見出し画像

【フェルマーの最終定理(サイモン・シン/青木薫訳)】うえこーの書評#05

 有名すぎる本なので説明するまでもない本ですが,フェルマーの最終定理が証明されるまでの歴史が書かれた本です.主な内容はフェルマーの最終定理に関わるものですが,数学基礎論やフェルマーの最終定理以外の数学上の難問も紹介されており数学全体の紹介本にもなっています.

 「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが,余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」

フェルマーがフェルマーの最終定理に書き添えた文章ですが,この本を読む前は本当は書きたいが残念ながら書けない,みたいなニュアンスで理解していました.しかし,フェルマー自身,自分が発見した定理をあえて証明をつけずに発表し,他の数学者を困らせることがよくあったようです.この本によればちゃんとした実務的な理由もあるようですが,主な目的は他の数学者が悩んでいるのをからかうことにあったようです.なんとも面倒くさい性格ですが,そのおかげでその後の数学の発展に貢献したのだから皮肉なものです.

 この本が日本でもベストセラーになったのはフェルマーの最終定理を証明するのに多くの日本人が関わっていることがあげられます.「谷村=志村予想」の谷村豊,志村五郎,岩澤理論の岩澤健吉,軽く紹介だけでしたが「宮岡の不等式」の宮岡洋一など多くの日本人が出てきます.数学に国籍は関係はないですが,普通の人から見れば同じ国の人がすごいことをしているということは喜ばしいことです.あと,余談ですが,文中で谷村豊さんの名前を「とよ」と呼ぶか「ゆたか」と呼ぶかみたいな話がありましたが,漢字の知識がなければ全く意味が分からないだろうなとにんまりしてしまいました.

 この本では多くの女性の数学者が出てきます.しかも,これまで女性の数学者が虐げられてきた歴史を「数学の恥」として紹介しています.正直私は文中に出てきた方の名前では,ネーターくらいしか知りませんでしたが,他にも様々な方が活躍していました.ただ現在でも完全に平等になってはいないので性別で差別されないような社会にしたいものです.

 この本が売れたわけは数学そのものの説明はあっさりさせ,その分,数学者の説明,数学史についての配分を多めにしたことにあるでしょう.数学そのものを説明するととても難解なものになり普通の人が手に取るにはハードルが高すぎるものになります.しかし,数学者,数学史の紹介は前提知識が全くなくともあまり苦も無く読めるのではないでしょうか.専門的な本をより一般の人にも手を取らせるための参考になりそうです.

Amazon.co.jpアソシエイト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?