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From our Editors ── 202X年の企み

このnoteは、2018年にNTT都市開発 デザイン戦略室のオウンドメディアとしてスタートしました。国外はエストニアやデンマーク、国内は広島・尾道や徳島・神山町、山梨、沖縄などに足を運び、そして時々イベントを開催しながら、“これからのまちづくり”について考えてきました。この約6年の活動で、私たちにもさまざまな知見が貯まってきましたが、ただ抱えているだけでは宝の持ち腐れ。ここはデベロッパーらしく、実際の街で試してみようではありませんか。ということで、都内某所での“ある企み”について構想を始めました。その企みとはいったい!?(デジタルZINE「ちいさなまちのつくりかた」)

Text by Mai Tsunoo & Takram
Editing by NTT UD &Takram
Artwork by Ayame Ono

NTT都市開発 デザイン戦略室は、さまざまなリサーチを通して、いまの社会に寄り添った「まちづくりのオルタナティブ」を考えてきました。実際に街でプロジェクトとして取り組むにあたり、長谷川さん、高倉さん、伊藤さん、3人へのインタビューを経てたどり着いた一つの仮説は「個人の強い想いやこだわりは、周囲の人々へ影響を与え、街のコミュニティを変容し、地域経済を創り出す」ということです。

少し話が変わりますが、私たちが考える「街の価値指標」は2種類あります。

一つは「多数のための価値」です。これは既存の指標でもあり、社会制度や周辺環境とのつながりから建物の在りかたを考えるやりかたです。端的に言えば、公園や緑地、公共施設が多いなどの住環境、交通機関や商業施設から近いという利便性、歴史的背景があるという文化特性、地価が高いという経済性といったものです。街のローカリティや文脈、周辺環境との関係で空間や場に自ずと生まれる価値です。街に根づく文化や土地性と影響し合うことで、人は豊かさを感じます。

もう一つは「個人のための価値」です。私たちが考えるあたらしい指標であり、これからのプロジェクトで取り入れたい価値軸でもあります。土地がもつ文脈には必ずしもとらわれず、一般化できない独自性を大切にします。個人の思想や生き方が体現された建築や街は、人々の好奇心を引き出し、個性によって都市との関係性を生み出す潜在性をもっています。美しさや喜び、楽しさなど、なかなか数値化の難しい個人の価値軸です。

このふたつを組み合わせたビジョンを、これから取り組む実証実験プロジェクトでは定めたいと考えています。「多数のための幸福」を求めることは合理的で、説明も容易で、確実なものです。しかし、それだけではどうしても平均的なまちづくりになってしまい、場所の独自性を見落としてしまいやすくもあります。また、特にデベロッパーのような大きな組織からすると、「個人のための幸福」は見落としがちな価値軸です。

Artwork by Ayame Ono

特定の個人にフォーカスした場合、一見するとただ一人の幸せしか満たせないように見えるかもしれません。でも、そこには人々の隠された欲望が潜んでいる可能性があります。見えない大多数だけでなく、顔の見える一人について思考を巡らし、デベロッパーとしても光を当てていく。今回のプロジェクトを通して、一人ひとりの強いこだわりに触れることで、訪れる人々自身の感覚や価値観をも広げられる場づくりに挑戦したいと考え始めました。

たとえば、あたらしい音楽のジャンルを知ったときや、食べたことのない味に出合ったとき。知らなかったあたらしい感覚に触れ、自分の趣味が広がったとき、人は喜びを感じ、少しだけ世界の見え方も変わるでしょう。「言葉にできなかったけど、ずっと前からこんなものを探していた」と感じる人もいるかもしれません。そんな瞬間を生み出す空間をつくることはできないでしょうか。

私たちにあたらしい感覚を教えてくれるのは、きっと「強いこだわりをもった個人」です。真似ができないほどの強い好奇心をもち、知識を蓄え、なにかを実践する彼ら/彼女らの知見に触れることができ、あたらしい価値観を得られる場所があったなら。きっとそこから、あたらしいコミュニティが生まれ、個人を中心としたあたらしい経済が動き出すはずです。

強いこだわりをもつ人々のプロファイルはさまざまですが、あくまで個人に焦点を当てることが鍵になります。パッションがあり、特定の分野の知識に異常なほど精通する彼らを中心に据え、彼ら/彼女らの厳選した「なにか」を体験したり購入したりすることで、新たな「学び」を獲得できる空間を、デベロッパーとして立ち上げることに挑戦してみたい。

今回の企画でインタビューをしたのは、まさに超こだわり人の3人です。彼ら/彼女らのような知識や職能のある人々を集めることで、個人の好奇心が駆動するあたらしい街の価値を生み出せないかと考えています。また、そうした街の在りかたを持続可能にするために、不動産事業としてのあたらしいかたちにも、チャレンジしていきたいと思っています。

具体的な案はこれから検討していきますが、次年度はnoteを飛び越えて、リアルな街での展開をめざしたい ── 。ぜひ、私たちNTT都市開発 デザイン戦略室の取り組みを、追いかけていただけたら幸いです。


▼「ちいさなまちのつくりかた」バックナンバー一覧▼


主催&ディレクション
NTT都市開発株式会社
井上 学、吉川圭司(デザイン戦略室)
梶谷萌里(都市建築デザイン部)

企画&ディレクション&グラフィックデザイン
渡邉康太郎、村越 淳、江夏輝重、矢野太章(Takram)

コントリビューション
角尾 舞(ocojo