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AI時代の教育に必要なのは礼儀?

前々回の「AIと教育」がそれなりに多く読まれたようなので、またタイトルにAIを入れちゃったりしていますが、、
今回は5日前、4月18日に全国学力・学習状況調査が行われているので、それを少し別角度から書いてみたいと思います。

全国学力・学習状況調査とは?

そもそも「全国学力・学習状況調査」が何かを最初に。これ読んでいる方の多くはご存知かと思うので、その場合は読み飛ばしていただけたらと。

みんな大好きChatGPTにざっくり要約を箇条書きしてもらうと

  • 対象:全国の小学校、中学校の学力・学習状況把握するもの

  • 目的:学校教育の質向上、教育政策策定、教育実践改善に役立てる

  • 調査内容:筆記試験、アンケート調査

  • 対象教科:国語、数学、理科、社会、英語等

  • 結果利用:教育水準分析、教育改善策検討のデータとして活用

とのこと。上記には筆記試験とアンケート調査とありますが、英語では「聞くこと(ヒアリング)」「話すこと(スピーキング)」もあるので、必ずしも筆記だけではないですね。
ちなみに今年は「話すこと」をMEXCBTというオンラインシステムを使ってやっていることが話題にもなっています。

全国学力学習状況調査の問題や質問項目、結果は国立教育政策所のWEBで公開されていますので、詳細見たい方は以下を見ていただけたらと。

生活習慣や学校環境に関する質問紙調査とは?

全国学調は、いわゆる学力テスト(教科に関する調査)とアンケート調査(質問紙調査)の2つに大別されます。

一般に報道されるのは、学力テスト(教科に関する調査)の都道府県別の点数比較とかですが、個人的にはアンケート調査(質問紙調査)の方が面白いのでは、と思っていたりします。
どんなアンケートをしているのかと言うと、例えば以下みたいなことです。

国立教育政策研究所「令和4年度 全国学力・学習状況調査の結果」より

質問紙は学校として答える「学校質問紙」と児童生徒が答える「児童生徒質問紙」があります。
学校での教育活動や家庭での状況など、学びに関連した状況を「学校」と「児童生徒本人」の2つの視点で回答してもらうものです。
例えば上記画像だと「児童生徒が工夫して自分の考えが伝わるよう発言や発表ができているか」に対し「学校はどんどん良くなっていると感じているのだな」という経年変化が分かってり、「学校側はそう思っていても児童生徒側は変化ないな」と大人と子供の認識の差が見えたりと、なかなか興味深い結果が見えてきます。

質問紙調査には望ましさが表れる

少し穿った見方ですが、こういう質問紙って望ましさが表現されていると感じており、今現在での「どんな児童生徒・学校が望ましいのか」が表れていると思っています。

例えば中学校に対し、英語科の指導方法を聞いている部分。

「令和5年度 中学校 学校質問紙」より

それぞれの項目を「よく行った」となるような英語の授業をしているのが「望ましい英語科の授業」と言えそうです。

質問紙は「学習状況」を聞いているもので、回答する対象は校長と児童生徒です。質問内容を大別すると「学校運営」「先生の指導・評価」「児童生徒」「家庭環境」を聞いているように見えています。
つまりは質問紙を見ると「望ましい学校運営」「望ましい先生の指導・評価」「望ましい児童生徒」「望ましい家庭環境」が見えるのでは、と。
※質問紙の構造からそういうものなんだろうな、という個人の見解です

欲しがり過ぎの児童生徒像?

例えば小学校向けの学校質問紙の中から、6年生の児童について聞いている項目は以下になります。

  • 熱意を持って勉強している

  • 授業中の私語が少なく、落ち着いている

  • 礼儀正しい

  • 授業では、課題の解決に向けて、自分で考え、自分から取り組むことができている

  • 授業において、自らの考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組立てなどを工夫して、発言や発表を行うことができている

  • 学級やグループでの話合いなどの活動で、自分の考えを相手にしっかりと伝えることができている

  • 学級やグループでの話合いなどの活動で、自分の考えを深めたり、 広げたりすることができている

  • 学級やグループでの話合いなどの活動で、相手の考えを最後まで聞くことができている

最初の3つが生徒指導観点、残りが授業等の観点です。

落ち着いて慎み深く、それでいて勉強に熱意があって、しっかりと自分の意見が言えて、粘り強く相手の言うことも聞ける。

いやはや、ちょっと欲しがり過ぎでは苦笑
オタクに優しい陽キャのギャルぐらいの欲しがりぶりです(そういう人もいるでしょうけど)
少なくとも自分は、生徒指導観点の最初の3つはどれもダメでしたね…。それは今もか。

