クィアベイティングとは何を指すのか

BBC Americaのドラマ『キリング・イヴ』をご存知でしょうか。
私は数年前の海外旅行中に機内でシーズン1を一気見して以来、シーズン2以降を見れていないのですが。イヴとヴィラネルの展開が非常に人気のドラマです。シーズン1はとても楽しみました。(現時点でU-Nextで配信中)

先日の最終回のあと、荒れていたようです。またクィアキャラクターの扱いがひどかったようで。

クィアのライターや一部俳優やファンが次々とその心境をツイートしていました。・・・というか、おもに「辛い・・・」でしたが。私は未視聴なので詳細はわかりませんが、想像はつきます。またやらかしたのか。

その中で、アメリカのライター・編集者であり、オープンリー・レズビアンであり、よくクィアメディアイベントでもモデレーターをされている、デイナ・ピッコーリさんが「クィアベイティングとは、何がそれに当たるのか、当たらないのか」を改めて説明されていたので、和訳したものをここにも載せておきます。
ねんのため、ここでのクィアはLGBTQ+の同性が対象の人、非ヘテロ、とします。

ここ数日、クィアベイティングが話題に上っているので、実際それは何を指すのか、そして何がそれに当たらないのかをはっきりさせておくのが大事かと思います。

クィアベイティングとは、実際には成就させるつもりがない2人のキャラクター間でクィアな恋愛関係を意図的に仄めかしたり、フリをしたりすること。視聴者を引き寄せはするが、いつまでも最後までもらえないエサのようなもので、2000年代初期のアメリカのTV戦略でよく見られました。

クィアキャラクター同士が恋愛関係になるまでに時間を要したり、望ましくない不快な状況に結果的に陥るのは、クィアベイティングではありません。キスをするフリをしたり、ある計画のために”彼女”のフリをするといった描写がそれにあたります。例えば『リゾーリ&アイルズ』で見られたようなものです。

実際にキスしたり、愛を語るのはクィアベイティングではありません。それはクィアそのものです。

何がクィアベイティングであって、何がそうではないのか、ファンとして違いを把握することで、その状況が発生した時に効果的に指摘できます。(欧米では)ここ数年でマーケティングに利用されなくなってきましたが、まだなくなってはいません。当時よりは減ってはいるだけです。

それと、クィアベイティングがありがちなのは、ヘテロセクシャル(異性愛者)のキャラクターの関係性においてであって、クィア(同性愛者)のキャラクター間ではないです。

分かりやすく言えばこのように考えられます。
・クィアベイティングは、マーケティングの戦略。
・Bury your gays(レズビアンやゲイのキャラクターがストーリー上よく殺されるステレオタイプの設定)は、ナラティブにおいての選択。

クィアの視聴者に好感触を持たせるものの、物足りないか、ストレスのたまる、その一方でクィアではある話、これには決まった用語はないと思います。ご存じの方いますか?
エミリー・アンドラスのリプライ:
脚本チーム会議での会話で聞いた完全にカジュアルなものではあるけど、同僚は”クィアスケーティング”と呼んでますね。笑顔で始めてスピンしたりジャンプ技を見せるけど着地に失敗すること。(アンドラスさんはカナダのSFクィアTVドラマ『ワイノナ・アープ』などの製作総指揮)

(デイナさんに戻り)新しい造語を作ってみました。
“クィアボム”:クィアの視聴者に好感触を持たせるが、イライラしたりがっかりする物語になること(応援とレーティングへの感謝のつもりで)。この造語の原則としては、クィアキャラクター間における関係性のつながりが感じられたり、実際のストーリー展開はあるが、クィアのファンには非常に物足りないこと。

(欧米では)多くの場合がクィアストーリー、LGBTQ+ストーリーの歴史についての無知からくるものです。まあ、クィアメディアの専門家に問い合わせればいずれも容易に訂正できるものですが。宿題をしないことの言い訳ではないけど、悪意はめったにないと思います。

とりあえずここまでです。
このほかフォロワーさんとのやりとりはスレッドで続いたと思います。日本でも、BL作品の実写化やGL作品(女性同士の恋愛、いうなれば狭義の百合)も増えてきました。BBC Japanなどニュースメディアによるクィアベイティングについての日本語記事もあり、少しずつ知られてきているようです。たまたまですが、詳しい方が改めて明確に解説してくださったいい機会ということで残しておこうと思った次第です。

ここの過去の記事にもありますが、ClexaCon(クレクサコン)をはじめ、なぜLGBTQ+ファンが声を上げるか分かりますか?自分と同じ属性のキャラクターが登場したら嬉しいんです。自分の存在を肯定してくれるんです。LもBもQもIもAもTも。デミセクシャルも。そんな属性をもつキャラクターも登場する作品の大半でぞんざいに扱われたら辛い。痛い。儚いのが素敵とかそういう問題じゃない。メンタルに関わるような割合なんです。表象(Representation)大事なんです。

リアルで伴侶と家庭をもって子育てしている同性/クィアカップルはたくさんいます。日本にもたくさんいますね(同性間での婚姻の法制化、まだですが)。

クィアキャラクターもファンも、もっと大事にして、ハッピークィア・・いえ、ハッピーレズビアンエンディングを見せてくれるエンタメの需要がヘテロの製作陣にもっと伝わりますように。(レズビアンのストーリーはゲイ男性のストーリーよりはるかに少ないので。)LGBTQ Fans Deserve Better! 

嬉しいです。ありがとうございます