2年待った『舞台やがて君になるencore』

追加シーンや台詞のネタバレあります。

思ったより全然、浸るばかりで、言葉が出てこない。女の子同士の恋愛を、「好きになること」を描いた『やがて君になる』原作の舞台。幕が開けば連日満員御礼だった初演。完結した原作に合わせて再構成して再演しますと発表されたものの、パンデミックが発生、納得のいくものを届けられないからと延期し、代わりに接触のないスピンオフ『朗読劇 佐伯沙弥香について』(通称ささつ)を上演。それからまた待ち、やっと上演できた『舞台やがて君になるencore』。

2022年11月25日、初日の初回、ぎりぎりで席に着いたけど間に合うかもと席を外し、ぎりぎりで開演してしまい、端で待機する羽目になった。笑 2年待ったのに!!笑 でもそこは視界を遮るものがなく、侑(河内美里さん)と燈子(小泉萌香さん)の視線の先に私がいる形になり、勝手にいきなりどぎまぎ。「あ、”変わってない”、おかえり」とマスクの下でつぶやいた。

2年の間にキャリアを積んだ続投組、変わってないけどめざましく成長していた。それはそれは成長していて素晴らしい芝居を見せてくれたから、前半は見たことあるのに、それをまず咀嚼するのに必死。言葉にならないのはそれもある。いや・・とても良かった。encoreは休憩を挟み3時間という長さなので、十分に芝居に間をとることができて、思う存分それぞれの芝居の良さを発揮。魅せどころたっぷりだった。
パワーアップしてたなんてもんじゃなかった!初観劇だった人はラッキーだし、あれがレベルが高いのも覚えておくべき。これをきっかけに観劇回数が増えるなら。

演出としては。

・人物の心情を強烈に映し出したプロジェクションで、正面前方にいると没入感がはんぱない。
・燈子が沙弥香(礒部花凜さん)の告白に返事をするシーン。初回では気付けない位置だった。2階から見たとき、水面のゆらぎが下のほうに全面に映されていることに気付き、唸った。
・燈子の「ごめん。」後の、侑と燈子のモノローグの重ね方。重ねたおかげでずっしり胸に響く。
・2幕の開始の仕方も、劇中劇の開始に合わせるとか天才か。

覚えている範囲でこんな感じではあるけど、もっとあったはず。
”『やがて君になる』が伝える舞台”として、完璧だった。

期待しちゃった

44話の侑と燈子のベッドシーンはなかった。encore初見時はなかなか、肩透かしではあった。個人的に、演出の腕の見せ所になるかもと、演劇として期待していたので(下ネタくれよじゃなく、相応する描写がほしかった)、またそれまでも製作の「最後まで含めて完結します」を原作では描かれる大学生まで含めるの意味で期待して、受け取ってしまっていたから。2年も待ったんだからとスタオベするつもりでいたのに妙なタイミングになるほどには動揺はした。
なにしろ侑にとって『知らなかった気持ち・知らなかった熱が・今わたしの手の中にある』と知りたかったものを体感しながらの原作でのベッドシーン、超重要なので。ただ、原作メッセージとしてはその辺りのモノローグや対話を網羅していたし、うまくまとめていた。何も省かれていない。「かぞく」という台詞さえあった。

燈子「今は”彼女”で、これから関係が変わってかぞく?とか、なにかはわからないけど、侑と私でいるってこと。侑も、そう思ってくれる?」
侑「何があっても一緒にいますよ」

(若干うろ覚え)だからこそ、ぶっちゃけ不完全燃焼だったというか・・・残念で。本作に関して製作には信頼があるので、できることならやっただろうと思う。だから、今はそう判断されなかったんだと、受け止めている。
当然原作者も承知の脚本ではあるけど、この判断は女性やクィアの人が練り直したら、どう演出するだろうか?という好奇心はわく。ヘテロ(異性愛)の物語だと見られるキスやセックスなどの描写が、女同士のGLだとそこまでもいかないことが多いから、セックス描写は大事なので。しかも原作ではとっても丁寧に描いている。

キスシーン

初演から河内さんと小泉さんの意向で口をつけているキスシーンは、今回、どれも隠さず、むしろ見せつけている印象さえあった。小道具の傘でも隠すことなく。
海外クィアドラマでのキスに慣れていると、日本人俳優のキスはついばむ位で、味気ないなと個人的にはどうしても思ってしまう。それでも、2人は、男女間でも日本における舞台ではしないらしいキスを、シーンに合わせて緩急もつけ、口をつけてしているので、そして上記のとおり今回はすべて見せてきたので、見応えはあった。

