内海郁/うみうし

こんにちは。創作小説やTRPGシナリオを書いています。

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  • 内海のつぶやき

    内海のつぶやきまとめです。

  • ペンドラゴンの騎士

    20世紀初頭英国。この国では国家治安や文明の発展に尽力する公的組織『ペンドラゴン十三騎士団』が存在していた。 これは、彼等の活躍や苦悩、そして水面下の激情を描く物語。 ・・・・・・・・・・ 本作は、ファンタジー作品群【魔書シリーズ】の中の一作となります。 単体でも楽しめますが、他作品を読むことによって、より広い魔書の世界を楽しむことが出来ます。

  • 花と散る

    魔性の女 それは、無意識に人の人生を狂わせ堕としていく運命の女。ファムファタル。 そんな魔性をもつ女たちに焦点を当てた短編集。

  • チャイナブルーの狂騒

  • 月夜のノクターン

    内海郁のオリジナルファンタジー小説『月夜のノクターン』です。

記事一覧

コミティア148参加のお知らせ

!おしらせ! COMITIA148、「うみうし海底図書館」のスペースを頂けることとなりました! やった~~~~!!!  今回は魔書シリーズ新刊を2冊引っ提げて行きます。既刊…

第三話/青年ソドム④【呪いの箱庭】

〈17/血と呪い〉  コツコツと、音が鳴る。ルノー、そしてグザヴィエが席を離れてから暫く経過した。もう二人とも帰ってきてもおかしくない時間帯であるのに。  イヴは…

第三話/青年ソドム③【呪いの箱庭】

〈16/混濁〉 「……」  ここは、どこだろうか。  暗くおぼろげな意識の中、グザヴィエは目を覚ます。自分は何故ここにいるのか、今まで何をしていたのか、不思議と記…

第三話/青年ソドム②【呪いの箱庭】

〈13/愛を喰らう〉  荒い呼吸音と、じっとりとした空気のなか、ルノーはすぐ目の前に横たわるグザヴィエを、呆然と見下ろす。目眩でぼやける視界のなか、無造作に床へ広…

第三話/青年ソドム①【呪いの箱庭】

〈12/傷のありか〉  ルノーは跳ねるように、家の階段を一段飛ばしで駆け下りる。今日は不思議と体が軽い。  夏の暑さなど気にも留めず、ショーウィンドウ越しに悩みに…

第二話/無花果の葉は枯れた⑤【呪いの箱庭】

〈10/錆〉 入学してからおおよそ、1年と半年が経過した。6月の末、もうすぐ夏休みにさしかかろうとするこの時、グザヴィエは学院から渡された二枚の紙を握りしめ、頭を抱…

第二話/無花果の葉は枯れた④【呪いの箱庭】

〈9/祈り〉 「ねえ、グザヴィエ」  カフェ照りの喧騒の中でも、イヴの芯ある声は良く通る。なんだ、と正面の席に座る彼女の顔を見やると、不満たっぷりの視線を向けて…

第二話/無花果の葉は枯れた③【呪いの箱庭】

〈7/情動〉  埃と黴の匂いに包まれる、廃校舎の一室。若き命溢れる華々しい外界から隔絶されたその空間に二人はいた。  ふたり。そう、たった二人きり。  肩に感じ…

第二話/無花果の葉は枯れた②【呪いの箱庭】

〈3/稲穂色の君〉 「坊ちゃん、坊ちゃん!」  ドスドスとけたたましい足音が、グザヴィエの自室に入ってくる。彼が思春期真っ盛りの青少年であることなどもお構いなし…

第二話/無花果の葉は枯れた①【呪いの箱庭】

〈1/レイ家の呪い〉 「レイ家の血を引く物は皆、〈獣の呪い〉をその身に宿す」  父から告げられた真実に、グザヴィエはぎこちなく微笑む。幼き彼は父の口から語られる…

