため息をついた。

「どうしたんですか先輩?そんな大きなため息をついて。ゴールデンウィークの疲れが出たんですか?」

 そう言って来たのは、隣の席に座る後輩の姫野涼花だった。

 彼女は立ち上がり、鈴木の背中越しに彼のパソコンを覗き込むように見た。
 そんな彼女からは微かにいい匂いがした。

 その香りに鈴木は何食わぬ顔をしていたが、気持ちの中では小さなトキメキを感じていた。

 なんでも姫野涼花は大学時代にミスコンで優勝した経験もあるらしい。

 それを買われたのかどうなのか、会社では秘書課の配属だったが、急遽鈴木のいる営業部に人員不足が発生したため、3ヶ月前から鈴木の隣の席で働くこととなった。

「姫野はよくそんな余裕をぶっこけるな。これを見なよ」

 そう言って鈴木は彼女に自分のスケジュール表を見せた。それは向こう3ヶ月の月間カレンダーだった。

 彼女は言われるように鈴木のパソコンの画面をもう一度見た。

「あまりスケジュールが立て込んでいる様子ではありませんが・・・・・・それが何か?」

 彼女は鈴木が自分のスケジュール表を見せる意図がわからない様子だった。

「スケジュールじゃないよ。カレンダーを見てよ。カレンダー」

 そう言われて彼女はもう一度画面を見たが別におかしなところはない。

 すると鈴木は説明するように、

「ゴールデンウィークが終わったら、7月15日の海の日まで次の祝日はないんだよ。姫野はこれが耐えらる?」

 鈴木は訴えるように言ったが、姫野は『それがどうかされましたか?』と言う感じで

「確かに。そもそも6月には祝日がありませんからね」

「それが問題なんだ。どうして6月には祝日がないんだ。7月は海の日、8月は山の日と適当に祝日を作って起きながら、なぜ6月だけ見放されるんだろうか?」

 そう言われても、そう言うものだから仕方ないと彼女は思った。

「それでも土日はキチンと休みなんですからいいじゃないですか」

「そういう問題ではないんだ。5月7日から68日間も祝日がないという現実。これはサラリーマンにとっては死のロードなんだよ」

 鈴木は益々ヒートアップして言った。

「先輩、祝日のない日を数えたんですか?」

 鈴木は少々バツの悪い感じがしたが、それでも

「そうだよ。2番目の長さは勤労感謝の日の11月23日から1月1日の元日までの38日間だけど、12月年末休業があるので、これは僕の中では休日有りとみなしている。だから実質35日間の祝日なしということだ。そうすると68日間がいかに長いかわかるだろう」 

 彼女は同意するのを一瞬躊躇しながらも

「先輩・・・・・・よく調べましたね」

 と言った。

「やっぱりこう言うのって国会議員に陳情して祝日を作って貰うように働きかけをするのが良いのかなぁ」

「先輩、真剣に考えていますね」

「当たり前だろ」

「しかしどうしてそんなに祝日にこだわるんですか」

 と彼女は鈴木に言った。

「そんなの当たり前だろ。祝日というのは旅で例えるなら“峠の茶屋”みたいなもなんだよ」

「峠の茶屋?」

「そうだよ。長い旅をするときに宿場があるのはもちろんの事。その宿場を土日とした時、それでも途中で休みたい事もある。その時に峠の茶屋があると助かるじゃないか?つまり祝日とは長い旅の休憩所なんだ」

 鈴木は力説した。

「へぇ。面白い例えですね」

 彼女が感心したように言うと

「そうだろ」

 と、鈴木は少し得意そうに言った。

 しかし彼女は

「でも、わたしはあまり祝日がたくさんあるのは嬉しくはありません」

 その言葉に鈴木は驚き、怪訝そうな顔をして彼女の方を見た。

 そして、彼女はうつむき加減に、回りに聞こえないような小さな声で囁くように言った。

「だって、会社がお休みだと先輩に会えませんから」
 
鈴木は思ってもいない彼女の言葉に、急に心臓の鼓動が早くなった。そして

「そ、それもそうだな」

 鈴木はその言葉を、先輩の威厳として吐き出すのがやっとだった。

 そしてそれは祝日が一つできる以上に嬉しかった。

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