沙弥香の前に都と理子(通称みやりこ)の話。

encoreの都(北原侑奈さん)は、チャーミングさマシマシ、これはこれで、とても良かった。甘めが好きなので、はぐらかしつつも、よりしっかり都への愛を感じる理子(田上真里奈さん)の芝居も良かった。
劇中劇後、沙弥香の相談に乗ってあげて帰宅が遅くなるシーンが追加された。関係をバラされ、彼女に怒りながらも2人で歩んでいるみやりこの背中を沙弥香が「いいなぁ」と見届ける(はよ帰れ!と言われたのに笑)。
身近に同性カップルのロールモデルがいて、こんな環境、頼もしいし、うらやましい。海外なら教師をしているオープンリーLGBTQ+ピープルの話は、まぁまぁ聞くかもしれない。(当然日本にも、理子のように隠れている当事者の教師はたくさんいる。)

2幕の佐伯沙弥香

私が待ち望んでいたのは!!
もちろん侑と燈子が愛おしいけど、主に2幕の沙弥香!!
沙弥香「あなたは燈子が好き?私は好きよ。」
侑に真正面から告げる。

沙弥香「あなたの恋人になりたい」
燈子に告白。

隣で支えてきたけど、愛する燈子を変えたのは、踏み込んだ後輩。
沙弥香「悔しいなぁ・・」そして「燈子、好きよ。」

女の子が女の子に正面から告白して、真剣に受け止められる。
これらの台詞が生で聴けて、毎回沁みた。一レズビアンとして、聴けて本当に嬉しかった。

そのうえ燈子に感謝すらされる。
燈子「沙弥香でよかった、沙弥香じゃなきゃこの気持ちは分からなかった」
こんな幸せな失恋の仕方があるか?人生、選択の繰り返しで、経験を重ねて出会いを重ねていくわけで。(沙弥香は大学で彼女に出会う。『佐伯沙弥香について』原作参照。)

燈子に必要だったものを持っていて、そして持っていなかったから踏み込めたのが、侑だった。生徒会選挙での演説依頼じゃないけど「あなただからできることもある」だった。
それでも、沙弥香はいい女なの。

礒部さんの沙弥香へのリスペクトにはリスペクトしかない

そんな彼女を礒部さんは『朗読劇 佐伯沙弥香について』も経て、さらに自分のものにし、丁寧に演じてくれている。礒部さんの沙弥香へのリスペクトにはリスペクトしかない。本当に礒部さんが佐伯沙弥香を演じてくれてよかった(ご本人の性的指向はさておき。一応言っておく)。泣 それは小泉さんも河内さんも同じく。どのキャラクターもキャストに恵まれてよかった。

同じく嬉し泣きしたのは、槙くん(瑞野史人さん)の台詞。
「恋愛ってやつは、どんなスポーツよりも競技人口が多いけれど」
私自身はアロマンティックではないけど。何度座席で聞いても、じわじわ、じわじわ嬉しくなった。可視化されて生で聞こえると感慨深くて。泣けた。

女同士の恋愛を描くGL舞台・アニメ、増やして

2年待ったあとの10日間は短いよ・・待った甲斐はもちろんあった。千穐楽は観に行けなかったので、DVDを待つしかないのだけど、最高の仕上がりだったと。初日からすごかったのに。そんな仕上がりの舞台を見せられたからには、『朗読劇 ささつ』も完結させてもらいたいし、願わくば『舞台やが君encore』も、そのうち、タイミングを見て再演してもらいたい。もちろんキャスト陣も製作会社も、それぞれのしんどさがあるのだけど。
そして「ひとつの2.5GLの舞台」として尊いで終わらず、この物語を上演することが主にレズビアン、バイセクシャル、アロマンティック当事者にどれほどの意味があるかも、プロデューサーさんやキャストはじめ、興行関係者に目を向けてもらいたい。それは「むずかしい話」ではないので。(当事者の配役はまだ遠い、別の話)
女同士の恋愛を描くGLコンテンツのアニメや舞台が少なすぎる(というかほぼない)現状ゆえ、もう2023年、増やしていくべきなので、何卒。

嬉しいです。ありがとうございます