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【JAPAN e-Portfolio】運営取消理由の"タテマエ?"から見えるとても大事な「学びのデータは誰のもの」

うぅ、最近全然投稿できていないです...。
夏休みでのんびりしていた!という訳ではなく、どちらかと言うと休みがほぼ取れず、、なんか出だしでこの手の話が多くなっていますので、今後は控えようかな。

今回は最近教育業界を騒がせていた、JAPAN e-Portfolioの認定取消について書いてみたいと思います。

そもそもJAPAN e-Portfolioとは?

最初にJAPAN e-Portfolioとは何か。高大接続のことも補足しなくちゃいけないので、ここからその解説を長く書いてしまっています。
そんなの知っているよ、という人も多いと思いますので、そういった方はこちらをクリックしてすっ飛ばしてもらえたらと。

高大接続ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」は、高校eポートフォリオ、大学出願ポータルサイト。高校生が学校内外の活動をeポートフォリオとして記録し、高校生が入力した記録を高等学校の先生が確認できる。
利用する高校生は、学校の授業や行事、部活動などでの学びや自身で取得した資格・検定、学校以外の活動成果や学びを記録し、積み上げていくことで、eポートフォリオとして情報が蓄積されるとともに、このデータを大学入試時に利用できる。高校生活の中で蓄積した「学びのデータ」を、個別大学のインターネット出願システムに連携し、出願時に利用することができる。

だそうです。ありがとうございます、ReseMamさん。

学習指導要領の改訂のなかで「学力の3要素」が規定され、それが大学入試制度改革に反映されています。
以下は文部科学省の「大学入試改革の状況について」より。

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このうち「③ 主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価する主たる機能の1つとして「JAPAN e-Portfolio」が立ち上がっています。
③が最も「学校」と「社会」を繋ぐためのポイントになり得るはずで、評価を変えれば学びが変わるという視点でみると個人的には相当重要な部分だと感じています。

なのに、、なぜ国の事業を踏まえて構築された「JAPAN e-Portfolio」が運営取消になるのか。

高大接続改革はズタズタになっている

高大接続改革は皆さんご存じの通り、「JAPAN e-Portfolio」の運営取消だけでなく、相当ズタズタになっている印象です。
・一発試験での選抜ではなく試験の複数回実施が掲げられていたが運用上の理由で断念
・元は2020年からの予定だったCBTも2024年に(このままだと2024も怪しい)
・英語民間試験導入も見送り
・学力3要素評価の②の肝だった記述式も見送り
という状況です。

理念は崇高で強度も高いが、運用がうまくいかない。
我が社も似たようなところがありますが、日本全体に蔓延る病状が凝縮して体現している感があります。はぁ、辛い...。

そんな高大接続改革ですが、「1台27万円はぼったくりなのか?」みたいなこと書いているので、自分に求められているのは内部事情を解説するような以下みたいな記事なのかもですが、

高大接続はそれほど詳しくないです。「JAPAN e-Portfolio運用不許可に関わる見解」とか読むと、なんとも言えない気分になってきますし。
国実証事業の延長でシステムを維持していくのでありながら、完全民営状態にはせず、非営利を強制し認可制。それでいて国側の大学への関与が弱い、となるとこの流れは必然なのかもしれません。

運営取消理由は「資力」と「セキュリティ」

世間的な話題では、運営取消の理由は「高大接続改革への逆風」や「運営に対する疑念」と解説されていますが、文部科学省が公表した取消の理由は上記のようなものではありません。
気になったら1次情報に遡るというのが私の性質なので、公表している理由を確認してみると以下です(世間的には取消の「タテマエ」と捉えている人が多いかもですが)。

① 運営許可要件第3の3(1)及び(2)の要件に関し、令和元年度決算報告及び事業報告の確認を行ったが、債務超過に陥っており、今後の事業運営に必要な資産を有しているとは認められない。
② 運営許可要件第3の3(3)及び附則2項の要件に関し、いずれの取得も確認できない。
③ 前回の審査の結果、①及び②の要件を満たさない場合には、運営許可を取り消す場合があることを前提に、「許可(条件付き)」とされていたところであるが、上記①及び②を踏まえ、運営許可を取り消すこととする。

③は①と②がダメだったから取消よ、と言っているので理由は①と②です。

①は債務超過とその改善がみられないこと、です。
でも①って2019年度決算書を見ると「元々黒字化は無理じゃね」と思えるような感じです。勝手なことを書きますが、運営側の民間事業者が「泣いて」トントンにしたって感じに見えます。

個人的に注目したのは②の部分です。
この具体的な基準は運営許可要件を見ないと分からないので見てみると

「情報信託機能の認定に係る指針」に基づいた「情報銀行」の認定を受け 、又は認定を受ける予定があること。

とあります。
予定の場合は「プライバシーマークかISMS認証取得しておけよ」と後述されていますが、結局は「情報銀行」の認定が必要になるということです。

「情報銀行」とは?

