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モーリス・ルヴェル『夜鳥』

モーリス・ルヴェル『夜鳥 (よどり)』
Maurice Level “Les Oiseaux de Nuit”
田中早苗 訳


モーリス・ルヴェルは、フランスはパリの作家で1875年生まれ1926年没とある。
よく比較されるらしい対象はエドガー・アラン・ポオやモーパッサンなどで、それこそ江戸川乱歩にも近い感触がある。

短編よりショートショートに近い分量ながら、各々に個性が刻印された31篇を集める。
1928年刊の訳文を元にしているが、現代仮名遣いに統一されていて丁寧な振り仮名もある。何より、描写の巧さを的確に掬い取っている翻訳で読みやすい。


まず目につくのは陰鬱さ、人間の暗部を提示させる底意地の悪さ。
皮肉すぎる運命、耐え難い寂しさ、猜疑心から来る怖れ。
本質的な悲しさみたいなものが横たわっており、感嘆以上に呆然とさせられる。

そこは外せない特徴ではあるものの、読み進めると意外な作風の幅広さもあり、その方面はより楽しめた。
育ての親への恩義で揺れる「父」や、戦争で生き残った者たちが家族を形成する「二人の母親」は人情に訴えかけてくる。
芸術家の複雑な心境を描く「蕩児ミロン」、困窮による思い込みから自滅する「無駄骨」、欲をかき自らの策に溺れる「集金掛」、もし大富豪だったら本当はどう振る舞いたかったかを実践する「幻想」など、金銭に狂わされた話も多い。
また、速度感ある筆致に圧倒される「十時五十分の急行」、奇抜な着想で謎を残す「ペルゴレーズ街の殺人事件」も独特の奇妙な味わい。

文学史の中心に据えられるような人ではないのかもしれないが、この残酷なまでの冷徹な観察眼は捨て難い。



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