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だからこの本は芥川賞なんだ。途方に暮れるよう、納得した

どうしよう。主人公の気持ちが分かってしまう。
読んだとき、とっさに思いました。

その本とは、こちら。

36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。

「いらっしゃいませー!!」
お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。

イギリスにて日本文学が流行しているそうで、特にこの「コンビニ人間」が読まれている。そんなニュースを知り、手に取りました。

芥川賞だから敬遠してたんです。きっとわたしには理解し得ない、純文学で。難解な日本語が並んでるに違いない。

ううん、勘違いでした。しごく読みやすい。当直の準備で慌しかったはずの昨日なのに、時間を作ってでも読みたいほど、先が気になる小説。厚さは薄めです。

読んでて清々しいのか。これがまた、全然。主人公は奇怪な感覚を持ち合わせてる。主人公自身も認識してるけど、何がどうあれば、正常なのかが分からない。マニュアルに準じることで、世の中の一般と己を合わせようとしています。

本人には全く悪気がない。自分が異質に区分されることも、なんとなく気づいてる。じゃあ、どうしたらいいのか。肝心な部分が抜け落ちたように、さっぱり見当がつかない。

どうかわたしと離れた価値観であれ。そう願う人物像のはずなのに、刺さってきて。主人公もわたしも、互いに普通の仲間入りを目指してる。

もしやわたしも、他者から見れば異分子なのかな。不安で胸がざわつく。

主人公とわたしの決定的に違うところは、他者へわかってもらおうとする衝動を持ってるか否か。主人公には焦りがなく、傍観してやり過ごしてもいて。「あー、これでどうも社会で言うところの“普通”らしい」。そんな風に眺めてる余裕がある。

対してわたしは、なんとしても分かってもらえる存在になろうて躍起。焦燥しかない。

「○○ができる、△△がわかる」、「ね?あなたと同じ側にいるよね? こんな感じで生きてていいよね?」
社会という名の外側にいる誰かに、私はこんなにも認めてもらおうとしてる。必要性を感じてもらおうとしてる。

うわっ。気づきたくなかった。でも、ある、持ってるよ。頭を抱えるように、自分の底にあった思いと対峙です。

わたし個人の感想は、モヤっとする本。モヤっとするから、何度も読み直し、その都度に抗いたい。ちゃうねん、わたしはちゃうねん。こんな人じゃない。

自分を奥底まで考える小説。だから芥川賞なんだ。ひとり納得してるのでした。

では また

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