第一話/白鳥のワルツ⑤【呪いの箱庭】

〈7/一時の風〉 「えぇと、だからして。〈獣〉の血を引き継ぐ者には、魔術師でありながら〈獣〉と特製を引き継ぐ者が現れる。これは極めて稀な事例であるが……」 教授…

第一話/白鳥のワルツ④【呪いの箱庭】

〈6/それは、ワルツのように〉  偶然にも今日の授業は自習学習となった。どうやら教授が退っ引きならない理由で、講義を欠席する事態に陥ったらしい。応急処置として出…

第一話/白鳥のワルツ③【呪いの箱庭】

〈5/邂逅〉  昔々、フランスを救ったとある異端の騎士がいた。  百年戦争の時代、フランスは未曾有の危機に見舞われていた。強敵、イングランドによる襲撃を受けてい…

第一話/白鳥のワルツ②【呪いの箱庭】

〈4/白鳥の少年〉 「皆さんご存じの通り、獣の病の罹患者の体は加工を施すことによって魔書になります。生産された魔書の特製は、素体の性質、作り手となった装幀師の実…

第一話/白鳥のワルツ①【呪いの箱庭】

〈2/芽吹き〉  生まれて初めて袖を通す、真っ新のシャツ。固いボタン。流行り柄のタイ。そして、ほんの少し草臥れたジャケット。一つ一つ身に纏う度に、ルノーの胸の鼓…

第四話/獅子の心臓⑥【ペンドラゴンの騎士】

六章/暁  一九二〇年、九月。穏やかな潮風の吹くその日、テンビー=ペンドラゴン城の前にはロンドン行きの馬車が停まっていた。  その乗客であるリュザールは、未だ自…

コミティア148参加のお知らせ

!おしらせ! COMITIA148、「うみうし海底図書館」のスペースを頂けることとなりました! やった~~~~!!!
 今回は魔書シリーズ新刊を2冊引っ提げて行きます。既刊もたくさんご用意がありますので、ぜひともいらしてください。
 スペースは東1そ11Aとなります!

!新刊!「ペンドラゴンの騎士Ⅱ」

▽概要
 舞台は魔書世界英国。「騎士」と呼ばれる国家守護機関と、魔書をめぐる短編集。Ⅰの続刊

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第三話/青年ソドム④【呪いの箱庭】

第三話/青年ソドム④【呪いの箱庭】

〈17/血と呪い〉

 コツコツと、音が鳴る。ルノー、そしてグザヴィエが席を離れてから暫く経過した。もう二人とも帰ってきてもおかしくない時間帯であるのに。

 イヴはほっと胸をなで下ろす。恐らく、二人は時間を取れたに違いない。お膳立ては済ませた、後は当人たちで話し合ってくれれば、と考える。

 だが、ベルナールを見ると冷や汗を滑らせながら、挙動不審に周囲を見渡している。先ほどから鳴るコツコツという

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第三話/青年ソドム③【呪いの箱庭】

第三話/青年ソドム③【呪いの箱庭】

〈16/混濁〉

「……」

 ここは、どこだろうか。

 暗くおぼろげな意識の中、グザヴィエは目を覚ます。自分は何故ここにいるのか、今まで何をしていたのか、不思議と記憶にない。夢でも見ているのだろうか。そう思った、次の瞬間だった。

「グザヴィエ」

 どこかで自分を呼ぶ声がする。なんだ?どこだ?わからない。鼓膜を震わせる音も、視界に入る姿もどこにもない、言うなれば意思が、誰かの意思が直接脳に響

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第三話/青年ソドム②【呪いの箱庭】

第三話/青年ソドム②【呪いの箱庭】

〈13/愛を喰らう〉

 荒い呼吸音と、じっとりとした空気のなか、ルノーはすぐ目の前に横たわるグザヴィエを、呆然と見下ろす。目眩でぼやける視界のなか、無造作に床へ広がる色素の薄い柔らかな髪に、赤い斑点が散らばっているのが見えた。

 嫌でも入ってくる刺さるような鉄の匂いは、血。

 生きている。

 それだけが解る呼吸音に安堵し、ルノーは自分の首に触れた。生温く、さらりとした液体が指先を染める。

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第三話/青年ソドム①【呪いの箱庭】

第三話/青年ソドム①【呪いの箱庭】

〈12/傷のありか〉

 ルノーは跳ねるように、家の階段を一段飛ばしで駆け下りる。今日は不思議と体が軽い。

 夏の暑さなど気にも留めず、ショーウィンドウ越しに悩みに悩んだ装いに彼の母は「あらまあ」と頬杖をついた。

「ルノーったら。随分とめかし込んで何処か行くのかい」

 友達の家!

