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11/20 海

尾崎放哉の「渚白い足出し」に出会って衝撃を受けてから海に執着するようになった。詩にすらなるような素敵な思い出をつくりたいと思うようになった。

そんなものだから、思い人と朝の海に行ったことがある。汀をなぞるように、清冽な浅瀬の底で柔らかくなっている砂を裸足で踏みしだいて歩いた。夏がくる少し前のことだった。

海はもともと好きだ。誰かがいつかどこかで立てた波紋が今この瞬間の海模様をつくっている。そう思うといっそうロマンチックだ。
海は全てを覚えている。

結局、前述の方とはこじれにこじれてよく分からない感じになった。
今ではこんな自分のことなんて吹けば飛んでいくくらいだろう。あの日拾ってた貝殻はどうやって処分したんだろう。あのとき僕らが立てた波も、今ごろどこかで小さくくすぶっているんだろう。

会わなくなって久しく、あのときの事はもう鮮明に思い出せない。そのあと生まれた仄暗い記憶の下敷きになってしまった。

それでも海はすべて覚えている。今でもたまにあの海を見に行く。この世の全てを呑み込んでも、なお美しいままでいるあの海のような心が、どうしようもなく欲しくなる。今住んでいる大学の寮から片道1時間。

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