自分らしく学べる社会に繋がるのか

真面目な話、注意欠如・多動症(ADHD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)の子なんかは、この望ましさを網羅して実現するのは相当な困難を要するはずです。
それって「自分らしい」と言えるものなのか、という疑念を個人的には感じてしまいます。

今の現実社会がこれらを求めている、というのはその通りなのだと思います。一方で、私個人が望ましいと思っているのは「誰もが自分らしく学べる社会」
個人的には、生まれ持った特性を活かし、自由で幸福に生きられる社会であって欲しいものです。

社会を形作るのは人であり、その人を形作るのが教育であるはず。
であれば、今の現実社会が求めるものが指標となるのではなく、将来の社会が求めるものを指標にするべきなのでは、と思ってしまいます。
重要指標=KPI(Key Performance Indicator)設定の肝は、先行指標=将来を見据えて先に動くものを指標なので。

これからは礼儀正しさが求められる?

ちなみに生徒指導観点の「礼儀正しい」は今年から学校質問紙に加わった項目です。

「礼儀」の本質的な意味合いは、相手への配慮や気配りなのだと思うので、ある意味で苫野先生が言っている公教育の本質である「自由の相互承認」に合致するものなのだとは思います。

一方で「この子は礼儀正しいか?」という問いを立てられたとき、それが相手への配慮や気配りを聞く問いになるかと言うと、もっと上下関係に基づく儀礼的な所作や態度の有無を問う質問になってしまいそうに思えます。

日本における礼儀の教育:中世から近世において(柴崎直人 2017)によると、中世では封建社会による秩序として用いられ、近代では絶対的な国家体制のツールとして用いられています。
「礼」を示した孔子の儒教思想も、元は宗教儀礼からきて徳の高い君主を求めるものだと理解していますが、「礼」の上下関係ルールを国家統治のツールとして用いたことで、中国社会のOSになっていき、それが日本社会のOSにもなっているのだとも理解しています(すごいよ孔子、ビル・ゲイツの100倍すごい)。
この辺りも今の社会情勢を見ていたりすると、穿った見方かもですがちょっと心配になってしまいますね。

礼儀は社会の潤滑油?オーバーヘッド?

松下幸之助さん曰く、礼儀作法は社会の潤滑油。

一方で、中身を覆う包装にもなりえ、通信で言うとオーバヘッドであり、オーバーヘッドが多いとペイロードが下がったりします(唐突に通信会社帰属感を出して、NTTの人とかには分かる書き方してみました)。

サッカーの場合、ピッチ上では敬語を使わないということも良く言われます。(「試合中に敬語使ったらぶん殴る」 松田直樹とマリノス黄金時代を生きた3人が語る素顔 | THE ANSWER (the-ans.jp)
敬語使ったらぶん殴られるのは、ある意味で逆戻りしている感ありますが苦笑
サッカーの場合は瞬時の指示や実行が必要とされる故に、包装不要で中身のやりとりが求められているのかな、と。
今の社会も強烈に速度を求めるようになってきています。サッカーのピッチだけでもないな、と。

AI時代での礼儀とは

1か月ほど前に、日本でDXが難しい理由として以下のようなことを書いていました。

ドライになりきれない日本人は、ボヤっとしている(失礼)長谷川等伯の松林図屏風が好き。DXはドライな方が進みやすいが、逆張りだとウェットなDXを実現できたときこそ勝ち筋があるのでは、と。

このウェットについても、礼儀の本質的な部分=相手への配慮や気配りだとすると、AI時代にこそ勝負所になる可能性があります。
一方で、本質を見ず思考停止した儀式だとすると、単に生産性を下げる要因になりかねません。
儀式的な所作や態度には、当然ながら意味があるが、その本質を理解することを辞めてしまったら、価値はずっと低いはずです。

その意味で、学校質問紙で聞いている「礼儀正しい」はどちらになりえるか。
こんな急激な変化の時代だからこそ、この質問に対しても立ち戻って考えてみたいですし、これを聞くことによる「生徒指導の望ましさ」への影響もちゃんと考えていきたいと、個人的には思っています。

おわりに

なんか全国学調の話と言いつつ、全然観点違うこと書いちゃった気もしますが、、学力テストと思われがちの全国学力・学習状況調査ですが、こんな見方もあるんだよ、というのになればと思っています。

再度になりますが、以下で過去年度も含めて、どんな問題や質問が出ているのか、その結果の分析なんかが公表されています。

テストと質問紙を組み合わせた研究だと、耳塚先生のものとかも有名だと思うので、興味がある方は見てみたらと思ったりします。

最近長すぎで読みづらいものが多かったので、今日はこの辺で。
といっても4,000字近くなってしまった…。

ではまたー。

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