 いつになくはつらつとした声に、母親は目を細める。

「お友達って、お世話になっているガルニエ様のお宅の」

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第二話/無花果の葉は枯れた⑤【呪いの箱庭】

第二話/無花果の葉は枯れた⑤【呪いの箱庭】

〈10/錆〉

入学してからおおよそ、1年と半年が経過した。6月の末、もうすぐ夏休みにさしかかろうとするこの時、グザヴィエは学院から渡された二枚の紙を握りしめ、頭を抱えていた。

 その表題は『進路希望及び、次年度の授業選択希望票』、『血液詳細検査案内書』。前者は、言うまでも無く、今後の進路とそれに準じた科目を記入するための書類。後者は、魔術師としての適性を生体基準で測定するための指令書。成人し、

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第二話/無花果の葉は枯れた④【呪いの箱庭】

第二話/無花果の葉は枯れた④【呪いの箱庭】

〈9/祈り〉

「ねえ、グザヴィエ」

 カフェ照りの喧騒の中でも、イヴの芯ある声は良く通る。なんだ、と正面の席に座る彼女の顔を見やると、不満たっぷりの視線を向けてきていた。

 何事か、と思ったが彼女は恐らく、グザヴィエが勉強せず小説ばかり読んでいるのが気に食わないのだろう。流行の恋愛小説を読むなら、教本の項目一つ覚えなさい。きっとそう言うに違いない。グザヴィエは鼻で笑い、からかい混じりに返事す

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第二話/無花果の葉は枯れた③【呪いの箱庭】

第二話/無花果の葉は枯れた③【呪いの箱庭】

〈7/情動〉

 埃と黴の匂いに包まれる、廃校舎の一室。若き命溢れる華々しい外界から隔絶されたその空間に二人はいた。

 ふたり。そう、たった二人きり。

 肩に感じる僅かな重みに、心が満たされる。

 つい先ほど、学院の不良集団に目をつけられ、暴行を受けていたルノーを助け出した。随分とひどくされたようで、全身は痣だらけ。目を背けたくなるほどの傷を負ってしまっていた。