では「JAPAN e-Portfolio」の運営認定の条件となっている「情報銀行」とは何か。
内閣官房IT総合戦略室の「AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ中間とりまとめの概要」から定義と図を引用させていただくと

情報銀行(情報利用信用銀行)とは、個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業。

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銀行が個人からお金を預かり、その預金を運用して利子を還元するのに対し、情報銀行は個人から情報を預かり、その情報を運用して便益を還元する、という感じです。
時は金なり、ならぬ個人情報は金なり、でしょうか。

「JAPAN e-Portfolio」の例に沿うと、高校生の「学校の授業や行事、部活動などでの学びや自身で取得した資格・検定、学校以外の活動成果や学びを記録」の情報を預り、その情報を本人が希望する大学に提供し、大学入試に選抜に参加できる(大学の基準を越えれば合致良ければ合格)=便益が得られる、という構造です。

この情報銀行の最重要ポイントは、個人情報が受け渡されるときに本人の同意が必要なこと、です。
つまりは情報は個人のものであるということ。
当たり前のことかもですがとても重要で、かつ学校教育ではある意味でおざなりになっている部分です。

そういった運用をしっかりやるには、一定のルールとセキュリティをしっかり遵守することが求められるため、銀行を営むのに認可が必要なように、情報銀行を営むための基準として「情報信託機能の認定に係る指針」が策定され、情報銀行の認定が行われているのです。

学校教育におけるデータは誰のものか?は結構難しい

「JAPAN e-Portfolio」が取り扱うデータを改めて見てみると

高校生が学校内外の活動をeポートフォリオとして記録し、高校生が入力した記録を高等学校の先生が確認できる。
利用する高校生は、学校の授業や行事、部活動などでの学びや自身で取得した資格・検定、学校以外の活動成果や学びを記録し、積み上げていくことで、eポートフォリオとして情報が蓄積される

要は「高校生自身が入力する学校内外での活動記録」でしょうか。授業や行事も範囲にはなっていますが、教育課程外が主で、かつ本人が記録した情報。
これは「学習者のもの」と言いやすく、まさに情報銀行の対象にしやすいように思います。

「データは誰のもの」のことを書いていますが、厳密には「データ」は無対物なので民法上の所有権は存在しない、という定義がされています。ここでいう「データは誰のもの」は利用権限と利用権限を設定できる者のことを書いています。詳細気になる方は「データの利用権限に関する契約ガイドライン 」を確認してみてはどうでしょうか。

一方で、学校での教育課程における学習データ(スタディログ)は、学習者に利用権限があるのは当然だと思いますが、教職員も指導や支援で活用することは当たり前のような気がします。それを拒絶されては教育活動はうまく回りません。
ただ、それはどこまで許されるのか。GIGAスクールでは情報端末の持ち帰りを前提にしようとしていますが、自宅でブラウジングしているデータを先生や教育委員会が見られてしまうのは良いことなのか。

これまでは利用者認証(学習者本人をID等で特定する)がない学習システムを使っていたため、パーソナルデータに相当するデジタルでの学習データは少なかったはずです。
一方で、GIGAスクール後は学習者にIDが付与されるのが当たり前であり、パーソナルデータ=学習データがどんどん蓄積されることになります。
そのパーソナルデータの保管・管理が自治体・学校側になっているのは、学習者に利用権限があるべき状況とは矛盾しているようにも見えます。
他にも、教職員による助言や評価が追記されている学習データの権利はどうなるのか、先生との共同著作?それとも法人著作?などなど。

ただ、学習者本人に学習データの利用権限(データを自分の管理領域に保存したり、他者に提供する権限を含む)がない、ということはあり得ないはずです。
直ちには難しい面もありますが、将来は必ず学習者本人(または代理となる保護者)が学習データを管理できる状態にしていくことが求められるはずです。
この辺は後付けでは仕掛けを作るのはとても難しく、システムの根底にあるアーキテクチャ(構造)で上記を意識しているか、を見極めていく必要が出てくると思っています。

その意味で、今回の「JAPAN e-Portfolio」の認定取消の理由に、情報銀行の認定が入っていたことは結構重要で、今後のターニングポイントになるのでは、と感じてこの記事を書いてみました。

そもそもeポートフォリオは入試のためだけじゃない

最後に本記事の趣旨とは違いますが、eポートフォリオについて自分が思っていることを。
今回の「JAPAN e-Portfolio」については、大学入試のためのeポートフォリオという話に終始していますが、個人的にはeポートフォリオが大学入試に使える、というのは副次的な効用(またはマネタイズの方法)だと思っています。

eポートフォリオの本質は、自分の活動をアウトプットすることを通じた学びであり、記録を本人が振り返る(リフレクション)ことではないでしょうか。その記録の一部(特に目立つ部分)は大学入試に使える、というもののはずです。
その意味で、大学入試どうこうの文脈だけでeポートフォリオを辞める・辞めないという構造自体が施策として誤っているのでは、と感じています。

OECD Education 2030においても

コンピテンシーを身に付けていく能力は,それ自体が見通し,行動,振り返り(Anticipation,Action,Reflection=AAR)の連続した過程を通じて学習されるべきものである。
振り返りの実践とは,決断したり,選択したり,行動する際に,これまで分かっていたことや想定したことから一歩引いて,状況を他の異なる視点から見直すことによって,客観的なスタンスをとることができる力である。

コンピテンシーを身に付けていくうえでの学びに、振り返り(リフレクション)は極めて重要な要素を占めています。
AARの学びを実現しやすくなるのが、デジタルでの記録を容易にし、振り返りを促しやすい環境=GIGAスクールでもある、と思っています。

おわりに・・・

なんか久々に書いたらすごく長くなってしまいました...。
しかも、高大接続改革の説明、情報銀行のこと、eポートフォリオへの持論、と内容が散漫になっていますね...。反省。

間が空くと鈍ってしまうので、今後はまた週次ぐらいで記事を書いていきたいと思います。
最近真面目なことばっか書いているので、コーンフレークとかギガブレイクみたいなことも書きたいっすね。

ではまたー。

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