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第二話/無花果の葉は枯れた①【呪いの箱庭】

〈1/レイ家の呪い〉


「レイ家の血を引く物は皆、〈獣の呪い〉をその身に宿す」

 父から告げられた真実に、グザヴィエはぎこちなく微笑む。幼き彼は父の口から語られる真実を、もう既に知っていた。

 ああ、知ってるよ。

 そう言い放つには、リビングの空気は張り詰め過ぎていた。父と母は申し訳なさそうに俯き、メイドは眉1つ動かさず、来る食事の時間へ向けて支度を整えていた。

 両者の間に存在する決定的な感情の溝が、あまりにも居心地悪い。

 何が深いかって、今日はグザヴィエの誕生日なのだ。年に一度の祭日が、こんな陰気であることに不満が募る。だが、其れを口外できるほど、彼は脳天気ではなかった。

 父は重々しく口を開く。

「私達の先祖、レイ家の祖はかつて、英雄だった」

 百年戦争時代、戦乱のフランスを救った偉大なる騎士。それがレイ家の祖だと言う。大敵英国と対峙し、戦乙女と共に侵略される村々を破竹の勢いで奪還した偉大な人物……というのが彼の半生だ。

 あくまで、半生。

 戦を終えたその後は、血と情欲、偏愛に塗れたソドムで無辜の命を貪った。勿論その末路は言うまでもない。

 国史に触れたことがある者なら、誰でも知っている。彼が悪魔によって、その血に呪いを刻まれたという噂も。

「あれは、噂などではない。真実だ」

 父を伝い、何百年も前から流れてきたそれは、獣に触れると『獣へと変わる』最悪の呪いだった。

「グザヴィエ。お前には窮屈な思いをさせてしまうかもしれない。だが、この私の代で全て終わりにして見せる。だから、もう少し辛抱して欲しい」

 獣の呪いを終わらせる。それがどれほどのことか、幼いグザヴィエも理解していた。

 叶わない父の願いを受け入れ、彼は微笑む。

「わかった」

 グザヴィエは知っていた。祖父もまた、父に同様の言葉をかけていたことを。

 知らない振りは、もうできない。

 かくして、史上最悪の誕生日は、最低の人生と共に幕を開けた。


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