自由ドラゴンよ、胸を張れ。
車の免許を持っていないと言うと驚かれる。「車の免許を持っていないというだけで驚いてもらえるのだな！」とわかったので、コスパの良い話題の切り口として時々活躍させて頂いている。そもそも家がなかった時期でさえなんとかなったのだから、もはや一生車の免許は要らないのではとすら思う。すべての人が同じことをできるようになる必要はない。他の人にできることが自分にはできないなんて当たり前だ。大勢の人が既にできることをわざわざ自分までできるようになる必要はない。そんなことを悩むのは無駄だ。全員できることが違う方が良い。そっちの方が面白い。僕には車の運転ができないから、運転ができる皆様、僕を乗せて素敵なところに連れてってください。あなたが免許を取ってくれたことが僕にはすっごくありがたいことなのです。僕には「お前の家が南にある」という声に従って家なし旅をしたら本当に家を見つけた話、蔦まみれの空き家を１年半かけてセルフリノベーションした話、魔術で精霊を召喚して力を貸してもらった話、妖怪に頭を噛まれた話、女神と恋愛をしたら大火傷して命からがら逃げ出した話などができます。
先日、小学生の女の子たちから「由宇さんにあげる！」と言われ駄菓子をもらった。僕は「どうもありがとう！」と言って受け取った。その子たちの母親から「ほんとにもらおうとしてる！？」と驚かれた。「だってくれるって言ってるよ？」と僕は反論し、その延しイカをありがたく頂戴した。相手があげると言っているものを素直に受け取ることの何がおかしいのかよくわからない。僕は小学生から差し出された駄菓子をありがたく受け取ることができる33歳なのである。
「生きづらさ」という言葉が以前流行った。僕も二十代の頃はこの世界は随分生きづらいなと思って生きていた。しかし今思えば、その生きづらい世界で生きようとしていたのは自分だった。そんなものは捨ててしまえ。生きづらい社会で生きようとする人生を捨ててしまえ。知ってるぞ。お前、みんなと同じように生きようとしているな。薄々自分でも勘付いていると思うが、その生き方はお前に向いてない。生きづらく生きているのはお前自身だ。苦しく生きているのはお前自身だ。お前は社会不適合者でも発達障害グレーゾーンでもない。薄々自分でも勘付いていると思うから言うが、お前はドラゴンだ。人間社会はさぞかし窮屈だろう。ドラゴンにもいろいろな種族がいる。お前は自由ドラゴンという種族だ。自由ドラゴンはもっと自由でいい。もっとめちゃくちゃでいい。自由ドラゴンはどんなにめちゃくちゃに生きても死なない。いや、嘘だ。自由ドラゴンでも死ぬ時は死ぬ。自由ドラゴンは死を恐れない。魂を死なせて生きるより、魂を生かして死ぬことを選ぶ。それが自由ドラゴンの生き方だ。それでお前はなんとかなる。全然話は変わるが、最近僕は川や磯にいるカニを捕まえては油で揚げてバリバリ食べるのにハマっている。かっぱえびせんみたいで美味しい。ちゃんとカニの風味もある。さっきまで生きて動いていたカニが熱々の油に投入された瞬間赤くなって「食べ物になる」のを見ると、自分の中のプリミティブな何かがドクンと脈打つ。おお、カニよ。俺はお前に何の恨みも敵意もない。食べたいから食べる。美味しいから食べる。その命を、我が血肉にしたいから食べるのだ！
自分を救うってのはこういうことである。セルフラブとか自分をもっと好きになろうとか巷でいろいろ流行っているが、一番良いのはそのへんのカニを食うことだ。食って美味さに感動しろ。こんなに美味いものが磯に無料でゴロゴロいる事実に笑え。謎の料理を作って一人で笑え。正しい料理なんて知らなくていい。その正しくなさに笑って生きろ。自分を救うってのはこういうことである。人を癒やすとか助けるとか全部ね、イソガニ蕎麦ロンチーノ食ったことない連中の戯れ言よ。
人と接する時、自分を取り繕って良い人間を演じることなんて簡単にできる。仕事や個人的な場面などで誰かと何らかの関係性を築きたい時、嫌われないように本心とは少しズレた無難なことを言って望む関係性だけ取り付けることなんて簡単にできる。できるし、してきた。多かれ少なかれ誰しも心当たりはあるはずだ。しかしそれでは飽き足らない。そうじゃない人生を強く所望する。自分の望みをできるだけ正確に口にすること。恥ずかしげもなく悪びれもせず正直な思いを伝えること。「私はあなたと火を起こしたいです」と伝えること。ひどい人間だと思われるより、取り繕って良い人間を演じるほうが重罪だ。定型文をしゃべる人生を降りること。自分の望みをより正確に言語化する努力を怠らないこと。より正確な言語化を試みた結果、わけがわからない言葉が立ち現れることもある。一見わけがわからなくても、本当の気持ちなら伝わる人にはちゃんと伝わる。伝わらない人には伝わらないが安心しろ。伝わらなくても、自分にも相手にも正直だったお前を神様は見ている。自由ドラゴンよ、胸を張れ。
内なる声に聴いた「家」を、本当に見つけてしまうまでのお話
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