 もし、廊下での会話の直後

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第二話/無花果の葉は枯れた②【呪いの箱庭】

第二話/無花果の葉は枯れた②【呪いの箱庭】

〈3/稲穂色の君〉

「坊ちゃん、坊ちゃん!」

 ドスドスとけたたましい足音が、グザヴィエの自室に入ってくる。彼が思春期真っ盛りの青少年であることなどもお構いなしに。

「朝ですよ、今日こそ学校へ行きましょう。さあさあ支度なさって!」

 開かれるカーテンから差し込む日差しと、小太りなメイドの声で目を覚ました。彼女の名をマリアム。グザヴィエがまだ赤子だった時からレイ家に使える、たった1人の使用人

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第二話/無花果の葉は枯れた①【呪いの箱庭】

第二話/無花果の葉は枯れた①【呪いの箱庭】

〈1/レイ家の呪い〉

「レイ家の血を引く物は皆、〈獣の呪い〉をその身に宿す」

 父から告げられた真実に、グザヴィエはぎこちなく微笑む。幼き彼は父の口から語られる真実を、もう既に知っていた。

 ああ、知ってるよ。

 そう言い放つには、リビングの空気は張り詰め過ぎていた。父と母は申し訳なさそうに俯き、メイドは眉1つ動かさず、来る食事の時間へ向けて支度を整えていた。

 両者の間に存在する決定的

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第一話/白鳥のワルツ⑤【呪いの箱庭】

第一話/白鳥のワルツ⑤【呪いの箱庭】

〈7/一時の風〉

「えぇと、だからして。〈獣〉の血を引き継ぐ者には、魔術師でありながら〈獣〉と特製を引き継ぐ者が現れる。これは極めて稀な事例であるが……」

教授の言葉を遮るように、終礼が鳴った。生徒たちはそそくさと教材を片付け、各々席を立っていく。ルノーもまた、その一人だった。

 足下に差し出された爪先を軽々と飛び越え、教室を出る。心地よい初秋の風を凪ぎながら、彼の言う集合場所を目指した。

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第一話/白鳥のワルツ④【呪いの箱庭】

第一話/白鳥のワルツ④【呪いの箱庭】

〈6/それは、ワルツのように〉

 偶然にも今日の授業は自習学習となった。どうやら教授が退っ引きならない理由で、講義を欠席する事態に陥ったらしい。応急処置として出された課題は簡単なテストであり、提出さえすれば出席扱いになるというもの。喜んだ学生達はさっさと課題を片付け、教室を出て行ってしまった。

 そんな中、熱心に机へ向かう生徒が二人。ルノーとユーゴだった。勿論、彼らはとっくに課題を済ませており

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第一話/白鳥のワルツ③【呪いの箱庭】

第一話/白鳥のワルツ③【呪いの箱庭】

〈5/邂逅〉

 昔々、フランスを救ったとある異端の騎士がいた。

 百年戦争の時代、フランスは未曾有の危機に見舞われていた。強敵、イングランドによる襲撃を受けていたのだ。フランスの民は飢えと暴力に怯え苦しみ、城は陥落していく村々に戦慄した。

 ああ、滅びは目前だ。誰もが思ったその時。彼等は姿を現した。

 天啓を授かりし戦乙女と、その守護騎士だ。彼らは一騎当千の武勇をもって戦場を駆け抜け、囚わ

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第一話/白鳥のワルツ②【呪いの箱庭】

第一話/白鳥のワルツ②【呪いの箱庭】

〈4/白鳥の少年〉

「皆さんご存じの通り、獣の病の罹患者の体は加工を施すことによって魔書になります。生産された魔書の特製は、素体の性質、作り手となった装幀師の実力、及び使用した魔術式など様々な要因が絡み合って決まります。過去に一つの素体を分け合い二人の装蹄師がそれぞれの魔書を生産した結果、全く異なる性質の魔書が生まれたこともあり……」

 教授は淡々と授業を進め、まるで活版印刷かのように整った字

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第一話/白鳥のワルツ①【呪いの箱庭】

第一話/白鳥のワルツ①【呪いの箱庭】

〈2/芽吹き〉

 生まれて初めて袖を通す、真っ新のシャツ。固いボタン。流行り柄のタイ。そして、ほんの少し草臥れたジャケット。一つ一つ身に纏う度に、ルノーの胸の鼓動は高まっていく。

 嗅ぎ慣れない整髪料の香りに戸惑いながら、胸元に一つ、紋章を留める。
 真新しい、百合と本を模した小さな紋章。誇らしげに輝くそれに、思わず頬が熱くなる。

 ああ、ついに。今日ついに。

 夢見た日々が、始まるのだ。

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第四話/獅子の心臓⑥【ペンドラゴンの騎士】

第四話/獅子の心臓⑥【ペンドラゴンの騎士】

六章/暁

 一九二〇年、九月。穏やかな潮風の吹くその日、テンビー=ペンドラゴン城の前にはロンドン行きの馬車が停まっていた。
 その乗客であるリュザールは、未だ自室の中。伸びた髪に、しっかりと香油を馴染ませている。あの日から伸ばしていた髪は腰まで届き、分隊の誰よりも艶やかな光沢を持つ。ここまで美しくなったのは、洒落もの好きのトレイシーに、毎日のように櫛で整えられていたおかげだろう。
 机の上に並べ

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